CTO・VPoEが語る。開発組織をスケールさせるヒント(ミラティブ 夏氏×横手氏)|TECH TEAM BUILDERS #3

スタートアップの成長は試行錯誤ありき。それはプロダクト開発のプロセスによく似ている

優秀なエンジニアが採れない。採用してもすぐに辞めてしまう。そんな悩みを抱える企業は少なくありません。とりわけプロダクト開発に忙しいスタートアップであればなおさらです。

本シリーズは、シード期、アーリー期に直面しがちな、エンジニアの採用や育成にまつわる困難を乗り越えた著名企業の技術トップに、エンジニア組織をスケールさせる秘訣や解決のヒントを聞いていきます。

新連載となる『技術トップが語る。エンジニア組織をスケールさせるためのヒント』第3回は、スマホだけで簡単にゲーム配信が出来るアプリ「Mirrativ(ミラティブ)」の開発を手掛ける、テックリードの夏澄彦氏とエンジニアリングマネージャーの横手良太氏のお2人に話を聞きます。

株式会社ミラティブ
テックリード
夏 澄彦氏
1991年生まれ、大学3年からプログラミングに取り組む。大学時代に最初期のWantedlyでインターン経験を経て、2015年DeNAに入社。50人超の同期入社内で新卒MVPを受賞。Mirrativの初期メンバーとして、サーバー、iOS、Android、Webなどの開発全般に携わる。2017年よりリードエンジニア。2018年エモモ(現ミラティブ)設立に参加しCTOに就任。2020年3月からはテックリードとして、サービスおよび開発環境のアップデートに取り組んでいる。

株式会社ミラティブ
エンジニアリングマネージャー
横手 良太氏
大学時代に機械学習で情報理論、アルゴリズムなどの基礎理論、画像処理、自然言語処理などの応用分野の研究を経て大学院へ進学。修士を飛び級し、2012年にPhD(博士号)を取得。助手として研究活動、論文執筆を行う。2014年からDonutsでエンジニアとしてスマートフォンゲーム開発に従事し、2017年技術部長に就任。2018年ミラティブに参画。Unityエンジニア不在のなか、エモモ(3Dアバター)の開発を担当しリリースまで導く。2020年4月から現職。

副業・兼業エンジニアの力を借りて早期グロースを狙った創業直後


——本日はよろしくお願いします。最初にお二人の現在の立場、役割をお聞かせください。

夏氏(以下、敬称略) ミラティブは2020年3月に大きな組織変更を行いました。それに伴って私自身の役割もCTOからテックリードに変わり、現在は、マネジメント業務から離れ、もっぱらコードを書くことによってプロダクトの成長に貢献しています。

横手氏(以下、敬称略) 私はもともとはUnityエンジニアとして入社したのですが、前職で技術部長を務めていたこともあり、夏と同じタイミングでエンジニアリングマネージャーになりました。それまでCTOを務めていた夏が担っていたエンジニアの採用や育成など、エンジニア組織のマネジメント業務全般を引き継いでいます。

——現在、ミラティブさんはどのような組織体制でプロダクトの開発と運営をなさっているのでしょうか?

横手 現在、正社員としてフルコミットしているエンジニアは、夏を含めて総勢16名。それぞれiOS、Android、Webのフロント、Unity、サーバー、インフラを担当するメンバーで構成されています。正社員以外のスタッフも入れると、20名程度で開発に当たっています。

——もともとMirrativはDeNAのサービスとして2015年にローンチされ、当初からサービス開発に携わっていらしたプロデューサーの赤川隼一さん(現CEO)と、エンジニアの夏さん、コミュニティマネージャーを務めていた小川まさみさん(現CCO)が中心となり、2018年にDeNAからMirrativ事業を引き継がれたと聞いています。DeNAからスピンアウトされた直後はどのような開発体制だったのでしょうか?

夏 2018年4月の事業開始時点では、CTOの私、iOS、Android、サーバー担当の4名のエンジニアがいました。いずれもDeNA時代からMirrativの開発に携わっていたエンジニアです。横手が入社したのはその年の7月。当時は新機能として企画していた「エモモ」という3Dアバター機能を開発出来るUnityエンジニアが不在だったので、その穴を埋める形で入社してもらいました。

——横手さんを含め、創業以降にチームに加わったエンジニアはどのような形で採用されたのでしょうか?

横手 私が入社する直前に、サービス移管を担うインフラエンジニアが2人入社していますが、私も含めこの時期に入ったエンジニアは社員の紹介、もしくはWantedly経由で入社しました。

夏 時期的にも新たな環境に移ったばかりですから、採用後は確実にサービスの中核を担うメンバーになりますから、信頼出来る方が紹介してくださるリファラル採用以外に確かな選択肢はありませんでした。そのため、横手のいう通り、創業から1年くらいの間は知人の紹介か、エンジニアの利用者が多く、かつSNS上でのつながりがある方に認知していただきやすいWantedlyを活用したんです。

——リファラル採用とWantedlyを使った採用で当時の採用ニーズは満たせたのでしょうか?

