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アート展示から得る体験設計ラーニング

こんにちは。エクスペリエンスプランナー&アートディレクターの永野です。nadiaのブランド・エクスペリエンス・チーム(BXT)にて、映像やイベント、展覧会をはじめとしたブランドコンテンツの体験デザインやアート演出に携わっています。

今回の記事ではエクスペリエンス・プランナー目線で、去年秋に私自身が観賞した角川武蔵野ミュージアム|体感型古代エジプト展「ツタンカーメンの青春」のレポートをしたいと思います。展示の内容のご紹介と、私なりに感じた体験設計のポイントを書いてみます。

体感型古代エジプト展 ツタンカーメンの青春 -角川武蔵野ミュージアム-
アート・博物・本の複合文化ミュージアム 角川武蔵野ミュージアム
https://kadcul.com/event/124

はじめに

本展覧会に展示してある発掘品・美術品はすべて、「スーパーレプリカ(超複製品)」という、世界に3セットしかない高精細なコピーです。そのため、ガラスケースが不要で、空間の中で臨場感のある演出が可能となっています。また、デジタルコンテンツが豊富で、現地の空間やオブジェを3Dスキャンされたプロジェクション映像が多く用いられ、音楽も展示用に制作されていました。

この展示の空間設計は映画のセットデザイナー上條安里氏が手がけています。映画の領域で活動されている専門家が、展示の空間設計に携わることで、より舞台のような、体験感の高い演出になったのではないかと思います。

まず以下は、展示の全体的な空間構成をご紹介します。

展示内容のご紹介

① エントランス〜序章エリア「ツタンカーメンの王墓」

古来エジプトの舞台がプロジェクションされ、一気に世界に飲み込まれるエントランス。
洞窟に入ると、その先には王墓が再現されており、 100年前、考古学者のカーター氏が王墓を発見した瞬間を追体験できます。

② 中央展示エリア

中心には、ツタンカーメンの黄金のマスクが。
その周囲には、人形棺や厨子が順番に展示されています。大型プロジェクションマッピングで映像が流れ、ツタンカーメンの人生が、没入感のあるオーディオ&ビジュアルで演出されていました。

③ 第1章「ツタンカーメンの青春」

若き王の様々な日常品がスーパーレプリカで展示されており、彼の日常生活を知ることができます。

④ 第2章「古代エジプトの死生観とミイラ」

古来エジプトの「死」についての文化と考え方に着目し、様々なスーパーレプリカやカーター氏の直筆スケッチが大きく展示されています。

⑤ 第3章「ヒエログリフ」

来場者はペンライトを手に取り、薄暗い空間の中を探索し、壁にあるヒエログリフの文字を読む体験ができます。奥の空間では映像投影も。

⑥ 第4章「古代エジプトの信仰」

ツタンカーメンの父 アクエンアテンの像と、彼が崇めいていた一つの神「太陽」の空間。
その像の背面には、多神教を象徴するピラミッドの造作があります。

古代エジプトの宗教は多神教ですが、それに対し、アクエンアテンは一神教の改革を起こしました。この一神教と多神教の象徴が向き合う空間では、その物語に、来場者が体験的に気づくことができます。

展示についての分析

このような展示における体験のポイントについて、私なりに2つの目線で分析してみました。

① 来訪者に対して、考古学者になったような気持ちで「発見」の追体験を促す(図面と空間設計)

体感型古代エジプト展「ツタンカーメンの青春」の図面と空間設計(永野作成)

入り口から序章へと進むエリアでは、考古学者のカーター氏が体験したツタンカーメンの王墓の空間がそのまま再現されており、その先、第1〜4章が中央エリアに直結する小部屋の構成となっています。
小部屋を見るたびに中央エリアへと戻りますが、その行動が自分が大きな洞窟を探索しているかのような感覚をもたらします。
それぞれの小部屋は異なるテーマによって個性的に演出されており、それぞれ異なる発見があります。時系列に従って見なくても良い構成となっているため、迷路のようにも感じられるのです。

② 「冒険」を楽しむかのような「エモーショナル・カーブ」の実現(体験設計・エモーショナルカーブ)

体感型古代エジプト展「ツタンカーメンの青春」におけるエモーショナルカーブ(永野作成)

エモーショナルカーブとは、イベントやサービスなど様々なブランドコミュニケーションにおいて、私たちが体験設計をする際に必ず行う設計手法です。この考え方では2つのポイントが見てとれます。

①この体験では、自分が考古学者になったかのように洞窟の入り口を通り、古来の異世界へと侵入します。「冒険」のような感覚で「発見」をしながら展示空間を進み、「好奇心」に導かれて辿り着く中央エリア。洞窟を通り抜けて見つめる演出空間は来訪者に「感動」を感じさせます。これは、カーター氏が王墓を発見した際の追体験を狙っていたのではないかと想像させます。(赤い丸❶)

②続いて、第1〜4章まで、発見と理解が小刻みに続きます。エモーショナルカーブは滑らかな波のようで、興奮したり落ち着いたりの繰り返し。何度も見直して自由に移動できる空間になっているのが、来場者に心地よい体験を提供しています。(赤い丸❷)

最後に

本展示は、空間設計や演出(舞台、造作、デジタルコンテンツ)に力を入れることで、歴史を教科書的に伝えるのではなく、様々な刺激を受けながら体験的に理解するストーリーテリングの展示になっていると感じました。
テーマパークのアトラクション風の演出(特にエントランス)や、スーパーレプリカだからこその正確な世界観の再現により、古代エジプトの世界がグッと身近に感じたのではないでしょうか。

個人的には、nadiaで企画制作を手がけた展覧会「〈PSYCHO-PASS サイコパス 10周年記念 展覧会 クロメスタジア スコープ〉」や、その他のブランドエクスペリエンスでも、来訪者に楽しんでもらうためのエンタテインメント要素も大事ですが、作品の内容、ブランドの伝えたい想いが体験を通して心に染み入るように届けることが大切だと感じます。
体験型施策の構築において、空間設計やエモーショナルカーブをプランニングして活用することで、伝えたい情報やポイントが明確に洗い出されます。それがスムーズに体験に盛り込まれることで、より効果的に演出が設計され、お客様が自然に感じるコンテンツの理解と納得性につながるのではないかと思います。
改めて、私たちがてがけるべきブランドエクスペリエンスの形を認識できた、とても良い展示会でした。

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