2020年12月18日(金)に行われたオンライントークイベント「ぼくらの転機〜ココロオドル仕事との出会い方」#1、MCはコラムニストの島田彩さん、ゲストにはホテルプロデューサーで株式会社L&Gグローバルビジネス代表を務める龍崎翔子さんをお招きしました。
龍崎さんが経営するHOTEL SHE, OSAKAに宿泊したこともある島田さん。おふたりの対談風景の一部をお届けします。
新しくなったWantedly ──ホテル経営者を志すきっかけとなった龍崎さんの原体験
島田:このたびフルリニューアルとなったWantedlyのプロフィール。まず自分にキャッチコピーをつけられるのがすごくいいですよね。龍崎さんのキャッチコピー「世の中の渇きを潤す、辺境の旅人」とはどういう意味でしょうか?
龍崎:説明を求められるとすごく恥ずかしいですが……(笑)。私がホテルをつくろうと思ったきっかけは、どのホテルに泊まっても違いが感じられない、満たされなさからなんです。その感覚は、痛みや苦しみというよりは「渇き」がしっくりくるな、と。
龍崎:なくても生活はできるけど、あったほうが人生が潤う、そういうサービスをつくりたいなと思っていたんです。それを「世の中の渇きを潤す」と表現しました。
島田:「辺境の旅人」部分はどうでしょう?
龍崎:私自身の性格ですね。誰も見向きしない辺境に新しく井戸を掘って木々を生やして人が住めるようにする、そんな活動が性に合うんです。
島田:なるほど。キャッチコピーの由来を聞いただけでも、龍崎さんの人柄が染みわたってくるようです。私もWantedlyのプロフィールは昔から使っていましたが、今回のリニューアルにはすごくびっくりしました。ふだん文章を書いている癖なのか、書けば書くほど小説みたいになってしまって(笑)。今までの職務経歴書ではありえなかったことですよね。
龍崎:とてもわかりやすくなりましたよね。その人のパーソナリティというか、にじみ出る人格を見ると採用もしやすいと思います。
島田:私は龍崎さんのプロフィールの「8歳の時に家族でアメリカ大陸を横断する旅をしました」というところが気になってるんです。
龍崎:私の原体験ですね。半年だけアメリカに住んでいて、日本に帰る前の最後の1か月間、家族でアメリカ横断ドライブをしたんです。いま聞くと楽しそうですが、当時8歳だった私にとっては退屈でした。父親はハンドルをずっと握っていて、母親は地図を見ていて、私は後部座席でひとりずっと窓を見ている生活。とにかく車から降りたかったです。今日のホテルはどういうところかな、と楽しみにしながら車で時間をつぶしていました。
龍崎:でも、いざホテルに着いて客室のドアを開けたら、その先にある景色は昨日や一昨日のホテルと何も変わらない。アメリカは街によって気候や文化が違うのに、ホテルの中にはその街らしさが全然なかった。そこで、もし自分なら、その街の空気感を取り入れてもっとお客さんを楽しませるホテルをつくるのにな、と、当時8歳ながら思いました。それが今に至る、私の原体験です。
龍崎さんの転機:“恋人からもらったレコードプレーヤー”がホテルの新たな可能性をひらいた
島田:今まででいちばん印象深い、龍崎さんの転機は何でしょう?
龍崎:2016年に彼氏からクリスマスプレゼントでもらったレコードプレーヤーですね。それまで私はレコードプレーヤーを見たことも触ったこともなかったんですが、レコードに針を落とすことを体験し、ジャケ買いを知り、レコードの音のあたたかみを感じて、これまで素通りしていた渋谷のレコードショップに入ったりするようになりました。自分の生活空間の中に生活外のものがあることで、新しい世界の扉が開くような感覚。これは、ホテルでも再現できるんじゃないかと思いました。なので、2017年にオープンしたHOTEL SHE, OSAKAでは全客室にレコードプレーヤーを置いたんです。
島田:HOTEL SHE, OSAKAには3年前に私も泊まったことがあります。友人がサプライズで予約してくれて、そこで本当に特別な1日を過ごして。あれからずっと覚えていました。そのときはじめて私もレコードに針を落としたんです。音楽ってなんて繊細なんだろうと感動しました。それからレコードを聞くようになって、ライフスタイルが変わったんですよ。
龍崎:まさにそうですね。ホテルはお客さんの生活空間でありながら、作り手であるキュレーターの意思が入り込む余地があります。だからこそ、メディアとして新しいライフスタイルを伝え、お客さんがライフスタイルを試着できる可能性があることに気づいたんです。それが2016年のクリスマスでした。
島田:たくさんの個性豊かなホテルをつくられている龍崎さんなので、なにかとても特別な体験があるイメージを持ってしまっていましたが、実はちょっとしたきっかけからなんですね。私も過去のことを思い出してみようと思いました。
龍崎:そうですね。過去の瞬間を自分がどう感じたかを思い返して解像度を高めることで、今後の自分に役に立つタイムカプセルのようなものになると思います。
ココロオドル仕事との出会い方:自分が欲しいと思うものを言語化する
島田:さまざまな原体験や転機があっていまの龍崎さんがあると思いますが、どういう風に過ごしていると転機に出会えるのでしょうか?
