組織の危機は文化の浸透・チーム強化の好機|TECH TEAM BUILDERS #5 スタメン VPoE 小林氏・コーポレート本部長 大西氏

サービスやプロダクトの成長に従って開発組織も大きくなるもの。しかし何事もなく順調に成長するとは限りません。思うような採用ができなかったり、戦力として期待していたメンバーが突然退職したりすることもあるからです。
 
2016年8月に創業した名古屋発のITベンチャー企業、スタメンもそうした困難を乗り越え、成長の坂道を駆け上る一社となりました。今回は、2020年12月に東証マザーズに株式上場を果たした同社を、創業期から支えるVPoEの小林一樹氏と、全社の採用戦略を担う大西泰平氏に、自社のカルチャーにフィットするエンジニアを成長のエンジンに変えるためのヒントを聞きました。
 
株式会社スタメン
常務取締役VPoE
小林 一樹氏

1976年生。愛知県出身。名古屋工業大学、北陸先端科学技術大学院大学を卒業。2001年にヤフーの新卒1期生として入社。チャットやゲームなどの各種コミュニティサービスの開発に従事。2006年にグリーに移り、同社の創業期から開発部門のマネジメントを行う。2013年に入社したエイチームではグループ子会社エイチームライフスタイルの事業戦略部長として、新規事業立ち上げに携わる。2016年8月にスタメンに参画。取締役CTOを経て2020年3月から常務取締役VPoEに。 エンジニア&デザイナーの組織運営、プロジェクトおよびプロダクトマネジメントに従事。

株式会社スタメン / 取締役コーポレート本部長
大西 泰平氏

1984年生。大阪府出身。筑波大学卒業後、大手広告会社などを経て、2014年よりITベンチャーのベトナム拠点事業責任者として、海外子会社をゼロから立ち上げ2年で200名を超える拠点に成長させる。帰国後、取締役として、加藤厚史氏(現スタメン代表)、小林一樹氏(現スタメンVPoE)とともにスタメンの創業に参画。TUNAG事業の立ち上げに尽力した後、2020年から、コーポレート本部長として管理部門全体を管掌。事業と組織の拡大に合わせて、全社的な組織基盤の構築を担っている。
https://www.wantedly.com/id/taihei_onishi

エンジニアの育成力を強みにした採用を展開

——本日はよろしくお願いします。まずは御社の組織体制について教えてください。
 
大西氏(以下、敬称略):役員を除いた従業員はアルバイトを入れて70名弱。そのうちエンジニアは20名ほど在籍しています。
 
小林氏(以下、敬称略):創業事業である、エンゲージメント経営プラットフォーム「TUNAG(ツナグ)」を担当するエンジニアは、フロントエンド、サーバーサイド、インフラチームと技術分野別、後発のファンコミュニティの運営プラットフォーム「FANTS(ファンツ)」担当のエンジニアに関しては、アプリケーションチームとインフラチームの2チーム体制で、それぞれ開発にあたっています。
 
——2016年8月の創業から4年半で2つのサービスをローンチされ、順調にユーザー数を伸ばしているとお聞きしてます。開発組織の拡大とともに向き合うべき組織課題も変化したと思うのですが、実際にはいかがだったのでしょうか?
 
小林:これまでの開発組織の歴史をざっくり切り分けると、2016年から17年にかけてが模索期で、18年が成長の踊り場。19年が前年を踏まえた組織固めの時期で、20年以降は次のステップに上るための移行期といえそうです。
——順を追って詳しく聞かせてください。
 
小林:はい。2016年は、創業直後に代表の紹介でエンジニアを1名採用し、その後、Wantedlyから採用したインターンから社員となった方が2名。翌年、中途で1名採用しました。基本的にはリファラル採用が中心でしたが、並行してさまざまな媒体で試行錯誤を繰り返した結果、2017年の末までに、エンジニア4名を集めることができました。
 
——リファラルとWantedlyを組み合わせて採用されていたんですね。
 
大西:はい。この時期エンジニア以外の職種でも、Wantedlyで募集したインターンから入社された方がいらして、そのうち何人かが今も当社の中核メンバーとして働いてくれています。当時、名古屋を含む東海圏にはこれからSaaSで伸びていこうというスタートアップがほとんどなかったこともあり、初期のエンジニア採用は比較的うまくいった印象です。
 
——では、創業からしばらくは採用に関してご苦労されていなかったのでしょうか?
 
