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論文レビュー:〝測りまくる〟ということ

Photo by Hanae Dan on Unsplash

私は論文を読むことを趣味としている。

ご存知の方も多いと思うが、CiNiiやGoogle Scalarで興味のあるキーワードを検索すれば、公開されている論文は無料で読むことができる。

今回ご紹介したい論文はこちら。

あいまいさと統合失調症
知能と情報, 2010 年 22 巻 4 号 p. 409-413
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoft/22/4/22_409/_article/-char/ja

統合失調症という病気は多くの一般人にとって〝わかりづらい〟、「どう理解してよいのかわからない」病気であることがほとんどだろう。

あるいは知識があったとしても、「妄想や幻覚がある人のこと」「〝言葉のサラダ〟(思考の障害)」といったひどく断片的なものであったりする。これらは決して誤りというわけではないが、統合失調症の一側面を言い当てているに過ぎない。

本論文の著者である岩満優美先生は、「あいまいさ」をキーワードにして統合失調症に対し全体的なアプローチを試みる。

第1章ではBirchwood&Prestonの研究を引用し、統合失調症が〝時間〟の病であることを明らかにする。

①機能障害が起こり(陽性症状、認知障害など統合失調症の症状そのもの)

②病気の後遺症として能力低下し(労働能力、社会生活能力の低下、残遺症状のもたらす苦痛による、精神的エネルギーの低下など)

③社会的不利に陥る(二次障害ともいえる。社会的地位の低下、就労・住居の制約、失業、対人ネットワークの減少など)

(Birchwood&Preston,1991)

以上のように関連性を持ちつつ統合失調症は進行していく。

次章からは「認知機能障害とあいまいさ」「自我境界のあいまいさ」「描画とあいまいさ」など、あいまいさという観点から、統合失調症を全方位から考察することを試みている。

中でも、自閉症の研究で取り挙げられることの多い〝心の理論〟が、近年は統合失調症患者に対しても研究されているという紹介は有用である。

ともすれば、統合失調症患者は他者の心の〝読みすぎ〟なのではないかと錯覚してしまいそうになる。だがそれは誤りである。統合失調症患者は他者の心情などを推察する能力の乏しさと相まって、幻覚・妄想によってますます認知がゆがみ、被害的・迫害的な思考を抱くのである。そしてそれはあいまいな状況においてより顕著となる。

論文全体を通して浮かび上がるのは、統合失調症患者における〝あいまいさ〟に耐えがたいという特性の「生きづらさ」である。

途上、岩満先生の研究も紹介される。

統合失調症患者と健常者(大学生)を対象に、図形を刺激として用いて対称と非対称の選好について検討した研究である。対象者は7種類の矩形を提示され、もっともきれいに見えると思われる図形内の任意の位置に、垂直あるいは水平の分割線をそれぞれ描画するよう教示された。結果として、統合失調症患者はいずれの比率で作成された矩形に対しても、一貫して対称性の図形を選好する頻度が高かったという(岩満,2009)

対称性とはもっとも安定した世界であり、静止的である。心的エネルギーが枯渇し根源的な不安を抱える統合失調症患者の防衛反応と考えられるとのことだ(岩満,2010)。

今回の論文も刺激的で好奇心に満ちたものであった。

そして私がこの論文から学んだことは、わからないものに対し断定的な短い言葉でシャットアウトしてしまうのではなく、あらゆる角度からとことん観察してみる、ということである。

ただ漠然と観察してもいいが、そこで自分の好きなキーワードを観点にすると尚いいだろう。測るのは一回で終わりではない。切り口を変えて、また何度でも観察すればいいのだ。

面白い論文を読んだ後は、私の心にはさっそうとした涼風が残る。さわやかな気分。これを求めてまた新たな〝論文探し〟が始まるのだ。

(参考・引用文献:岩満優美『あいまいさと統合失調症』、日本知能情報ファジィ学会誌、Vol22,No.4、pp409-413、2010年)