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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

Company

「人間と同じく、野菜にも権利を」。見た目第一の青果業界と消費者に問う

有機農産物の宅配会社「大地を守る会」の若手バイヤーが、生産者と触れ合い受け取ったもの、伝えたいこと。

株式会社大地を守る会

2017/01/17

1975年の発足以来、安全な食と日本の第一次産業を守り、育てることをミッションに掲げてきた「大地を守る会」。1985年には日本で初となる有機農産物の宅配システムをスタートし、作り手だけでなく、買い手の顔も見える関係作りに取り組んできました。野菜や果物以外に肉や魚、加工食品なども扱い、その生産基準・取り扱い基準は非常に細かく設定され、同社のウェブサイト上でも公開。契約農家数は約2,500名、利用者数は約310,000人(2016年9月末)にのぼります。

「顔の見える関係」を築くために大切なこと

今回お話を伺うのは、農産チームで青果バイヤーを務める村瀬峻史(むらせ しゅんじ)さん。入社時からバイヤーを担当し、今年で4年目を迎えました。大地を守る会のバイヤーの仕事は大きく分けると、農家と半年ごとに契約を更新し定期的に買いつけをする「仕入れ」、仕入れた野菜の品質チェックや改善策を練る「品質管理」、どう売っていくのかを決める「販売企画」、SNSやカタログ、ネット媒体での記事執筆やイベントの企画・運営などを通しての「情報発信」の4つ。

村瀬さんは、関東圏を中心に長野、静岡、愛知、岐阜など約40産地の農家を担当しています。生産者と消費者がお互いに「顔の見える関係」であるためには、生産者とバイヤーが「顔の見える関係」にあってこそ。週末には毎週のように地方をまわり、担当している農家の様子を見に行っているのだと言います。

村瀬峻史さん

「農家さんは、人対人の関係を大切にする方がほとんどです。いわゆるビジネスライクな関係ではなく、半分ご近所付き合い的な関係と言ったらいいんでしょうか。自分が農家さんに寄り添おうとすればするほど、相手も認めてくれるし、逆に距離を取るような行動をするとうまくいかないことも出てきてしまいます。最初は厳しかった農家さんも、何度も足を運んで、お話をする中で関係性が変わっていき、今ではお昼ごはんを用意して待っていてくれて、おかわりまでさせてくれたり。30代後半のある農家さんには、『村瀬くんは弟みたいな存在だから』と言っていただいたこともあって、嬉しかったです」

きっかけは米農家の一言。農家と消費者が出会う場づくりに携わることを決意

話が遡りますが、そもそもどうして「大地を守る会」に入社したんですか?

「高校時代の地理の先生がとても面白い方で、授業の半分以上は自分の旅の話をしてくれるような先生だったんです。ある日、アフリカの話になって、砂漠化が進行していることを教えてくれました。毎年これくらいの面積の土壌が劣化していって、そこに食べ物が植えられなくなり、家畜を放せなくなり、最終的に食べるものがなくなって子供たちが息絶えていくという……。授業が終わった後に先生のところへ行って『砂漠化の問題について勉強できるところはありますか?』と聞いたら、鳥取大学が日本で唯一砂漠の研究をしていることを教えてもらえて。それがきっかけで鳥取大学に進み、乾燥地農学を学びました。

将来は海外で働きたい気持ちもあったので、修士号を取るために大学院にも進んだのですが、後輩の研究でたまたま岡山県の山間地域の農家さんを訪ねる機会がありました。その方は自然栽培でお米を作っていたのですが、収入や単価、経営状況などを詳しく聞いていくと「なかなか厳しい」とおっしゃったんです。後継者についても「近くで娘が別の仕事をしているけれど、そっちをがんばってもらって、自分の代で農業はたたむ」と。自然栽培でお米を作っても経済的に自立できないから、子供には継がせたくないと言うんです。その話を聞いたときに悔しいなって思いました。ちゃんと評価して支えてくれる人がいたら、その農家さんは農業を続けられたかもしれないし、その農家さんがいることで、安心して食べられるお米を必要としている人のもとに届けられるのにって。それまでは、カラカラに乾いた土地でも農業ができて、そこに住む人たちの暮らしが豊かになるような仕事をしたいと思っていたのですが、その出会いから農家と消費者が出会う場にまつわるビジネスをしたいなと思うようになりました。それで、偶然見つけた大地を守る会の説明会に足を運んだんです」

仕事=大切にしたいものを嗅ぎ取り、集め、表現する場

自分のやりたいと思っていたことはできましたか?実際に働いてみて、ギャップを感じた瞬間もあったのでしょうか?