大西:いえ。ポテンシャル層は比較的採用しやすかったのですが、ベテラン層を獲得するまでには少し時間がかかりました。関東に比べると開発経験が豊富な人材の数が圧倒的に少なく、候補者の母数が限られていたからです。いろいろ媒体を試すなかで、私たちのビジョンに共感してくださる方からの応募が比較的多い印象があったWantedlyで地道に採用活動を行った結果、2018年の頭になってようやくベテランエンジニアを採用できました。現在の開発チーム体制の基盤は彼らの採用が起点になったといえます。
 
——ベテランエンジニアを獲得されるまでは、小林さんと若手エンジニアが中心だったのですね。若手中心の開発組織でプロダクト立ち上げ期を乗り切るのは大変だったのでは?
 
大西:ええ。ただ当社には他社にはない強みがあります。それは開発組織のマネジメント経験豊富な小林の存在です。エンジニアを育成するのは言葉でいうほど簡単ではありません。ベテランエンジニアの採用が難しかった時期にポテンシャル採用でプロダクト開発を賄えたのは、結果的に当社の強みになりました。
 
——ヤフーやグリー、エイチームで育まれたエンジニアに対するマネジメント経験がスタメンで活かされたわけですね。
 
小林:社会人になってから約20年。その大半をITベンチャーで過ごしてきており、そのうちの15年をエンジニアリングチームのマネジメントに費やしてきました。エンジニアの育成やチームビルディング、開発カルチャーづくりと向き合ってきた期間がとても長いので、そこで得た経験が役立っているのだと思います。
 
——小林さんは、若手エンジニアの育成する際にどんなことを大切になさっているのでしょうか?
 
小林:平たく申し上げるとエンジニアが自由に発言したり、裁量を持って働くことができるよう、組織に心理的安全性が担保された状態に保つこと。もう1つがお互いの専門性を尊重し協力し合える環境を作ることの2つです。目的に向かってメンバーが自律的に連携しながら成長するティール型の組織づくりを念頭に施策を講じています。たとえば、定期的な1on1の実施はもちろん、席の配置でメンバー間のコミュニケーションを設計したり、4ヶ月ごとの目標面談で中長期のキャリアパスとスキルパスを話したりと、一人ひとりのエンジニアと向き合い、成長機会を提供できるよう心がけています。それを実現するための前提が、開発チームとエンジニアのカルチャーフィットです。ここを考えずに採用を急いでしまうと、チームビルディングはさらに難しくなってしまうと思います。
 
——改めてカルチャーフィットが大事と思われるご経験もされたのですか?
 
小林:以前、プロダクトの成長を加速させるため、技術的なスキルや経験に重きを置いた採用をしたことがあります。カルチャーフィットを軽視したわけではないのですが、「自分がマネジメントすればなんとかなる」と思って、踏み込んで採用してみたわけです。しかし結果的には組織に定着することなく早期退職してしまいました。
 
——御社のカルチャーにフィットする人材はどんな方なのでしょうか?
 
小林:一言で申し上げると、技術力もさることながらチームのために働く意識が強い方。その上で自己実現を目指したいと考えるエンジニアです。もうひとつ、高い目標に向かって努力し続けることができるかどうかも重要なポイントです。これらは採用選考においてもっとも重視するポイントとも重なります。
 

開発組織の危機が チーム力強化とカルチャー浸透の原動力に

——御社のカルチャーについてもう少し詳しくお聞かせください。開発組織におけるチームビルディングとどう関わっているのでしょうか?
大西:スタメンには「一人でも多くの人に、感動を届け、幸せを広める。」という経営理念のもとに作られた「Star Way」と呼ぶ行動指針があります。Star Wayは、2017年7月に当時在籍していたメンバー17名、全員で合宿をし、「これだけは守る組織、会社でありたい」という思いを言語化したものです。その後、2019年に一部改定され、以下が最新のStar Wayとなります。
小林:このStar Wayをさらに開発組織向けに掘り下げたものが「Star Code」になります。このStar Codeは、2018年に起こったある出来事を契機に、2019年3月、エンジニア全員で合宿して明文化しました。その後Star Codeは、FANTSのリリースや開発組織の拡大、昨今のコロナ禍などの影響を踏まえて、2020年7月に改定したものが最新版のStar Codeです。
小林:スタメンではこの2つの考え方をベースに開発とマネジメントが行われ、各種制度設計やチームビルディングもこれらに準じて実施しています。
 
——2018年に、Star Codeを定める契機になった出来事があったとおっしゃいましたが、どのような出来事だったのでしょうか?
 
