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小さな組織での科学者/研究者の採用とマネジメントについて

科学研究は科学的には行えないということ

研究開発を組織でマネジメントする上で最も難しいことは、「科学研究というモノは科学的(非属人的)には行えない」というある意味では自己矛盾をしているような事実です。

つまり研究という行為はアート的であって、芸術作品、例えば絵画を一定の品質で一定のスピードで生産することは果たして可能であるか?という疑問に近いと考えています。もちろん中には「一定の教育を与え、一定の人材を集め、一定の期間を掛ければ必ず実現可能である」と考える方もいらっしゃるかもしれませんし、ここでいう「一定」のさすスケールが非常に大きなものであれば実際に実現可能であるかもしれません。

しかし、少なくとも一民間企業の中ではそういった統計則に依存するようなアプローチで挑むのはとても実用的とは言えない考え方です。

このような状況でディープテック系のスタートアップが着実に研究を進めていき、理想を実現するためにはどうすればいいのか、私なりの考えをまとめてみました。

優秀な人材の確保と活用

研究開発のキモは人材に始まり人材に終わります。仮にいろいろと不備のある組織や問題点だらけのプロジェクトであっても、ごく少数の天才によって解決されてしまうということは、実のところ良くあることなのです。そのくらい人材の質がプロジェクトの未来を左右します。

では、どのような方法で優秀な人材を

  • 判別
  • 採用
  • パフォーマンスを最大化

するのでしょうか?

研究者としての優秀さとは何か?

これは私個人の考えで明確なエビデンスが存在するものではありませんが、万能の人材というものは基本的にはおらず、特定の分野で非常に秀でている人間が別の部分に問題を抱えているということはむしろ普通なのです。

この際に重要なのが、自社の研究者にとって何が必要スキルで、そして何が不要であるか、を明確にしておくことです。要不要を分けずになんとなくで人を評価すると、結局一定の基準(評価者の個人的な好き嫌い)に収束し、それは例えば、「ある程度良い経歴と業務の経験があって、外見はそれなりによく、なんとなく感じがいい人」のような人物像になることになるでしょう。

こういった人物、つまり「あらゆる面で平均点以上な人」は誰からも好かれるため、大企業やその他採用力の強い組織との強烈な奪い合いになり、スタートアップに勝ち目はありませんし、仮に採用出来た所で研究者としての能力も全く保証されません。

大事なことは求めている人物像とそのスキルを明確にすることです。

必要な能力・スキル

では研究者に必要な能力は何でしょうか?これはどのような研究を行うかで全く変わってくるため一般化はできませんが弊社では機械学習と制御工学を中心に扱うため、以下のような能力を重視しています。

  • 数学力:大学学部3年生以上
  • 英語力:論文やライブラリのドキュメントを読める程度
  • 一般的な科学教養
  • 専門分野における深い知識
  • 必要最低限の協調性

さらに有名雑誌への論文の掲載などの研究者としての実績があれば非常に好ましいですが、分野や指導教員によってその難易度は大幅に変わるので、やはり純粋に知識の量を見るのが最も確実であると思われます。

ここまでで気づかれた方もいらっしゃるかもしれませんが、実は創造性に関する話を一切していません。なぜならば、創造性を客観的に評価することは不可能であるからと考えているからです。これから新しいことを生み出せるかどうかを実際に業務を遂行してもらう以外の方法で評価することはあきらめ、今までどれだけ専門知識の習得に努力してきたかのみを見ることにしているのです。

これらの能力は過去の研究実績のチェックと、面談の際に専門的な単語についての質問を行ったり、あるいは場合によっては院試レベルのペーパーテストを解いてもらうことで評価しています。

不要な能力・スキル

では弊社で研究者に求めるべきではないと考えている能力は何かというと、上記以外のすべてです。いわゆる一般的に言われている社会人としての適性やマナー、これらはあればベターですが、評価基準からはバッサリと切り落としてしまうことで大幅に候補者の数が増えることになります。

