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【緊急インタビュー】コロナショックは企業のあり方をどう変えるのか?(後編)

目次

1. 新型コロナウイルスの巧みな戦略
2. 私たちが良しとしてきた価値観に対する否定
3. 人類はウイルス以上に進化する
4. 徹底的にウイルスに打ち勝つ社会へ
 4-1. 触らなくても完結する社会
 4-2. 離れていても完結する社会
5. 新型コロナウイルスが経営者に投げかけた問い
6. 「私たちが売っているものは何なのか?」の再考

新型コロナウイルスの巧みな戦略

──2020年3月には、国連事務総長が「これはウイルスとの戦争だ」と宣言しました。ここまで大事になるとは、どの国も当初は予想していなかったのではないでしょうか。

人もウイルスも、今ここにいるということは、長い歴史上で、自然淘汰に生き残ってきたからです。

これほどの間、淘汰されずに生き残るのは、どちらも、生存戦略と適応力が圧倒的に優れているからだと思います。

ウイルスには手足はついていないため、生物に住み着き、宿主の接触や飛沫を通じて移動し、種を繁栄させることは知っての通りですが、今回の新型コロナウイルスが取った戦略は、さらに凝ったものでした。

それは、「感染者の8割を、無症状か軽症にする」という戦略です。

私自身もそうでしたが、今回の騒動の初期の頃は、「若い人はかかっても、そんなに大変なことにならなそうだから大丈夫」と思いましたし、そこまで気にしない人が多かったのではないでしょうか。

しかし、それこそが敵の真の狙いでした。

まず「無自覚な感染者」を世界中に増やし、彼らに拡散してもらうことで自己を指数関数的に増殖させる方法をとったのです。

こうして、個人も、社会も、そして国も、敵の戦略の本質に気付くまでに時間がかかりました。

私たちが良しとしてきた価値観に対する否定

──新型コロナウイルスの影響によって、今後、社会はどうなっていくと思いますか?

これまでも、国や地域によって局所的に痛みを伴うことはありましたが、人類全体が同時にリアルタイムでここまでの痛みを共有することは、歴史を振り返ってもそうなかったと思います。

アナリストのデータを調査していても、当社が属するIT・WEB業界や、当社のお客様が属する不動産業界、また電力・ガスなどの公益関連は、今回、前線で最も大きな被害を浴びている業界ではありません。

しかし、飲食、小売り、観光・宿泊、航空・交通、イベントなどの業界は、待った無しの状況で深い傷を負っています。

人類全体が感じたこの痛みは、相当、大きいはずです。

それはいわば、私たちがこれまで理想と考えてきた状態に対する否定でもあります。

旅行したり、映画を観たり、ライブに行ったり、仲間と飲んだり、そんなことができる楽しい街や施設に遊びに出かけたり。

敵は、逆にそこを突いてきました。

おそらく、今、多くの人に、心理的にも影を落としているのは、無意識的にせよ、その点を突かれたからではないかと思います。

「私たちが時間をかけて積み重ねてきた、良しとされている文明や価値観を、すべて否定された」と。

私は、その反動でここから人類が起こす行動には、すごいものがあると思っています。

なぜなら、人類はウイルス以上に進化するからです。

人類はウイルス以上に進化する

──詳しく教えて下さい。

人間の最もすごいなと思う力は、痛みを知ってから、「もう二度と同じ思いはしたくない!」と本能が察知し、そこから対策を練り上げて具現化するスピードです。

これがすさまじく速い。

また、どれだけ離れている他人同士でも、そこに強いストーリーがあれば、互いに協力することができます。

この、具現化の速度と、思想を共有できるネットワークの範囲が、あらゆる種を凌駕しているからこそ、人間は地球上で頂点に立っているのでしょう。

今回の新型コロナウイルスに対するワクチンが開発され、感染が収まったとしても、歴史を見る限り、また数年〜十数年後に確実に新種のウイルスがやってくるわけです。

そのとき、今回と同じような状況に陥ることを、人類は今から全力で阻止するでしょう。

経営者も同じです。

「外出自粛になってお客さん減ったなぁ。どうしよう」という事態はもう起こらない、というか、何がなんでもその事態を阻止すると思います。

ありとあらゆる企業、社会、そして個人の行動や価値観までもが、全力で、徹底的にウイルスに打ち勝つ構造に作り変えられるでしょう。

徹底的にウイルスに打ち勝つ社会へ

──具体的にはどのようになると考えていますか?

