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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

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職業はUIデザイナー兼、住職。「人生は一度きり」だから選んだ生き方

父の死をきっかけに住職となった鈴木潤一が、UIデザイナーになるまで

アライドアーキテクツ株式会社

2016/09/20

人生においてかなり長い時間を費やすことになる「仕事」。ひとつの道を突き詰めていく方もいれば、転職で新たな可能性を模索する方もいますが、中には2つもしくはそれ以上のライフワークを持つ方もいます。

今回は、平日はUIデザイナー、週末は住職というふたつの顔を持つ鈴木 潤一(すずき じゅんいち)さんにお話しを伺うべく、東京・恵比寿にあるSNSマーケティング会社「アライドアーキテクツ」にお邪魔してきました。

お会いした瞬間から、どことなく包容力を感じる鈴木さんですが、一体どのような経緯で、UIデザイナーと住職という二足のわらじを履くことになったのでしょうか。その異色の経歴を追っていきます。

「お坊さんになる気はなかった」

−まず、鈴木さんはお寺の家にお生まれになったんですか?

「そうですね。でも、両親から跡を継げと言われたことは一度もありませんでしたし、自分も住職になる気は全然なかったんです。大学も仏教系ではなく理系。田舎育ちだったので都会への憧れが強く、大学は親元を離れ八王子の総合大学へ行きました。当時ダンスに夢中で、髪型もアフロヘアだったんですよ。毎晩夜遊びしていて、就活もかなりなあなあでやっていました。やりたいこともないからどこでもいっかって…」

−なにか将来こうなりたい、という夢もなかったんですか?

「特にはなかったです。ただ、大学ですごくまじめなイベントサークルに入ったのですが、そのときに抱いた『人を楽しませたい』というモチベーションが今でも自分の軸になっていると思います。人を楽しませるには、まずは自分が楽しまないとっていう考えをみんなで共有していました」

−そこから、なぜ住職の道へ?

「実は就職も決まっていざ卒業するというときに、父が突然倒れてそのまま亡くなってしまって…。お寺には家族が住んでいたのですが、住職不在では住み続けることができないんです。一家の危機に直面して、急に『僕が住職になるんだ!』というやる気が出てきたんですよ。それで、大学を卒業したあと、一年間の修行を経てお坊さんになりました」

-お坊さんになるための修行というと、滝に打たれたり、一斉に床磨きをするというイメージがありますが、実際のところはどうなのでしょうか…?

「滝に打たれることはないんですけど(笑)、床掃除はしますよ。百間廊下(ひゃっけんろうか)という100メートル以上の長い廊下があるんですけど、みんなで我先にという感じでダダダダダーって掃除するんです。

修行って、朝4時に起床してから、座禅組んで掃除して、お経読んで掃除して、お経読んで掃除して、お経読んで掃除して…って一日中掃除しっぱなしなんですよね。なのですごくお腹が空くんですが、一年間は自分の好きなものが食べられないんです。そもそも食事は精進料理なので、お肉や魚、牛乳、卵や、ショウガのように刺激の強い調味料も禁じられていました。とは言え、若い衆の集まりなので食べる量自体はすごいんですけどね(笑)」

普通の生活から一転、突如厳しい修行に身を投じてしまった鈴木さん。まわりの人は仏教大学を出ていたり、既にお経も読み慣れていたり、すでに仏道に入るべき準備をしっかりしてきている中、鈴木さんにとっては全てが戸惑いの連続でした。

「お経を読むのも初めてでしたし、お作法も着物の着方もわからない。でもみんなと同じ扱いをされるので、最初はすごくつらかったです。まわりの人も修行の身で、自分のことでいっぱいいっぱいなので当然助けてくれる人もいないですし」

−でも、やめようとは思わなかったんですか?

「正直やめたいなと思うときもあったんですけど、家族や檀家さんから『頑張れ!』って送り出されてるので、後には引けなかったです。それに、亡くなった父の存在もありました。手前味噌ですが、父は曹洞宗の熱心なお坊さんたちにも『あの方は本当にすばらしいお坊さんだった』と言っていただくくらい真摯に仏道に従事していたんです。まじめで、酒もたばこもせず、毎朝早起きして本堂でお経を読んでいる。子供の頃から、そんな父の背中を見て育ったので頑張ろうと思えました」

睡眠時間は少なく、体力的にも精神的にも修行はつらいものでしたが、鈴木さんは“あるもの”を得たと言います。

「修行中は、いつも眠くて、いつもお腹が空いている状態なんです。すると、『寝たい』『食べたい』の欲が際立ってきて、ちょっとしたことで大きな喜びを感じるようになる。たとえば誰かが置き忘れていった葬式饅頭を見つけたとするじゃないですか。それまでだったら、葬式饅頭なんてそこまで好きじゃなかったのに、修行中は、それを陰でこっそり食べて『うまい!!』と感激するんです。そういったところで、当たり前への感謝が身についたなと」

一年間の修行を終えた鈴木さんは、自身のお寺に戻り、住職としてのキャリアをスタートさせたのです。

きっかけはお寺のWEBサイト作り

住職としてお勤めをする日々。しかし、鈴木さんが27歳の頃、「一生この仕事だけをやるのだろうか」という疑問を抱くようになります。加えて、住職というのはそれ一本でやっていくには金銭的にも厳しい世界。亡きお父様も含め、多くの住職が兼業という選択肢を選んでいました。

「自分もなにか兼業を」そう考えていた矢先、ブログでアフィリエイトをしていた鈴木さんは、何気なくおこなったデザインのカスタマイズに楽しさを見出します。

「カスタマイズだけでは飽き足らず、デザインとコーディングにも挑戦して、自分のお寺のWEBサイトを作ってみたんです。それで、意外とイケてるんじゃないかと勘違いしちゃったんですよね(笑)。そこから一気に、WEBデザインの世界で挑戦してみたいという思いが育ちました」

−新しいことを始めるのに不安はなかったのでしょうか?

