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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

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ドン・キホーテのポップライターになって18年。本宮さんが常に目標を持ち続けられる理由とは

お客さんにもクライアントにも愛されるポップを作るやりがいと葛藤

2017/02/23

驚安の殿堂 ドン・キホーテの店内で存在感を放つ「手書きポップ」。これらを手がけるポップライター本宮 由貴子(もとみや ゆきこ)さんにお話しを伺っています。

前編では、一日に何作もポップを完成させるその驚きの仕事術と、本宮さんがポップライターを目指すにいたった経緯についてお話しいただきました。

前編▶︎まさに神業。「ドン・キホーテ」の切り札、手書きポップライターの仕事とは?

後編では、18年間ポップ一筋という本宮さんのこれまでと、なぜそれほどまでにポップ制作に打ち込んでこられたのかという内面に迫ります。

ドン・キホーテでの18年間

18年という年月は、ポップライターとしての本宮さんの成長はもちろん、ドン・キホーテが大きく成長してきた年月でもあります。本宮さんが最初に勤めたドン・キホーテ新宿店は、8つ目の出店となるかなり初期の店舗。現在のグループ総店舗数は349店(2016年11月1日現在)にも及びます。

長くドン・キホーテという舞台で仕事をしてきた本宮さんに、これまでの思い出深いエピソードを語っていただきました。

−今までに一番大変だったことはなんですか?

「10年ほど前に新宿店で大規模改装があったときですね。ドン・キホーテの改装は多くの場合、お店を開店させたまま少しずつ改装作業をするものなのですが、そのときはどちらかというとリニューアルオープンという感じで、完全にお店を閉めておこなうものでした。ポップも一から作り直さないといけなかったのですが、当時新宿店のポップリーダーとなっていた私はポップ制作だけでなく、作業の分担などもする必要があって…間に合うのかとか、どう評価されるんだろうとか、すごくプレッシャーだったんです。

ですが他のライターと助け合ったり、他店舗の人にもたくさん手伝ってもらったりしてやり遂げることができたので、その後の自信にはつながりました。なんというか、これだけ大変だったのだから、もう何も怖くないぞという気持ちでしょうか(笑)」

−肉体的に大変だったりはするのでしょうか? 腱鞘炎になったりとか…。

「腱鞘炎は今のところないですね…。大きいものを作ることも多いので、書くときは腕から動かしたりと動きが大きくて手首だけ使うわけではないので。枚数も多いときは多いですが毎日ではないですし、座りっぱなしということもありません。

大きいものを作るときは床に広げることもあります。最近一番大きかったのは、『自転車コーナー』というポップで、横4メートル近くあるようなものです」

−ポップを18年間作り続けてきた中で、何か変化を感じたことはありますか?

「大きな変化はないんですけど、ポップにも多少の流行はあります。一時期相田みつをさんふうの筆文字っぽいものがはやったり。あとは価格の部分について、以前はいろいろな色を使っていたけれど今は赤でしか書かないとか…。」

ドン・キホーテの特徴のひとつに、ちょっとした変化を積み重ねていく『細かい変化対応』というものがあるそうです。たとえば通路幅やレイアウトは、お客さんが気づかないような規模感で少しずつ変化させたり。ベースは変えずにちょっとした変化を積み重ねていくことで、増益増収を続けているんだそうです。

「ただ一点、ドン・キホーテのマスコットキャラクター『ドンペン』だけは描く人によって個性が出るんですよね(笑)」

現在では求人に応募してきた方の面接を担当することもあるという本宮さん。面接ではどのようなことが重視されるのでしょうか。

「実技も見るのですが、仮にあまり上手でなくてもそれだけで落とすということはなくて、一番見ているのは取り組む姿勢です。私も最初は全然できなくて意欲だけで入ったので、やる気さえあれば、この人ならやってくれるに違いない! と思う節があって。

実技はいろいろなパターンがあるのですが、既存のポップをまねして書いてみてくださいとか、依頼書からポップをイメージして書いてみてくださいとか、そういうものですね」

実際、ポップを書いたことがないけれど挑戦してみたいと応募してくる人は少なくないのだとか。晴れてポップライターになると、まずは何から勉強していくのでしょうか。

「マニュアルがあるので、まずはそこからですね。マニュアルに書かれているのはいわゆる『ドンキ文字』と呼ばれるフォントの文字見本と、文字間のサンプルなどですね。ドンキ文字はポップ体の丸ゴシックを崩したようなフォントなのですが、発祥はあまりはっきりしていません。店舗数が少なかった頃は、それぞれのお店で独自のポップを書いていたのですが、多店舗展開が始まってからは統一感があった方が良いということになり、このフォントに統一されていったようです。あと文字間は、商品名やコメントを書くときの字の間隔のことなのですが、最初は広がりすぎる傾向にあるのでマニュアルを見ながら練習します」