小林:合宿の模様は弊社のテックブログにも書いたのですが、実はこの前年、創業の初期から関わってくれていたエンジニアが1年足らずの間に4名辞め、サーバーサイドとモバイルアプリの新たなメンバーが4名加わるという大きな変化がありました。エンジニアの退職理由はさまざまでしたが、スタメンが目指す組織やプロダクトの方向性が、彼らの思いとズレてしまったという点で共通していたように思います。退職者が出るのは仕方がないとはいえ、ここに至るまでの間に、どこまで彼らの気持ちを汲むようなすり合わせができていたのか、本当に開発カルチャーの共有ができていたのかという反省が残りました。それを踏まえて作ったのがStar Codeでした。
 
——Star Codeを策定されていかがでしたか? 率直な感想を聞かせてください。
 
小林:結論に至るまでの過程、たとえば「自分たちの存在意義はどこにあるのか」「そもそもプロダクトを何のために作るのか」「技術とプロダクトはどんな関係であるべきか」「障害やトラブルが発生したとき仲間のために何ができるか」といった、普段あまり話す機会がなかったテーマについて膝を詰めて話し合えたことが、非常によかったと思います。
 
大西:「技術はプロダクトやユーザーのために使う道具に過ぎない」とか「助け合ってこそのチーム」とか、普段みんなが漠然と感じていることをあえて言葉にし、明確なキーワードに落とせたのが1番の収穫だったと思います。この合宿を通じて、もともとあった価値観に輪郭が形づくられ、イメージの解像度が上がった。私自身はそう捉えています。

——ビジョンや存在意義、開発の目的を整理され、新たな行動指針を策定されたことによって、どんな成果がありましたか?
 
小林:メンバーが口にする言葉の端々にキーワードが上るようになったのが印象的でしたね。その結果、より一層チームへ貢献する気持ちやチーム間の結束が固くなった気がします。
 
大西:必ずしもそれを狙って出したものではありませんが、この合宿以降、現時点でエンジニアの退職者が出ていないのは、この取り組みが大きく影響している可能性は高そうです。合宿を経験したメンバーが成長し、2019年以降に採用したメンバーに対して、スタメンのカルチャーを深く浸透させる役割を果たした結果ではないかと分析しています。
 
——2020年7月に環境の変化を受けてStar Codeの改定をしたとおっしゃっていました。小林さん自身はどのような思いでこの改定を受け止めていますか?
 
小林:合宿以降に入ったエンジニアにも当事者意識を持って、開発カルチャーの醸成に加わってほしいという思いは以前から持っていました。このまま人数が増えていくに任せて何も手を打たなかったら、セクショナリズムがはびこったり、前任者の言葉を鵜呑みにして改善を怠ったりするような大企業病の前兆を組織のなかに抱え込むことになりかねないという、危機感もありましたね。改訂版のStar Codeに「枠を越えて巻き込む」「自分の意思を持つ」という項目が加わったのには、そうした経緯があったから。またコロナ禍で働き方も事業環境も大きく変わったので、仲間同士や会社とエンジニアの関係を見直すにはいい機会だったと思います。
 

マネージャーは組織の半歩先を読んで行動すべし

——2020年3月に、小林さんはCTOを後任の松谷勇史朗さんに譲られて、自らはVPoEに就任されました。これも開発組織の成長と無関係ではないと思います。
 
小林:そうですね。松谷は創業直後にインターンから社員に加わったメンバーですが、彼を筆頭に若手が順調に成長したからこそ、開発組織が次のフェーズに進むことができたのは確かです。そういう意味では、2018年の経験を踏まえて19年に取り組んだことが、20年以降、組織の成長という形で実を結びはじめているのだと思います。
 
——これまで、大きな変化を乗り越えて組織を成長させてこられたと思います。今後は開発組織をどのように成長させていきたいとお考えですか?
 
