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人と、地域と、つながりながら 私だけの行き先へ

「こんにちは、初めてのご利用ですか?」。木目が温かな雰囲気の店内から、明るい声が聞こえる。

笑顔でお客さまに話しかけるのは、高山咲さん。2023年3月に出身地の愛媛県にUターンし、北宇和郡松野町の目黒集落で株式会社サン・クレアが運営する「森とパン」で働いている。

一度は地元を離れ、憧れた東京へ

高山さんは専門学校を卒業後、洋服の販売員として約1年間愛媛県内で働き、22才のときに上京した。「洋服がすごく好きだったので、東京が一番いろいろなことを吸収できるところかなって思っていたんです。田舎育ちだったので、単純に東京への憧れもありました」

東京で働いていた頃の高山さん

渋谷、代官山、横浜などで店頭に立つほか、表参道ではディスプレイでブランドの世界観をつくり出すVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)のアシスタントを務めるなど、ファッション業界に約13年間関わり続けてきた。首都圏での生活にも、いろいろなものや人と出会える面白さがあったという。

「あれが食べたい、あそこに行きたい、と思う場所が東京にはたくさんありました。一人でいても暇になることがないというか……。年齢もあると思うんですけど、東京に出たばっかりの頃は愛媛が本当に好きじゃなかった。何もないし、つまんないし。でも年齢を重ねるごとに、都会とは絶対に比較できない“田舎の良さ”を感じるようになってきたんです」

未経験の業界へ 原動力は「挑戦してみたい」気持ち

「ゆくゆくは地元に帰ることができたら」。漠然と抱いていたこの気持ちが形になったのは、思いがけないつながりからだった。「兄が酒屋をやっていて、サン・クレアの代表の細羽さんと知り合いだったんです。そこで『森とパン』をご紹介いただいたというのが、ここで働くようになったきっかけでした」

長く働いたファッション業界から、全く違う業種であるパン屋へ。地元に戻るとはいえ、生活もがらりと変わる。大きな環境の変化に悩んだが、高山さんの背中を押したのは「新しいことに挑戦してみたい」という気持ちだった。

「ファッション業界でしか働いたことがなくて、ここから新しいことを始めるのって無理だよねって決めつけていた自分がいたんです。でも同時に、40代、50代になってそんな自分が愛媛に戻っても、受け入れてくれるところなんてあるのかなって考えると怖かった。だから、新しいことを学ばせてもらえるならこんな機会はないなと思って入社を決めました」

入社前には一度目黒集落を訪れ、豊かな自然にも心を奪われた。「ここは水がきれいだし、空気はおいしいし、動物もたくさんいる。ずっと川を見ているだけでも飽きることがないんです」。生まれ育った愛媛県の中にあっても、ここは新たな発見に満ちた特別な場所なのだと高山さんはほほ笑む。

パン屋を超えて「モノガタリ」を伝える場所へ

高山さんは現在、「森とパン」で販売を担当している。地域のイベントに出店して、ブースでパンの販売を行うこともある。「全く違う業界だけど、ファッション業界も今の仕事も接客業。お客さまとのコミュニケーションの取り方にはこれまでの経験が生きていると思います」

2023年5月には伊予市で開かれた「Life Market」に出店。隣には株式会社サン・クレアの清水裕太さんによる藍染めのワークショップも

「森とパン」は2023年4月にリニューアルオープンしたばかり。「子どもに食べさせたい安心安全な食を発信する場」として、松野町に自生する野草や自然栽培野菜を使用したサンドイッチなどを用意している。これからはパンだけにとどまらず、高山さんが中心になって店内での物販を充実させていく予定だという。

「パンやサンドイッチのように、“土地のものを循環させる”という考えを物販にも反映させたいと思っています。ここは愛媛から高知に行く方や、『水際のロッジ』に向かう方が行き交う場所。『森とパン』は、パン屋さんだけどパン屋さんじゃない、この町のさまざまな“モノガタリ”を発信していく場を目指しています。この気持ちを、物販で扱うものからも伝えていきたいです」

現在は「水際のロッジ」のグッズなどを販売している

これから増やしていきたいものの一つが、目黒集落で出る廃材を使った商品。本来は捨ててしまうものに新しく命を吹き込み「アップサイクル」することで、価値を感じて手に取ってもらえるようなものを作りたいと考えている。

「どうあるべきか」方向性を見つけたい

「森とパン」で働き始めて、まもなく三カ月。満足度を尋ねると「会社への満足度はとても高いです。でも、自分の方向性がまだ定まっていなくて」と苦笑いの高山さん。

「何か自分の強みを持っていれば、もっともっと周りの人に協力できるのにと思うこともあります。この会社で自分はどうあるべきかとか、『森とパン』の物販担当としてどうしていきたいかがもっと明確になったときに、満足度が100パーセントを超えられるんだと思っています」

「私はまだまだ模索中。周りにはやりたいことが明確な人がたくさんいるので、早く私も見つけなきゃって刺激を受けています」

株式会社サン・クレアでは、スタッフの強みや資格を生かした商品づくりが積極的に行われている。勤務時間内には、それぞれが挑戦したいことの準備に使える時間もある。

「周りを見ていると、“これに挑戦したい”と思うものが見つかったときに協力してもらえる環境にあると感じています。いろいろな人に応援してもらったり、話がどんどんつながっていったり。人と人とのつながりは本当に大切だとも実感しています」

「私も置いて行かれないようにしたいな」。迷い、考え、少しずつ地域とつながりながら、高山さんは歩き出している。自分だけの行き先を探す姿が、きらりと光っている。

文/時盛 郁子

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