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汎用AIが普及する未来にむけて考えるべきこと

2019年にデータアントレプレナーフェロープログラムに参加したときに「汎用AI」についてレポートを作成せよ、という課題が出題されました。
そこで本などを読んで汎用AIについて調べ、将来の社会について考えてレポートを作成しました。

汎用AIとは

汎用AIとは、様々な状況に応じて考え、あらゆる課題、目的に対応できるようなAIのことで、2015年くらいから汎用AIの世界的な開発競争が始まっているそうです。
人間の頭脳は汎用頭脳であることから、汎用AIの開発は人間の脳を真似ることが一番の近道であると考えられており、その方式は大きく分けて「全脳エミュレーション」と「全脳アーキテクチャ」の二つに分類されます。それぞれの方式の考え方を簡単にまとめると、前者は脳神経のネットワーク構造全てをコピーし、後者は脳の各部位の機能ごとにプログラムを作って結合します。

「全脳エミュレーション」方式と「全脳アーキテクチャ」方式

両者は最終的に目指す「汎用AIの完成」という目的は同じであっても、どちらの方式をとるかによってその振る舞いは大きく変わってきます。
全脳アーキテクチャ方式では人間の振る舞いを脳の作動原理から理解し、人為的なプログラムを作成するが、そこでもつ欲求や気持ちというものはあくまでプログラム上で人間から与えられたものに限定されてしまうのです。したがって人間が潜在的にもつ欲求や感性というものをもつことができません。
これに対し全脳エミュレーション方式では、いわば自然の脳をコピーしたもの、したがって人工知能と人間がもつ頭脳との差を限りなく近づけることが可能であると考えられることから、人間と全く同じような知的な振る舞いができる可能性が示唆されています。そのため全脳エミュレーション方式で開発されるAIは、現在の特化型AIには不可能と言われている突発的に脈絡のないアイディアを生み出したり、人間を感動させるような芸術作品を生み出したりできると予想されているのです。

汎用AIが普及する未来にむけて

人間の脳に限りなく近い脳をもつ汎用AIが近い将来完成すると予想される中で、仕事の大部分がAIによって奪われなど、まるでAIの開発をしない方がいいと言いたいかのような議論が盛んになっています。
だがすでに汎用AIの開発競争は始まっており、真っ先に開発に成功した国の汎用AIによって社会のインフラシステムが凌駕されてしまう可能性を考えると、ここにきて汎用AIの開発をやめることはできないでしょう。

このような状況の中で我々人間が未来に向けて考えていくべきことが2つ挙げられると思っています。

一つは「できるとわかっていることを、あえてやらない」という選択肢をもつ、ということです。
前出した全脳エミュレーション方式のAIでは、飛躍的なアイディアを出したり、感動的な芸術作品を生み出したりできると考えられているが、このような感情を動かすような仕事は人が行う、という世界共通の認識を作ることはできないでしょうか。例えば原子爆弾は製造することはできるが、各国が好き勝手に作ったら莫大な被害が生じるため、国際的に製造を禁止されている。同じように汎用AIについても実用化が現実味を帯びてきた段階で、「作れるけどあえて作らないAI」を決める必要性がありそうです。

もう一つは「人間の価値、幸せとは何か」ということ、私たちがよく考えることです。
昨今盛んになっている「AIによって仕事が奪われてしまう」という議論は、裏を返せば今の社会が仕事をすること自体が生きる目的になっている、ということが背景としてあると感じています。資本主義社会の中で、我々はいつの間にか「仕事をしてお金を稼ぐことができなければ人間としての価値はない」という思い込みに囚われているのではないかと感じています。

本来は働くこと自体が目的ではなく、人ぞれぞれ好きなこと、やりたいことがあり、労働によって得られるお金は自らがやりがいや幸せを感じるための手段の一つのはずです。それが今の社会では、いつの間にか目的と手段が入れ替わっていて、特に日本ではその傾向が強いと感じています。
汎用AIが労働力として使われるであろう近い将来、今の労働の大部分は汎用AIによって代替できるとしたら、今まで労働に当てていた人、時間などのリソースを自由に使えることになります。そうなったら人間はその自由になった時間を使って自分が生きていくための資産を得るために、新しい労働を生み出す必要に迫られるわけです。その新しい労働が何か、ということを考えるということは、汎用AIでは実現できないこと、つまり人間の価値や幸せを人それぞれ追求することになるのだと思っています。

このレポートを作成していて、汎用AIが実用化された社会を想像するということは、突き詰めれば人間を人間たらしめることは何か、ということを考えることにつながっていくと感じました。善悪の判断、そして幸せという感情など、例えAIが持つことが可能になったとしても、あえて人間が持つべきものとして残しておくことが、人間とAIが共存する社会を実現するためのポイントになるのではないでしょうか。

参考文献:「人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊」(著:井上智洋)

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