「農産チームでの仕事は、自分の原体験とそれを機にやりたかったことをこれ以上ないくらいに体現できていると思います。最初からそういう環境に配属してもらえたことは、自分にとっての大きな財産です。とはいえ、僕は大学も大学院も農学経営の専攻だったので、肥料や野菜の名前すらわからない状態でのスタートでした。僕がアドバイスするべき立場なのに、最初の頃は栽培のことも、大地を守る会のことも、農家さんから教えていただくことが多かったんですよ。そんなふうに親切にしていただくだけではなく、以前より、当社が仕入れる農家さんが増えたことで、『昔はものすごい量を販売できたのに、今は少ないじゃないか!』と厳しいお声をいただいたり、仕入れた分を売り切れなかった時には電話越しでも唾が飛んできそうな勢いで叱られてしまったこともあります。

課題は、農家さんそれぞれの考えやペースを大事にしつつ、どうやったら皆さんの経営を自立的に発展させて、かつ大地を守る会の利益を確保することができるのかというところだと思っているのですが、並行して人間関係をどう構築していくのかという面もあり。それは、社会人のスタートとしては面白かったんですが、厳しいところでもありました」

農家さんに教えてもらうこともあったとのことですが、そういう時はどんな気持ちになりましたか?後ろめたいのか、感謝しつつ、がんばるしかないと自分を奮い立たせるのでしょうか。

「自分がわからないことで仕事が滞ってしまい、農家さんに迷惑をかけてしまうと申し訳ないので、知らないことはどんどん埋めていかなければという気持ちはあります。一方で、個人的に強く興味を持っていた農業の世界だからこそ、教えていただくことへの感謝と楽しさも感じていました」

お話を聞いて、農家さんと良好な関係を築いてこられたのは、やはり村瀬さんご自身のお人柄によるところが大きいのかなと思いました。農家の皆さんと接するなかで大切にしていることはありますか?

「僕がというよりは、関わってきた時間の長さが関係しているのは確かだと思います。相手のことをちゃんと知って、私のこともちゃんと知ってもらった上で数字のやりとりをすること。最初にもお話ししたとおり、単純にビジネスの面だけはなく、感情的な部分も共有して話し合うこと。どれも時間をかけたからこそできたことかなと。

あとはやっぱり農家と生活者を信頼関係で繋ぐこと。そのために何をしたらいいのかを考えることでしょうか。自分のなかで納得のできる答えがまだ見つからないんですけど、何百億円という規模で取引が行われる大きな流れのなかで、いかに小さなことを考えるのかが重要になってくるんじゃないかなと思っています。何千人、何万人規模になっても成り立つようなコミュニケーションが実現できれば、農家さんも、間に立つ私たちも、お客様も無理のない流通というものに辿りつけるのではないかと。そんな仕組みを自分なりのカタチにしてみたいという気持ちが仕事を続けるモチベーションになっていますね」

わからないからこそ、続けられる。

「そうですね。それを探しながら、仕事をしているというのはありますね。あとはやっぱり農家さんとの関わりが豊かなことに尽きます。畑に行ったらごはんを食べさせてくれるのもそうですし、収穫した野菜をたくさん持たせてくれて、品川駅で袋いっぱいの野菜を抱えることも少なくありません。挙げ句の果てには大根が袋を突き破って大変な思いをしたり(笑)。体調の悪いときに、わざわざ電話をかけてきてくれて、「体に良いらしいから、ヨーグルト飲みなさいよ」って心配してくれる方までいるんですよ。「お母さん、ありがとう!」という気持ちです(笑)。

「もうひとつ、農家さんと接するなかですごく心を動かされるのが、自然と人間との関係を教えてもらえること。人間が野菜を育てているのではなく、野菜は育つ環境さえ整えてあげれば勝手に育つ、と教えてくれた方がいました。そういうお話を聞くと、自然と人間とを対比して考えることも増えますし、地球、もっと大きく言えば宇宙の一部として僕は存在していることを想像したり。その結果、「自分だけが幸せならいい」のではなくて、人も自然も含めた全体が幸せになるような活動をしていきたいなと思うようになりました。僕は、仕事って、人生の中で何を大切にしたいのかを嗅ぎ取る場であり、集める場でもあり、さらにそれらを表現する場でもあると思っています。こうしていろいろなところへ行って、話を聞くことで、自分の価値観や生き方が積み重なったり、更新されていくことはすごく豊かなことだと感じます」