夏 そうですね。そもそも少数精鋭で開発を進めていましたので、コアメンバーは比較的早く充足しました。とはいえサービスのグロースとともに開発案件は増える一方です。そのため「日本一副業で働きやすいスタートアップ」を掲げて、正社員にこだわらず、業務委託や副業や兼業で協力していただけるエンジニアを広く募集していました。副業であれば本業を手放すリスクを取る必要はありませんし、私たちも優秀なエンジニアの力を借りることが出来れば、プロダクトのグロースを急げますから。また、副業・兼業からお付き合いをはじめ、徐々に馴染んで後に正社員になっていただくことを期待していた部分もありました。実際に正社員になったメンバーも何人かいて、いまでもコアメンバーとして活躍しています。

創業3年目にして事業領域、組織体制の見直しを図る


——正社員採用に固執されず開発リソースを集めていたわけですね。それでは当時の採用課題はどこにあったのでしょうか?

夏 MirrativはDeNA時代から熱狂的なユーザーに支えられていましたが、一般的な知名度はまだまだ。それはエンジニアも同じで、ゲーム配信に馴染みのない方に、Mirrativの面白さや可能性を感じてもらうのはかなり苦労した記憶があります。もちろん説明すればエンタメ系のサービスだとわかっていただけるのですが、配信者とユーザー、配信者同士のコミュニケーションを重視したサービスだとお話して、ピンときていただける方と、こない方の落差は激しかったですね。よく私たちはMirrativを説明する際、「友だちの家でドラクエをやってる感じで楽しむサービス」と説明することがあるんですが、それでもピンときていただけない場合は、話がまとまらないことが多かったとように思います。

横手 もちろん例外もあります。私もミラティブを紹介されて最初に話を聞いたときには、どちらかというとピンとこなかったほうでしたから(笑)。でも、社員たちが働く姿を見て、優秀なメンバーが全力でサービスにコミットする姿勢、サービスやユーザーに対する熱量の高さは十分感じ取れました。これは必ず成功するスタートアップだと確信したので、オフィス見学した当日の午後には、実際にソースコードを読みはじめるくらいのスピード感で入社を決めました。いまなら「それってコンプライアンス的にどうなの?」という気がしないでもないですが、それもスタートアップらしくていいなと(笑)。ミラティブは性善説で人に接するというカルチャーの会社。そんな点も少なからず魅力的でしたね。

——では、創業2年目から3年目にかけての状況はいかがでしたか?

夏 初年度はDeNAからのサービス移管と開発と運営を支える体制を整えるだけで手一杯だったのですが、2年目に35億円の大型調達が出来たこともあって、アバターでカラオケ配信出来る「エモカラ」など、Mirrativと相性のいい新サービスを続々とリリースしました。多様な働き方を許容していたこともありエンジニア組織も拡大することが出来たのですが、一方で問題も明らかになってきましたね。

——どういうことでしょう?

横手 結果的にいえば、矢継ぎ早に手を広げた反動でエンジニアのマネジメント工数が増え、開発効率が悪化してしまいました。どれもMirrativをグロースに貢献するための施策であったのは間違いないのですが、戦術に見合ったパフォーマンスが出せなければ、成長を加速することはできません。そこでいま一度投資すべき領域を精査するとともに、マネジメント陣の役割を見直す意味で、今年3月に大きな組織変更を行ったわけです。その後、おかげさまで新体制が軌道に乗り、9月からエンジニア採用を強化しています。

成長を加速させるためにあえて選ぶ「当たり前のことを当たり前に」


——3月以降、夏さんに代わり、横手さんがエンジニア採用や組織マネジメントを担うようになりました。採用方針で変わったことはありますか?

横手 技術的な面においても、プロダクトにコミットする姿勢にしても、プロフェッショナルを採用するという方針は今後も継続するつもりです。ただ今後は、もう少し採用ターゲットを広げる必要性もあると感じています。これまで通りの即戦力採用に絞り切った採用は、事業目標を達成する上での「足かせ」になりかねないからです。今後は、リファラル以外の採用チャネルの開拓や、入社後の育成を念頭に置いたエンジニアのポテンシャル採用にも取り組もうと思っています。

夏 リファラル採用が有効な手法なのはいまも変わりませんし、兼業・副業エンジニアも貴重な戦力なのは確かですが、即戦力に絞ってしまうと、紹介していただける数、入社していただける数はどうしても限りられてしまいますからね。

横手 そうなんです。ミラティブも創業4年目を迎えるに当たって、素養のある若手を育てる余裕も生まれつつありますから、即戦力にこだわらない採用、エンジニアが成長し続けられる環境を整えていくべきだと思います。これらは、いままでのミラティブにはなかった考え方なので、これから試行錯誤することになるかもしれません。

——ほかに施策面での変更点はありますか?

