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某一部上場企業にハメられかけたけど、運よく回避できた理由【1】

正直なところ、このエピソードを書くかどうかは迷いました。

だけどウチの会社の将来のリーダーや、仕事を探しているあなたに対し『どんなに機会損失を出しても(儲けそこなっても)コンプライアンス(法令遵守)を徹底する』という方針をわかって欲しくて書くことにしました。

この問題は2014年の秋に起きたものです。機会損失は億を超えたけど私の心は晴れやかでした。

【読了目安:約4分】

今となってはもう本当に『いい経験できたな』的な感じでしかないんだけど、これから、同じような被害者を出さないためにも、あなたにとあるエピソードをお伝えします。

まず最初にカンタンな自己紹介をします。私たちはいわゆる『デザイン会社』です。『エディトリアル&グラフィックデザイン全般』と『のぼり旗を制作販売するECサイト』の 2本柱で成り立っています。

だんだんとそのECサイトが育ってる状態です。そして商店街にものぼり旗が徐々に売れ始めてきた頃のことです。これから記すことは固有名詞をぼかしたり省いたりしてるのでイマイチ、リアルに感じられないかもしれませんが全部、実話です。彼らへのちょっとした牽制の意味もありますが、……特別な正義感なんてありません。

ただ「売られた喧嘩は買うだけ」というストーリーです。

それは2014年の夏頃の話です。当時、私の会社にいた広報・マーケティング部長のUくんが地元の商店街をまわっていたときに、こんな電話をかけてきました。

U部長「井口さん、○○商店会長から××××(みんな知ってる一部上場企業)の営業さんを紹介されました。そこは首都圏の234件もの商店会と繋がろうとしているようです。彼は頭もキレるし、いい話だと思うので今すぐお連れしてもいいですか?」

「うん、いいよ」

というわけで、すぐに会うことにしました。

そもそも私が頭がスペシャル、キレると思ってる広報部長のU(上智大学の外国語学部卒)が「頭がキレる」って言うんだから、どんだけなんだろうという興味もありました。

ちなみに私は過去に東大卒の5人ほどと仕事をしたことがありますが、地頭と行動力で言えば広報・マーケティング部長のUはその人たちと比べてもピカイチです。(ただ某大学関連の仕事をしはじめた東大卒の人は破格のダントツ1位なんですけど…)当時、私はUの発案なら基本「いいよ」としかいいませんでした。

ビジネスにおいては地頭や、交渉力、問題解決力、行動力の方が『学歴』より大事だと思っているのですが、学歴とそれらの能力を兼ね備えた人というのは、やっぱりいるんですよね。


某社営業マンAが最初に私たちの事務所に来た時の話に戻します。

某社営業A「どうもはじめまして…(中略)実は私たちは各商店会にホームページ制作を含むインターネット関連サービスを助成金で受注しようと首都圏に大規模なセールスをかけているんです。ただ私たちの弱みはインターネット関連のことしかできないことなんです。そこで御社ののぼり旗やタペストリー、パンフレットといったリアルな媒体とともに売り込みをかけたいんです。リアルな媒体+インターネット関連のサービスが助成金で全額まかなえるなら断る商店会はほとんどないんです。ただインターネットサービスだけだと『よくわかんないからいいや』となりがちなんです」

「なるほど。のぼり旗やタペストリーだけでなくパンフレットの制作なんかはうちが得意とするところです。で御社のメリットは受注率の向上だけでいいんですか」

某社営業A「ええ、それ以外は何もいりません。リアルな媒体はわかりやすくて、やっぱり強いです。受注率が上がれば御の字です。で、御社のご実績を先ほどUさんから伺いましたが、とても私たちのセールスとの親和性が高いです。なので将来的には御社に神奈川の総代理店として仕事をしてもらいたいのですがどうでしょうか。すべてはお渡しできないのですが首都圏の商店街の見込み数は234件にもなります」

