Wantedlyは、月間200万人が利用する国内最大のビジネスSNSです

This page is intended for users in Japan. Go to the page for users in United States.

Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

People

数時間で情報の賞味期限が切れる時代に、テレビでしかできないこと

NHK・デザインセンター服部竜馬さんの 仕事の流儀 (後篇)

2019/07/10

前篇で、広げるだけ手を広げながら手がける領域を拡張してきたと語った、NHKの”映像デザイナー”服部竜馬(はっとりりょうま)さん。役割を広げ続けた服部さんが行き着いた先のひとつが、2017年に放送された『#8月31日の夜に。』でした。番組プロデューサーからの依頼内容は「自殺を考えるような子たちの相談に生放送で答えたい、番組に届く声をプロジェクションマッピングでグラフィック表現できないか?」という大まかなもの。しかし、服部さんが詳しくヒアリングするうちに「ただごとではない番組だ」と思えてきたといいます。

後篇では服部さんが演出アイデアを考えた『#8月31日の夜に。』と番組企画をした『復活の日』の制作の裏側について伺いました。そして話は、これからテレビが行き着く先へと広がっていきます。

自殺を考える人に『自殺しないで』と伝えても響かない。そのとき、テレビは何ができるのか

10代の自殺者が一番多い8月31日の夜に放送するとは、つまり「生放送中に本当に死んでしまう人がいる」と服部さんは捉えます。「だから、ただカッコいい映像を流すだけでは絶対ダメじゃないかって。でも、ここで何か心に触れる表現ができれば本当に自殺をくい止めることができるかもしれない」。今まさに悩みに直面し、苦しむ人たちに関与できる本質的なものを作りたい。服部さんの演出アイデアはこの思いから始まりました。

──「ただごとではない」番組の演出アイデアを、どのように実現をしていったのですか。

「まず前提として説明しますと、『#8月31日の夜に。』は母体となる「ハートネットTV」という番組があります。この番組はさまざまな生きづらさを抱える方たち、例えば10代の自殺、不登校、引きこもり、セクシャルマイノリティーなどをテーマに扱う、通年で放送する非常に公共的な福祉番組です。そして『#8月31日の夜に。』を担当するプロデューサーやディレクターは、さまざまなジャンルの番組を担当する映像デザイナーとは違い、何年も何十年も、生きづらさを抱える当事者と向き合ってきたその道のプロフェッショナルです。

僕に業務依頼が届きヒアリングを重ねるうちに、制作陣から『生きづらさを抱える人たちが気持ちを共有できるプラットフォームを作りたい』という思いを伺いました。何年も当事者と向き合ってきて、ともすると取材相手が自殺したこともある。そんな制作陣が考えた末のできること。コンセプトはこれだと思いました。

『気持ちを共有できる場所』というコンセプトの核になる部分がくっきりしたので、僕はいかにそれを表現に落とし込むか? を考えました。『北風と太陽』ではないですが、自殺を考える人に『自殺しないで』と伝えても響かない、それよりはTwitterで検索すると見つかる『死にたい』といったリアルな声をとにかくいっぱい集め、『悩んでいる人はたくさんいる。だからあなただけが死ぬことはないんじゃない?』という、感情が逃げ込める場所を視覚的に表現できないか? と考えました。

そこから、タイポグラフィでステージ空間全体を包むというアイデアが生まれ、横浜DMM VR THEATERの透過スクリーンで実現させることにしたのです。SNS上にリアルに存在する言葉だけでパッケージされた空間の中で、出演するタレントさんがリアルタイムに、アバターとして表出される生きづらさを抱える人たちとオンラインでコミュニケーションをする演出となりました。もっとも僕1人で考えたわけではなく、インタラクティブ・アートディレクターの齋藤達也さんと一緒に形にしていったことではあります」

──私も放送を見たのですが、番組の最後を飾ったシンガーソングライターの大森靖子さんの『オリオン座』のライブが印象的でした。

「あのライブ演出も企画当初はありませんでした。制作が進み演出プランを煮詰めていくうえで感情にグッと訴えかけるような、言葉では追い付かないメタな表現でくるんであげないと番組が終われないと齋藤さんと2人で感じたんです。そこでプロデューサーとディレクターに『大森靖子さんに歌ってもらうようオファーしませんか』と。そしてご本人からまさかの『OK』。元々、番組に参加してくれた10代の子たちのアバターハンドルネームも星の名前で、空間を包む映像演出も星座のモチーフ、言葉を星のように表示するというコンセプトにしていましたが、偶然にも全部バチッとハマる『オリオン座』という曲があって歌詞の内容もまさに番組とリンクしていて。奇跡だと思いましたね」

──企画の本質を捉え直したリデザインの結果、あの形になった…。逆にいうと、服部さんが参加していなかったら、何か別の表現になっていたかもしれませんね。

「どうでしょうね、ただ僕の強みは、制作過程でどういったステージや仕掛けを作れば、実現までの課題を解決できるか、実装や予算まである程度イメージしてその場で話ができることです。分業された複数の専門性が必要なコミュニケーションを1人で担える。もっとざっくりいうと、テレビでの表現として広く浅くいろいろ知っているという感じ」