安全より見た目が大事?野菜にも権利を

「あの話、聞きたいな」。

取材に同席していた社内のスタッフから村瀬さんへのリクエストが挙がりました。あの話とは、フードロス問題のこと。収穫された野菜の中には規格から外れてしまうという理由で、畑に山積みになるもの、仕入れても倉庫に残されてしまうものなど、たくさんの「ロス」が出るのだそうです。このロスをどうにかして減らすことができないか、そもそもロスという概念を変えることはできないだろうかと、村瀬さんは自らの考えを語ってくれました。

「私たちもお客様に野菜を売る立場なので、出荷の基準というものがあるんです。たとえば虫がついていたり、虫が食べた痕があると出荷できなくなってしまいます。できるだけ無駄にならないように、もったいナイシリーズ(※)として販売したり、グループ会社のフルーツバスケットが加工してジャムにしたりと工夫はしているものの、その状況は深刻です。」

「もったいナイシリーズ」は、傷があるものや規格外品を有効活用するために始まったシリーズ。「生産者応援」「消費者応援」「食べものを無題にしない」をスローガンに掲げ、魚、野菜、米などを安く購入できる。

「どうにかしたい気持ちは山々ですが、同時に『自分がお客様の立場でお金を払って買って野菜に虫や傷がいっぱいついていたらどう思うだろう?』とも思うんです。流通の規模が拡大するのに伴い、新たなコミュニケーションの方法を考えたいとお話したのはここに繋がるのですが、顔を合わせて売り買いできれば、こちらもきちんと説明もできるし、お客様の意見を聞くことができますよね。そこで信頼関係を築けたら、「(虫食いや傷があるのは)安全な証拠だから」と納得して買っていただくこともできる。でも、インターネットでの注文も増えると、届いた商品とウェブサイトの商品写真とにギャップがあればクレームものです。多くの流通会社に比べても圧倒的に顔の見える関係を大事にしてきたにもかかわらず、これからのコミュニケーションについてはよく考えないといけません。

今は流通事情によってお店の棚のサイズが決まっていて、棚のサイズに合う品種が生まれて、そのための農薬が生まれて……という流れができあがっています。でも、野菜も生き物なのでどれも違うのが当たり前ですよね。最近は、セクシャルマイノリティが注目されていますが、あるとき、「野菜も同じだな」って思ったんですよ。人間の権利もあれば、野菜の権利もあって、形や大きさが規格から外れていることでマイノリティとして捉えられるのではなく、それが普通なんだっていう多様性の考え方。そういうことを発信する場があったらいいなと思っています」

様々な形や大きさ、傷のあるものが表には出てこないからこそ、マイノリティに見えてしまっています。畑に積まれているもの、倉庫に残されたものを全て並べたら「きれいな野菜」という概念自体が無くなるでしょうね。

「形や大きさを揃えるために安心を捨てるのは、本末転倒な気もしますし、そういう流通ではありたくない。そのためには少しずつでも挑戦し続けていくことなんだろうなと思います」


「目の前にきれいに並べられているもの」以外を見ようとしない限り、「普通」や「当たり前」が全体のごく一部であることに気付くことは難しい。規格をクリアした食品ばかりがスーパーに並ぶのは、それを支持する(購入する)消費者がいるからで、そこが変わらない限り、畑や倉庫に積まれた食べ物が無くなることはないのです。それは野菜や果物だけでなく、全てのことに言えること。村瀬さんの気持ちと行動が、業界の慣習にどう風穴を開けるのか。期待せずにはいられません。

Interviewee Profiles

村瀬峻史
株式会社大地を守る会 生産部 生産課 農産チーム
愛知県出身。2012年に入社して以来、青果バイヤーを務める。関東圏を中心に約40産地の契約農家を担当し、野菜の品質チェックや仕入れ・販売計画の策定までを行う。週末には車を走らせ、農家とのコミュニケーションをとることを大切にしている。得意料理は実家に代々伝わる赤味噌を使った豚肉と白菜の煮込み。
  • Written by

    梶山ひろみ

  • Photo by

    岩本良介

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