「それだと、ざっと計算すると横浜だけでも売上が億を超えちゃいますね。ははは!」

某社営業A「そういうことになります。ははは!」

という、まるで越後屋と悪代官のような高笑いがその場に響いた。


後日、その一部上場企業の本社ビルにUと一緒に向かうことになりました。かなり待たされた後に某セクションの副部長Bが登場。

某社副部長B「どうも…(中略)Aからも説明があったかと思いますが、ゆくゆくは神奈川の総代理店になって欲しいんです。加盟料や弊社へのキックバックはいりません。失礼ですが、たくさんの仕事をさばく処理能力はおありですか」

「納期さえコントロールできれば大丈夫です。ライター・編集者・カメラマン・デザイナーほかいい仕事をするフリーランサーも手配できますし、凸版さんの第一営業部(花形部署)の方とも懇意にしてますのでどんな部数でもこなせるかと…」

ただそのとき私は、副部長Bの顔が若干曇ったのが気になった。そして

副部長B「大きいところはマズいな…」とのつぶやきも気にはなった。

とはいえ、その場は基本合意をとりつけ後日、某商店街を紹介された。

早速、その日からU部長と私はクリエイターを探すことになる。首都圏の商店街の仕事に興味はないかと声がけをして次々に口説いてまわった。ほどなくして約20名ほどのクリエイターとの内諾が取れたのでした。みな一流の仕事をやってきた人々だ。ある意味、商店街の広報誌などを作るには『オーバースペック』な人たちだ。しかし助成金の額がデカいのでこの人たちに妥当な報酬を支払っても成り立つのだ。周到な準備をし、時は経ちいつの間にか秋になりました。

「さあ、いつでもスタートできるぞ」

まずはC市の商店街を紹介された。順調に仕事は進む。しかしU部長からこんな報告を受ける。

U部長「C市の商店会長との顔合わせの後にAさんと軽く飲みに行ったんですけど、ちょっとおかしいんです」

「何が?」

U部長Aさんは、さかんに『世の中、金だ』と言うんです。正直、違和感を感じています」

「へー。そういえばいい時計(パネライ)してたもんねー。ほかにおかしいところは?」

U部長「某社が私たちへ紹介料を取らない代わりに商店街に便宜を図れと…」

「キックバック?それならママある話だけど。詳細は?」

U部長「その点を明確にしようとすると、消費税分がどうとか言って、あいまいにされます」

「メール等でのやりとりの記録はないの?」

U部長「はい、電話か直接会った時にしか言われません」

「そっかぁ…」


なんだかいろんなことが、あいまいなまま流されていきます。でも誰もが知ってる某社のブランド力に「大丈夫だろう」と時も一緒に流れていきます。

「ところでUくん、まだ某社から連絡は来ないのかな」

U部長「それが、何度も催促しているんですが、もう少し待ってほしいとの一点張りで」

「それで締め切りも遅らせることができればいいけど」

U部長「どうやら締め切りはズラせないらしいんです」

「そっか、じゃあ●日までに商店会のリストをもらえなければウチは降りると伝えてくれ」

U部長「…仕方ないですね。わかりました。伝えます」


そして某社営業Aより営業時間後に、U部長に対して激怒した感じのメールが届く。メールは共有してるので私も文面を見た。そしてすぐさまU部長に電話をかけた。


「どうしたの?大丈夫?」

U部長「私は先方から今、電話で怒鳴られたところです」

「約束の期日を過ぎてるのは向こうなのに?逆ギレ?」

U部長「消費税分のキックバックのことや納期のことを大丈夫かと確認したら『せっかく1件、200万〜400万円もする案件を紹介してあげているのに、こっちの要望が聞けないとはどういうことだ!立場をしっかりわきまえてくれないと不快だ! 』とキレられました」

「う〜ん。不快なのはUくんだよな。君は悪くないから全く気にしなくていいよ。おつかれ」


私は電話を切った瞬間から急遽、この案件から降りる方向で動き始めます。部下がナメられるのは私がナメられるのと一緒でとても不愉快だからです。

で翌10月4日に横浜市の市会議員と税理士に連絡を入れました。ありがたいことに議員は即日、事務所に来てくれました。そしてその議員から紹介されたキレキレ弁護士は3日後に時間を作ってくれることになりました。