──あらゆる仕事に対応できる力が必要でもあると。

「NHKのデザイナーの仕事っていくつかに分かれていて。ドラマ美術のデザイナーは大道具を主とした美術デザインの技術を磨く、ドキュメンタリーやNHKスペシャルのデザイナーは構成を読み解き、効果的なテロップワークやCGディレクションの技術を磨く、音楽番組ではステージデザインの技術を磨く、バラエティー番組は番組を楽しそうにみせるパッケージを作るうえでのディレクションを磨く、さらに紅白や大型のNHKスペシャルでは映像デバイスやプロジェクターを活用した映像演出やセンシングを取り入れたインタラクティブ演出に関するディレクションも担当し、知見が磨かれていきます。

僕は上記のジャンルはすべて経験してきました。ただどの仕事も「それなりにできる」くらいの実力ですが…、でも結果としてハイブリッドな知見が生まれたのだと思います。かつては『#8月31日の夜に。』のような福祉番組で、最先端の技術を使うという発想はあまりなかった気がします」

関係する誰もが「自分の仕事」を誇れるようにしたい

「いいものを作るためには、従来までの制作体制なんて関係ない」という服部さんが自ら企画した番組『復活の日~もしも死んだ人と会えるなら~』(以下『復活の日』)では、作り方そのものにもエポックメーキングな工夫を凝らします。分業による効率的な番組作りではこぼれ落ちてしまうものとは、いったい何だったのでしょうか。

──翻っていえば、今まで服部さんのような仕事をできる仕組みなり、動きなりが少なかったということでもある。

「通常の番組制作は、プロデューサーやディレクターが企画を考え、かなり固まった段階で上意下達で段階的に技術、美術へ声が掛かります。でも『復活の日』ではそもそも企画自体を美術デザインが職能の僕と、フェイクドキュメンタリーを得意とする構成作家の竹村武司さん、デジタルクリエーティブを得意とするWhatever社の富永勇亮さんの3人で考えました。この3人の職能の組み合わせで、構成・技術・美術・予算・スケジュールを精度高く想定しながら企画を練り上げていきました。その中で『復活の日』は"CGで蘇らせた死者とのリアルな対話”を大きな柱に据えたので、CGのクオリティーによって構成が決まってくると考えました」

──その目的は、どこにあったのでしょうか?

「『復活の日』では、並列な関係でプロデューサー、ディレクター、デザイナー、作家、プログラマー、リサーチャーが台本を作る段階で一斉に毎週集まって会議するようにしました。通常の分業体制・上意下達だったら、台本ひとつ直すのにも"いまさらいうなよ”みたいなコミュニケーション(笑)が多いと思うんです。ある意味コスパは悪いですが『復活の日』ではそういうやり方をせずに作りました。それぞれのスタッフがそれぞれの事情やできること・できないことを理解して、手戻りさせずに効果的な表現を目指すという意思統一が図れました。

さらに全員でアイデアを出し合い、上意下達ではなく並列な関係なので、それぞれに主体性が生まれ全スタッフが仕事を『自分ごと』にできたのではないかと思います。また別の言い方をすると、各所の判断ができる全員が常に情報共有しているので、制作進行上のブラックボックスがありません。誰がボトルネックになって進行が滞っているのか一目瞭然になるので、常に各自にプレッシャーがかかる状況となります。クリエーティブを最大化するためには、このやり方がベストだと今も思っています」

──なるほど、分業で仕事をこなすのではなく、誰もが主体的に関われるように。

「プロデューサーやディレクターは番組を自分の『作品』だと思っていますが、基本的にその他のスタッフは"納品して終わり"ですから、自分の『仕事』とは思っていても『作品』とまでは思えていないんじゃないかなと前から感じていて。でも、それはせっかく関わったのに悲しいことだなと。自分の作品として誇り、プライド持ってもらうことも報酬のひとつとして提供したかった。参加されるスタッフは皆さんプロフェッショナルだし、誰が欠けても成立しないので」

──ものづくりに携わる人なら、自分の作品として誇れることは、欲求としてあるはずです。

「そうですね。僕自身デザイナーとしてさまざまな企画に関わっていく中で、サポート的な立場を超えて発意を持って主体的に関与して自分にとっても『作品』だ! と誇りたいと常々思っていたのかもしれません。コンプレックスが裏返って、だったら自分で作ってやると思ったのかも」


(『復活の日』舞台裏/NHK 1.5ch)

テレビは“茶の間”を飛び出し、越境するメディアへ

取材後の2019年6月7日に「改正放送法」が成立し、NHKでは本年度中にテレビ放送をネットでも配信する常時同時配信がスタートする見込みです。「公共放送」から「公共メディア」への変化の真っただ中に、服部さんが思い描くこれからのテレビとは、そしてその役割とは、どのような姿なのでしょうか。

──どういったチャレンジがテレビには必要だと考えますか?