「不安というより、自分がデザインの仕事を始めればお寺のことに携わる時間が減ってしまうので、檀家さんに申し訳ないという気持ちはありました。ですが、人生は一度きりですし、父も『お前がやりたいようにやりなさい』というのが本望だったはずだと。まずはやってみないとわからないと思い、そこから半年間、WEBデザインの専門学校に通い、基礎を学びました。

いざやってみて、この仕事だったら長く続くかもという手応えを感じたんです。もともと、幼少期から作ることが好きで、大学でもネジやエンジンを作っていたんですよ。WEBサイト制作も、全部がものづくりだから自分に合ってるなと。もっともっと作りたいって、思ったんです」

本当に自分が心から夢中になれるものを見つけた鈴木さん。自分のペースでどんどん新しい知識を吸収し、わからない点はマニアックなところまで先生を質問攻めにしていたそうです。

「さらに、就職には実績が必要だと思ったので、実績づくりのために知り合いに『WEBサイトを作らせて!』とお願いして、いろいろやらせてもらいました。そんな折、当時はやり始めていたTwitterを見ていたら、弊社の当時のディレクターが『良いデザイナーいないかなあ』とツイートしているのを見つけたんです。そこからリプライを送って、面接にこぎつけました」

当時、2009年。2005年に創業したアライドアーキテクツは、大きな成長期を迎えていた頃でした。

「会社の第一印象は、『凄そう』でした(笑)。当時は社員数もまだ30人くらいだったんですが、社長の語るビジョンはその頃からとても大きくて、『僕らはこれからソーシャルメディアの勢いとともに成長していくんだ!』とかなり熱い想いを感じましたね」

一方、会社側も、鈴木さんの入社にざわつきました。

「入社前から、社内でも『坊さんが来るらしい』ってかなり話題になっていたようです(笑)。面接でも、面接官は普通に接してくれましたが、内心は『未経験だしお坊さんだし、こいつ大丈夫なのかな』って気持ちで見ていたと思います」

「でも、持って行ったポートフォリオは、今振り返っても当時のレベルとしてはなかなかだったと思いますし、なにより自分の熱意には自信があったので。そこを評価してもらえて良かったと思いますし、会社にとっても良い拾いものになったんじゃないかと思っています(笑)」

−いよいよ就職されたわけですが、住職との両立には苦労しなかったのでしょうか?

「しませんでした。というのも、週末に住職としての仕事があるのは、月に1回か2回くらいなんですよ。8月は繁忙期なので少々大変ですが、それ以外は比較的落ち着いています。むしろメリットの方が大きいですね。自己紹介のときにも覚えてもらいやすいですし、こうやってメディアに取り上げてもらえると結果的に自分が関わっているサービスの宣伝にもなるので。

他にも、思ってもみなかった形でみなさんの役に立てることがあって。意外と座禅に興味を持っている方は多くて、だけどやり方がわからないという声をよく聞きました。それで、あるときIT業界の人を対象にして座禅の場をセッティングしてみたところ大変好評で。2回目の開催にもつながりましたし、人脈も広がったので、お坊さんで良かったなと思いましたね」

ただ、もちろん住職としての役割を軽視しているわけではありません。

「お坊さん業は、頻度は少ないけれど、とにかく代わりがきかないんですよ。たとえば法事があるとして、当然ですけど僕が行かなかったら何も始まらなくて、みんな困ってしまいますよね。そういう責任感があるので、十数年やっていますが一度も休んだことはありません。その週末に法事が入っていたりすると、病気対策のためにマスクをして過ごすなどして人一倍健康管理に気を使っています」

お寺の家に生まれ、運命の波にもまれながらも、ついに本当にやりたいことを見出した鈴木さん。鈴木さんいわく、住職と教師を兼業している方などはしばしば見かけるけれど、ITとの兼業はやはりめずらしいケースなんだそうです。

後編では、鈴木さんのデザインにかける熱い思いと、住職との兼業ならでは独特な仕事観に迫ります。

後編▶「死ぬまで現役でいたい」UIデザイナー鈴木潤一の熱い挑戦

Interviewee Profiles

鈴木 潤一
1981年3月生まれ。千葉県出身。大学卒業後、2004年より曹洞宗の本山総持寺にて一年間の修行後、2006年に曹洞宗長善寺住職に就任。2009年、アライドアーキテクツ株式会社に入社。WEBサイトの受託開発やSNSマーケティングプラットフォーム「モニプラ」などの制作に従事。2015年に社内初のインキュベーションサービス「GreenSnap(グリーンスナップ)」の立ち上げに参加。以来、サービスのUI/UXデザイン全般を担当している。

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