詳細なやりとりや消費税のキックバック等の金の流れを説明すると、3者の意見は『これは助成金詐欺を唆(そそのか)そうとしている』と一致した。

ただ10月7日にキレキレ弁護士はこうも言った『たぶん、これは典型的な助成金詐欺だといえますが、もし某社のアドバイス通りにことを進めるとクライアントである商店会が主犯でデザイン制作会社である御社が従犯(共犯みたいなもの)になります。そして某社は証拠を残していないですよね。ということは確信犯ですね。こいつは悪いですね。罪は商店街と制作会社になすりつけて自分は何も知らない感じで売上だけあげるんですね。そして、もしバレた時には、お客さんである商店会は今後一切、助成金を受けられなくなります。そして御社も倒産の危機を迎えるリスクがあります。証拠を残していないので某社は知らぬ存ぜぬを通せるというわけです」

「でもキックバックはどこの世界でもありますよね」

弁護士「そうです。一般の商取引きならありえます。ただし今回の事例は国に対して消費税分の上乗せ請求を行い、後日デザイン会社が受け取った報酬から消費税分を商店会にバックする形を要請されているので、もしもその通りにしたら結果的に商店会と共謀して消費税分を国から騙し取ったということになります。これは世間一般のキックバックとは全く異なります。つまり彼らは商店会にはそこらへんをゴマかして『消費税すら1円も払わずにのぼり旗やホームページなどが作れます』と営業をかけて成果を出してるんでしょう」

私「お客(商店会)と私たち(業務上のパートナー)にリスクを負わせて金儲けですか」

弁護士「そうです。かなり悪質です。でもよく仕事が始まる前に気づきましたね」

Uが理不尽に怒鳴られなければ気づかなかったです。それで不審点がつながりました。『大きいところはマズいな…とのつぶやき』『世の中、金ですよね…とのセリフ』『消費税のキックバックの云々ごまかしかたと証拠の残らない連絡方法』『普通じゃないスケジュールの遅れ方でこちらを焦らせたことなど』この仕事はやはり降りた方がいいですね」

U部長「ただ某社はとても大手だし簡単には仕事を降ろしてもらえないのではないでしょうか」

弁護士「怖がらなくていいですよ。ただ彼らは、ほかの商店会や制作会社に同じことをやってる可能性があります。ほとんが違法性に気づかずに仕事をしてしまい、逃げようとしても弱みを握られているためになかなか逃げられません。特に小さい制作会社はだいたい丸め込まれるでしょうね。証拠を残さない連絡方法も徹底しています。彼らは確信犯です。どうです、仕事を断るのもひと苦労でしょうし、そのひと苦労ついでに証拠を押さえませんか。もし何かあった時の切り札になります。井口さんならいい度胸してそうなんで、できると思いますよ」

「ほうー。なんだかとても面白そうですね(ニヤリ)

弁護士「きっと楽しいですよ。明日夜の打合せ後にボイスレコーダーで消費税額を水面下でバックする方法を教唆した言質を記録してください。たぶん、最初の打ち合わせが済めばそこで『もう仕事を断れないだろう』と油断が生まれ、今後の悪だくみの明確なプランを社長にも話すでしょう。そこで『御社への紹介料の代わりに助成金の消費税分を商店会にキックバックするということでいいんですよね』と聞いてください。『そうです』と録音できたら完了です(ニヤリ)

私は早速、amazonのお急ぎ便でペン型のボイスレコーダーを注文した。打ち合わせ当日の朝に届いたそのボイスレコーダーをいじりながら録音のテストやら再生を何度も繰り返した。

夜になって都内某所にある商店会関係者と外部のデザイナー、編集者など10数名に心の中で謝りながら、打ち合わせを予定通り行った。

そして約1時間半の、決して実ることのない打ち合わせが終了した。


だが私にとってはここからが本番だ。ボイスレコーダーのスイッチを入れ、私は某社営業Aに声をかける。

私「今夜は打ち合わせお疲れ様でしたぁ。この前はUが失礼しました。これからふたりだけでちょっとコーヒーでも飲みませんか。確認したいこともあるんでー」

A「いいですねー。行きましょう」

そのときの私は、まるでハンターが獲物を狙う時のように心臓がバクバクと高鳴り、脳内にアドレナリンが出まくっていたのだった…。


【つづく】

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