「これまでリビングに鎮座していたテレビを、スマホによって持ち出せるようになったわけですから、同時配信も放送も本質的には同じだと捉えています。ただ同時配信されていても今の時代それ自体にプレミアムな価値はないですよね。もはや当たり前というか。ポッとできた可処分時間に適当にテレビでも眺めようとは誰も思わないでしょう。それこそ、会議を中抜けしてまでスマホでサッカーW杯を見るような、圧倒的に面白いコンテンツを作らなければ見てもらえないと思います」

──『紅白歌合戦』(以下『紅白』は、まさに生放送コンテンツの集大成ですね。

「視聴率でいえば40%の人が、テレビ画面の前で同時に『紅白』を見ているというのは、やっぱり尋常じゃないですよね。12月31日に何となく実家に帰って、どの年代も見られるものが『紅白』だけだったという消極的な理由だとしても、40%の人が見ているという現実があるわけです。ことしの三が日の間に飲みに行ったお店すべてで、全員が『紅白』の話をしていたんです。『今回の紅白、やばかった』みたいな(笑)。もちろん『紅白』が特別なのもしれませんが、まだまだテレビは会話の種になるんだと、強く感じました」

──『紅白』を通じて、テレビの未来につながるような学びはありましたか。

「そんなふうに『紅白』が話題になるのは、世の中の気分、お茶の間の気分にはまっているから選ばれているわけで。テレビを通してポジティブのきっかけになる“種”を出せて、三が日がちょっとでも楽しい気持ちで過ごしてもらえるのは、すてきなことだと思っています。それほどの影響力があるコンテンツで、例えば『いじめをなくしたい』とか『戦争をなくしたい』といった思いを、視聴者に本気で何かを感じさせる演出があったら、世の中って少しよくなるんじゃないか? と信じているところはありますね」

──今後、どういった表現や番組に挑戦したいですか?

「生放送で、世の中の気分に共感してもらえるようなストーリーを作る…とかでしょうか。例えば、宇宙ベンチャーのALEさんが取り組まれている人工流れ星プロジェクトなんか面白いなぁと思ってます。これから流れ星が流れるという時間の下に、いっそテレビを見なくていいから一緒に空を見ましょうとテレビで誘導する。そのときは空がスクリーンになり、メディアは越境されます。スクリーンの世界と現実の世界って、体感としても分断された感覚だと思うんですけど、そのつながりを知覚できたときに、新しい発見があるかもしれません、この流れ星の話は斎藤達也さんからの受け売りなのですが(笑)、とにかく体験として『リアルなもの』しか今後は見てもらえないと思っています」

──番組の内容やテーマで、思い描いているものは?

「10年や20年たっても劣化しない、耐久度が高いテーマのコンテンツをテレビで作りたいです。すでにテレビを含めた“映像”は、配信サービスが拡充される中でロングテール的になっていますよね、すでに見きれないほどの映像がある状況です。ネットのコンテンツでも数時間で味がなくなります。3日間でも話題が継続したら相当なものですよね。だからこそ何十年後に見ても“芯を食っている”ものができたらと思っています。NETFLIXやAmazonで配信される『13の理由』とか『ゲーム・オブ・スローンズ』など、ドラマ手法を用いてエンターテインメントとして成立させたうえで、いじめや自殺の複雑さやジェンダーや戦争などへの本質的な問題提起をしているコンテンツで芯を食っていて素晴らしいなぁと毎回襟を正しています」

日本全国の数千万人へ、同時に番組を届けられる「インフラ」としてのテレビ。その「レガシー」に頼るのではなく、新たな使い方と企画を模索し続けている服部さんの姿からは時代の課題に直面し、それを自分ごととしているテレビマンの姿の一端を見ることができました。

そして”映像デザイナー”の領域を拡張する服部さんの考え方や仕事ぶりからは、「疑問を持ち、解決策を提案し、主体的に変えていく」という、テレビ業界だけにとどまらないすべての仕事に通じるヒントが詰まっているとも感じます。それはあらゆる領域が混じり合う現代だからこそ必要なものでしょう。


Interviewee Profiles

F6a9ba61 f6b2 482a bf53 728633fe31ed?1562726123
服部竜馬
NHKデザインセンター 映像デザイン部
多摩美術大学環境デザイン学科卒業。主にテレビ番組のプロダクションデザインやアートディレクション、シニックデザインを手掛ける。 <担当番組・過去に従事した業務> 『復活の日~もしも死んだ人と会えるなら~』『第69回紅白歌合戦』『チコちゃんに叱られる!』『天才てれびくんYOU』『ねほりんぱほりん』『ろんぶ~ん』『コントの日』『シブヤノオト』『バリバラ』『NHKスペシャル 人体 国立科学博物館展示インスタレーション』『国立西洋美術館アルチンボルト展インスタレーション』等。

NEXT

Page top icon