−ではポップ制作のハウツーが書かれているわけではないのですね。

「そうですね、それは実践で覚えていくしかないです。始めたばかりの方は、たいてい色選びに悩んでしまうので、最初は少なめの色で書いてみるようアドバイスしています。あとはこじんまりとしてしまわないように、紙をめいっぱい使う方法やフォントの太さの選び方を指導したり…。

でも私が入社したときは、このマニュアルすらありませんでした(笑)できたのは、入社後3年くらい経ってからだったと思います」

ポップライターのやりがい

−お仕事をする中で、やりがいのある瞬間を教えてください。

「ポップの効果で売り上げが上がったと商品担当者さんが教えてくれたときなどはやはりやりがいを感じますね。あと、自分の作ったディスプレイ自体を売ってくれないかと言ってくれたお客さんがいらっしゃって…『これは売り物じゃないの?』と言われたときはすごく嬉しかったです。実はそういったことが転じて、板橋志村店ではバースデーポップを請け負って販売しているんですよ。

また、メーカーの方から『ぜひ商品を手書きポップで展開してほしい』というふうに言っていただくことも多く、ポップの効果を高く評価していただけていることも嬉しいなと」

また、ドン・キホーテでは時折、店舗ごとに同一商品の売り上げを競い合い切磋琢磨する機会もあるんだそう。

「当然ですが同じ商品でもお店によって売り上げが変わるわけです。どこにディスプレイするかという戦略的なところから、どんなポップで購買意欲を促進するかというところまで考え抜くため、チームみんながひと肌脱ぐような形に。それで結果が出るとやはり楽しいですね」

−18年もの間ポップライターのお仕事に打ち込んでこられた理由とは、なんだと思いますか?

「たぶん自分に合っているんですよね。毎日同じ作業をしているにも関わらずなぜか飽きなくて…(笑)。きっと、完成したものを見てもまだ足りないってずっと思っているからだと思います。次はもっと上手く書こう、次はもっとこうしようっていうのが毎回あるんです。

それから、そもそもドン・キホーテ自体がコンセプトとしておもしろいものを出していこうという雰囲気があるので、ポップを作る際もユーモアを込めて作れるんです。遊び心を持って仕事ができるし、作るものはお客様の楽しみのためのものだから疲弊せずにできるんですね」

−逆に仕事で「もういやだ!」となることはないのでしょうか。

「ポップ制作は売り場担当者と二人三脚でやっていく仕事なので、新人の方にはありがちですが、こちらに頼りっぱなしになってしまう場合は、なかなか結果につながらないことも。ただ意欲的に担当者と話し合っていくことで、お互いのアイディアをおもしろい方向に持っていけます。それも18年間働き続けられている理由のひとつですね」

最後に、本宮さんにとって仕事とはなんなのか語ってもらいました。

「この仕事って、自分ひとりではできないものだなって。ポップ作りというのは自分がおもしろいと思うものをただ作るだけでなく、ちゃんと売り上げに貢献しないといけないわけですから、自己満足で終わってはいけないですよね。なので売り場の人と連携してコミュニケーションをとって、そして結果を出していけるという点が楽しい点だしやりがいのある点だなと思っています。

それから成長意欲を持ち続けていられるのも仕事の重要な要素だなと。今の自分の課題は、売り場によってパソコンのポップが良いのか、手書きのポップが良いのかというバランス感覚を身につけること。もし店内のポップが全て手書きだったら、かえってメリハリがなくなってしまいます。パソコンで作ったポップが並んでいる中に手書きのポップがあるからこそ目を引くんですよね。

こうしてやりたい仕事につけて、目標も持って毎日働けているというのは幸せなことだなと思っています」

熱く仕事論を語るというよりは、どこかあっさりとしていらっしゃる本宮さん。「やめたくなったことはないんですか?」というちょっと意地悪な質問も、「特にはないです」とさらりと答えます。しかしそれがなおさら、ポップライターの仕事を愛し自然体で働いているからなのだろうなあと感じさせました。

ドン・キホーテにお立ち寄りの際は、ポップを見ながらその向こうにいるライターさんの熱い仕事術に思いをはせてはいかがでしょうか。

Interviewee Profiles

本宮 由貴子(もとみや ゆきこ)
1997年新宿店にPOPライターとして入社。以降、東京都心店舗の着任を経て、2009年に中目黒本店に異動、在籍中。

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