そして、これが最も大胆な決断かもしれませんが、エンジニアとしての実務経験も必要としていません。それは弊社の扱っているテーマが非常に数理的な要素が強いという面と、またその方面で高い能力を持っている人であればプログラミングスキルはすぐに上達するであろうという考え方が根底にあるからです。

求める条件の質は厳しくてもいいですが、数はなるべく減らすことが重要です。

優秀な人材の採用

優秀さを定義出来たら次は採用になります。ここで重要なのは、採用というのはこちらが来て欲しいと思っている人に対して「この会社で働いてもいいな」と思ってもらうことだということです。面談の前半で相手の能力を評価し、それが事前に設定していた基準を超えたのであれば後の残りの時間はひたすら面談者の方に入社のメリットを伝えられるように努力しています。

では優秀な研究者にとって、企業側が提供できるメリットはいったいどのようなものがあるのでしょうか?

  • 仕事の内容が技術的に面白い
  • 人の役に立つ仕事をしている
  • 自分の専門性が活かせる
  • 自分のアイデアがしっかりと検討され、いいものであれば採用される
  • 知識を共有する環境があり、スキルを伸ばせる
  • 働き方についての裁量が大きい
  • 労働環境が良い(PCのスペック、机の広さ、パーテーションの有無、等)
  • 給与の高さ

この辺りがすぐに挙げられる要素となるかと思います。

こういった環境をしっかりと用意して、それを面談中に相手にしっかりとアピールすることが非常に重要なポイントになってくると思います。(ただ、意外なことに給与に関しては低すぎなければそこまで気にしないという方も多いので、必ずしも無理をして破格の条件を提示しなくとも、それ以外の魅力をきちんと伝えることが出来れば十分な求心力を発揮します。)

パフォーマンスの最大化

入社後、研究者のパフォーマンスを最大化する方法は何でしょうか?

教育

基本的には、弊社では即戦力であるかどうかを採用基準としていないため、戦力になるまで長いと数か月のオーダーで辛抱強く教育を行う必要があります。

ただ、教育といっても何かセミナーを受けさせるといった形ではなく、ひたすら大量の書籍や参考文献、サンプルコードなどを渡して、自ら勉強を進めてもらうといった方針を取っています。研究者適性のある人は上から細かく指導を受けるよりかは大まかな目標だけ与えられて、自分で必要な知識をキャッチアップしていく方が最も効率的に学習できるからです。

雑務の軽減

アカデミアや大企業の研究所で特に多いのが、この雑務の多さです。膨大なメールや書類の量、説得しなければならない関係者の数、複雑で意味のないルール、こういった無駄な要素を極限まで減らすことが出来るのがスタートアップの数少ない強みです。

特に経費精算のルールはなるべくシンプルにし、必要なものがあれば速やかに購入できる状況を作っています。

業務の管理

業務フローではとにかく上からの管理を減らし、個々人の裁量を大きくすることが重要です。また心理的安全性も非常に重要な要素であるので、進捗について確認する時も「報告させる」のではなく「情報共有する」というスタンスを心がけています。「面倒な上司を説得しなければならない」というシチュエーションは生産性に最悪な影響をもたらすからです。

ただ、いくら優秀な人間が集まっていても経営層が組織としての方向性を決め、業務の方針レベルにまでブレイクダウンをしてそれを実際に業務を遂行する人間に正確に伝えることをしなければ、組織はあっという間に崩壊してしまいます。

足を引っ張るような管理はなるべく減らすべきではありますが、これはマネジメントしなくていいという理由にはならないことに気を付けなければなりません。マネージャーが全体を把握し、方向性を決めなければいつまでたってもプロジェクトは前進しないということは肝に銘じておくべきでしょう。

最後に

結局のところ私がこの記事で伝えたいことは、ディープテック系の企業を目指している以上、弊社ではあくまで研究者が中心であり、経営者や管理者はあくまで裏方に徹するというカルチャーにしたいと考えているということです。

そうでなければ革新的なことを成し遂げることはきっと不可能だと信じているからです。

この記事を読んで弊社に関心をお持ちいただけた方がいらっしゃったら、是非とも募集にエントリー頂ければ幸いです!

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