小林:リモートワークというこれまでにない環境下でどうやって、エンジニアのエンゲージメントを高めていくかは今後の課題です。今年は名古屋本社に集約していた開発組織を、関東支社内にも設けて、プロダクト開発力を高める計画に取り組みます。はじめての経験なので、試行錯誤を余儀なくされると思いますが、こうした新たな挑戦を通じて、開発組織をより強くできたらと思っています。
 
大西:とくに関東での採用は、社員の成長を通じて事業の成長を高めるという、これまでスタメンが培ってきたスタンスを守りながらの挑戦です。私たちの価値観に共鳴してくれるエンジニアは関東にも必ず存在するはずと信じて、開発組織のスケールアップを成功させたいですね。
 
小林:これまで若手の採用と育成はうまくいっていたため、関東での採用は即戦力の経験者をターゲットにしています。本社がある名古屋と違い、関東でのエンジニア採用はアウェイだと思っています。スタメンの事業や組織の魅力をしっかり伝えられるように、候補者のプロフィールやその先のリンクまで読み込み、いまも私自身が1通1通文面を考え Wantedlyのダイレクトスカウトを送っています。関東でも頑張って、スタメンに共感してくれるメンバーを集めたいと思います。
 
——組織や事業の成長を加速させるために経営理念や行動指針を策定したのに、なかなか浸透しないと悩むスタートアップは少なくありません。最後にお2人からアドバイスをお願いします。
 
大西:スタメンの創業時にあったものといえば、社名とプロダクトの構想、経営理念しかありませんでした。そこから徐々に社員が増え、全社の行動指針を定めたStar Wayが生まれ、そこから開発組織のあるべき姿を定めたStar Codeが誕生し、今に至っています。もしタイミングがズレたり順序が間違っていたりしたら、おそらくどんな立派な経営理念や行動指針も組織に根付くことはなかったでしょう。ビジョンやカルチャーの言語化はとても重要です。でも1度、策定したからといって組織に根付くわけではありません。マネージャーは、組織の半歩先を読んで、心から共感してもらえるようメンバーに働きかける。そんな努力が必要だと思います。
 
小林:経営者がぼんやり考えているだけでは、経営理念や行動指針として共有され、組織に根付くことはありませんからね。大西がいうように、経営者やマネージャーがエンジニアに働きかけ、本気で経営理念や行動指針が大切だと思える人をどれだけ育てるかが問われるのだと思います。やり方はいろいろあるでしょうが、おそらくエンジニア自身が本音で議論し全員で答えを出すような、そういう泥臭いプロセスが必要でしょう。危機のときこそ自分たちの価値観や存在意義が問われるのは間違いありません。私たちがそうだったように、もし開発組織の危機に直面したら、カルチャーを根付かせる好機と捉えて、マネージャーはメンバーと真剣に向きうべきだと思います。
 

<小林氏・大西氏推奨。シード期、アーリー期の技術責任者にお勧めする情報源>

『人を動かす』(デール カーネギー著) スタートアップの初期では、技術について積極的に学ぶ方が多い反面、人との接し方を学び直す方が少ないように思います。この本には、組織のマネジメント、プロダクトのビジョン共有など、人を動かす際の心得と技術が凝縮していて、人生のおすすめ一冊です。

『伝えることから始めよう』(高田 明著) 顧客のニーズをつかみ、会社を成長させるために「ここまでやるのか!」と驚くことばかりで、大きな刺激を受けました。また、顧客に価値を伝える際の考え方は「ベネフィット訴求」の教科書だと思います。

『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』(ダニエル・コイル著) スタメン プロダクト部のマネージャーが全員読んでいるマネジメントの教科書です。エンジニアチームにおいて、心理的安全性がなぜ必要か理解し、高い目標に団結して挑むためのポイントがたくさん書かれています。エンジニアマネージャー必読の一冊です。

『イシューからはじめよ ― 知的生産の「シンプルな本質」』(安宅 和人著) ヒト・モノ・カネ、すべてのリソースが限られたスタートアップでは、イシューを見極めることが生命線。みんなが読んでいる鉄板書ですが、定期的に読んで自分たちの「イシュー」について考え、狙いを定めるのが大事と感じます。

著者プロフィール

武田敏則

Writer

株式会社グレタケ代表取締役ライター。デザイナー、広告制作ディレクター、情報誌編集長などを経て2006年に独立。 ウェブ、雑誌、書籍のインタビューライター兼編集に。経営、ビジネス、採用、テクノロジーの裏にあるエモい話が好物です。

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