龍崎:自分が「これが欲しい」と言えるかどうかが大事だと思っています。自分が世の中に対してあったらいいなと思うものを考えて、それを実現できそうな人と会ってみたり。そうすれば自分も仕事をするのが楽しくなるし、相手にとっても一緒に働きたいと思える存在になれる可能性がありますよね。「何が欲しいか」をしっかり言語化させることが大事かなと思います。
島田:龍崎さんがつくっているものは、本当に龍崎さんご自身が欲しいと思ったものなんですね。
龍崎:そうですね。今は私が欲しいと思ったものの割合が多いかもしれませんが、のちのちはL&G社の社員が欲しいと思ったものをカタチにすることもできたらいいなと思っています。
島田;なるほど。「こんなの私だけかもしれない」「他の人には必要ないかもしれない」と考えてしまいそうですが、それこそニーズがあるかもしれないので、自分の「欲しい」は大事にしたいですね。
島田:コメントで質問もたくさん寄せられているので、いくつか答えていきたいと思います。「龍崎さんが大事にしている人生の価値観はなんですか?」
龍崎:一番大事なのはやっぱり愛なんですよね。せっかく生まれたからには、どう楽しく過ごすかは自分次第ですし、深く考えすぎてもいけないなと思っています。愛があってこそのプロダクトであり、最終的には人と人の関わりの中で、どう自己満足するかじゃないでしょうか。そこから人との出会いも生まれてくると思います。
島田:こちらもコメントからの質問です。「自分のやりたいことを実現するには何が必要だと思いますか?」
龍崎:私も大学1年生のときに、ホテルをやりたいという夢はあったものの具体的な方法がわからなくてつらかったですね。夢だけが大きくて遠くて、そこに至るまでの道が見えずに右往左往して、疲弊していました。
龍崎:悩んでいた私の転機は、Airbnbの日本上陸でした。それがきっかけとなって、部屋とベッドひとつあればホテルになる、ということに気づかせてくれたんです。それなら私でもできると思えました。なので、自分のやりたいことを身の丈に合うまで小さくブレイクダウンして、夢からToDoにすることが大事だと思います。そこが一番難しいんですが……ブレイクダウンする方法もいろいろあるので、どれが一番ベストなのかを考えて実行することですね。その答えは誰にもわからないし、見つけられた人だからこそ登れる階段なので、ぜひがんばってみてください。
イベント配信を終えて:愛をもって日常を生きる二人
──実際にHOTEL SHE, OSAKAに泊まったことのある島田さん、実際に今日、ホテルの作り手である龍崎さんにお会いしていかがでしたか?
島田:私は昔から「しーちゃん」「しー」と呼ばれてきたので、HOTEL SHE, OSAKAができたときは失礼ながら「私の家ができた!」と思っていました……(笑)。実際に泊まってみて、まさしく私の生活に関する転機のひとつになったんです。なので龍崎さんとはずっとお話ししてみたかったですし、今日は本当に嬉しい出会いでした。この対談が決まった時、3年前にHOTEL SHE, OSAKAに泊まった日のことをついFacebookに書いてしまったぐらい。
龍崎:暖かい記憶の舞台になっていて本当にうれしいです。当時、「しーちゃん」がHOTEL SHE, OSAKAに泊まりに来ていたことはSNSで知っていました。それから3年の時を経て対談することになり、きっと気が合うだろうなと楽しみにしていたんです。実際に会ってみると本当にグッドバイブスでしたね。言いたいことをわかってくださるので安心して話せました。
──自分の思いや体験をもとに、龍崎さんはホテルをつくることで、島田さんは文章を書くことでアウトプットをされていると思いますが、お二人の共通点などは感じられましたか?
島田:「愛と日常」だと思いましたね。生まれた環境なども確かに影響するけれど、普通の日常の中にきっかけはあると確かめることができました。だから龍崎さんは「物語の人」だなあと。
龍崎:たしかに、私がホテルをつくっているのもある意味エッセイ的ですね。自分の体験から感じた欲求やあり方のイメージを、宿泊体験や空間に落とし込んでいる気がしました。
──改めて自分の原体験を掘り起こしてみていかがでしたか?
龍崎:転機のきっかけは、本当に些細なことが影響しあった結果だったんだなと思いましたね。たとえばHOTEL SHE, OSAKAのコンセプトのきっかけはレコードプレーヤーのほかにも3つぐらいありますが、それぞれがビリヤードみたいに少しずつ動き出して、ある時点で合流してHOTEL SHE, OSAKAになったんだと発見できました。本当に些細だけど、それぞれの出来事がバタフライエフェクトのように影響しあって、今の自分があるのだと再認識しましたね。
島田:プロフィールや職務経歴書をつくるときって、自然と自分の深掘りをするからおもしろいですよね。以前から職務経歴書はもっと情緒的になってもいいと思っていたので、新しいWantedlyのプロフィールは本当にいいと思います。私も今回改めてプロフィールをつくってみて、自分が気にしていなかったことも言語化できて、楽しかったですね。
自身の体験と感覚を大切に生きるお二人の対談からは、「日常と愛」のテーマが自然とにじみ出てくるようでした。
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