横手 スタートアップは事業環境に合わせて、課題の優先順位や戦術がよく「動き」ます。そのため、本当にこの人がミラティブのカルチャーにフィットしているか、またエンジニア本人がやりたいことが出来るかどうかを見極めるため、入社前に一度業務委託という形で業務に入ってもらい、お互いの理解が深まった段階で社員になるかどうかを決めるケースが多々ありました。創業当時の状況ではそれなりに妥当性がある方法だったのですが、それだと応募してくださるエンジニアが家庭を持っていたり、子どもがいたりすると転職に躊躇されるケースも出てきてしまいます。会社のフェーズを一段上げようと思ったら、エンジニアの事情に合わせて臨機応変に対処すべきです。副業や業務委託ありきではない「当たり前の採用」を基本にする必要性を感じています。

——地に足を付けた手法を取り入れるべきだと?

横手 はい。他社のエンジニアリングマネージャーとお話していると、成功している企業はたいてい、テックブログやソーシャルメディアを使いこなして自社技術を発信し、テックイベントの主催を通じてエンジニアとの交流を深めるような「当たり前」の活動を粛々となさっていることがわかります。なぜやるかといえば「当たり前のことを当たり前にやらないと、当たり前の結果が得られない」からでしょう。それはエンジニア採用も組織マネジメントも同じはずです。逆にいえば、ミラティブもようやく正攻法で勝負できる段階になったということなのかもしれません。

▼参考:Mirrativ Tech blog:https://tech.mirrativ.stream/

夏 それは技術的な面でも同じことがいえますね。いまMirrativのバックエンドやインフラには、いまもDeNA由来の技術がたくさん残っています。当初はこの基盤があったからこそスタートダッシュを決められたわけですが、いつまでも過去の技術にすがり続けるわけにはいきません。エンジニアの採用や育成と同じように、技術的な面でもミラティブはこれから次の段階に進みます。横手のいうように、いまミラティブは残すべき物と変えるべきものを峻別しなければならない時期に差し掛かっており、それが出来る状況にあるのは間違いないでしょうね。

——似たような状況にあるスタートアップに対してアドバイス出来ることはありますか?

夏 私たち自身もその渦中にいるので何とも申し上げにくいのですが、採用もマネジメントもプロダクト開発と同じように、何事も小さく試してみて、失敗試行錯誤しながらベストな落とし所を探していくのがいいのではないかと思います。

横手 同感です。ミラティブでは人事施策にしても、その他の福利厚生にしても、メンバーに対して「完成形ではないけれど」と宣言してから、探り探り導入することが多いのですが、これが出来るのは、全員が「変化」を前提としたプロダクト開発的なアプローチに通じているから。組織が大きくなるとなかなか難しい面もありそうですが、スタートアップなら可能です。私たちもこうしたカルチャーは、今後も出来る限り残していきたいと思っています。

——創業以来、Wantedlyをご利用いただいています。いまはどのような使われ方をされていますか?

横手 うちの場合だと、Wantedlyがミラティブに興味を持って検索してくださった方との接点として機能しているのでとても重宝しています。おそらく、Wantedly自体が、堅苦しい「応募」ではなく「話を聞きにいきたい」という、カジュアルな出会いを演出されているから、Wantedly経由でアプローチしてくださっているのかもしれません。

夏 実際、検索でWantedlyのページを目にする機会は多いですし、エンジニアが多く見ているメディアでもあるので、今後も使いたいと思います。設立間もないスタートアップがエンジニア募集や採用広報の場として利用するのはありではないでしょうか。自社の採用ページ代わりにも使えますしね。

横手 とはいえ、私たちもまだまだ使い切れていないサービスや機能がたくさんあるようです。スカウトはすでに利用しているので、次はエンゲージメントの機能を研究しようと思います。

——ぜひそうしてみてください。本日は長時間にわたりありがとうございました。

夏・横手 こちらこそありがとうございました。

(取材・執筆協力/武田敏則)

著者プロフィール

武田敏則

Writer

株式会社グレタケ代表取締役ライター。デザイナー、広告制作ディレクター、情報誌編集長などを経て2006年に独立。 ウェブ、雑誌、書籍のインタビューライター兼編集に。経営、ビジネス、採用、テクノロジーの裏にあるエモい話が好物です。

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