触らなくても完結する社会

まず、当然の流れとして考えられるのが、「触らなくても完結する社会」です。

紙幣からのウイルス感染はあるのかという話題もニュースになりましたが、都内に住む知人のうち何人かは、紙幣どころか、「タクシーの運転手さんにクレジットカードを渡すのも嫌。運転手さんが触ったものをまた返されるから」と言っていました。

また、私がよく行く飲食店でも、隣の外国人の方が、お金を払うとき、店員さんに「このタッチパネル、アルコール消毒液で拭いてくれませんか?」と言っていたのを見かけています。

決済するときに「触らなくてもいい」方法、つまりキャッシュレス決済がないと、違うお店に行かれるお客様も出てくるでしょう。

触らずに完結させることは、とくに日本人は綺麗好きのDNAを持つことも関係しているのか、実はかなり得意で、自動ドアも昭和初期のころから原型がありましたし、今では、センサーに手をかざすだけで流れるトイレや、近づくだけで開く便座、手をかざすだけで水が出る蛇口なんかもあります。

モーションセンサーの市場は大きく伸びると思います。

また、そもそもウイルス感染リスクがないことから、ロボティクス化はさらに加速するはずです。

日本が大きくリーダーシップを取れる分野でもあります。

さらにタッチパネルに代わる次のインターフェイスの開発が、急速に進むと思います。

なぜなら、ウイルスが人類にしてほしいことは「タッチ」だからです。

「スマホの次はARグラス(眼鏡型デバイス)で、入力形式は音声入力」とよく言われていますが、これも今になってみれば運命的な流れを感じます。

なお、ウイルス感染防止については、触らないだけでなく、換気や、他者との距離が重要になるため、これからの建築物は、天井高や防菌・空調機能がこれまで以上に求められたり、他者との距離がわかる床デザインや照明など、面白いアイデアが出ることが予想されます。

新時代の建築設計やリノベーションの需要は、大きく伸びるのではないでしょうか。

逆にいえば、どんなときにおいても、「ここ、ウイルス対策、もちろんされてますよね?」とツッコミが入るかもしれません

離れていても完結する社会

次に、「離れていても完結する社会」です。

国によって差はあるでしょうが、教育、医療、選挙など「これがないと社会が成り立たないのに、いまだに現地に行くという方法をとっている」ジャンルから順に、急速に実験が進んでいくと思います

私も実際にリモート教育の現場を見ましたが、生徒と先生が交流している様子にまったく違和感がなく、「あ、これは学校が変わるな」と確信しました。

ビジネスにおいても、「面談」や「来店」という言葉は、これまでは、実際に会って顔を合わせることを意味しましたが、これからは「画面越しにつながる」ことを意味することが増えると思います。

「行く」「来る」の概念が、物理的な実態を伴なう必要がなくなるためです。

これは、技術的には以前からあり、一部の人にとっては当たり前でしたが、今回のコロナショックをきっかけに、世の中の大多数の人にとって当たり前になるという点で、今までとは大きく変わってきます。

その結果、「こういうときは会うのが当たり前」と考えられていた慣習も、相当見直されていくでしょう。

すでに今の消費者は、欲しい物や移動手段はもちろん、食べ物までボタン一つで取り寄せる時代です。

とくに都市部のユーザーは、「街に食べ物を食べに行く」のではなく、「街の食べ物が自分のところにやってくる」体験を何度も味わっています。

映画や音楽が「レンタル」から、「ダウンロード」や「ストリーミング」に変わって久しいですが、今では家にいながら、マクドナルドの海老フィレオとフライドポテトをダウンロードできるようなものです。

現代の消費者は、自ら「取りに行く」感覚は確実に薄れ、必要なものを自分の元に「呼び寄せる」感覚が強くなっています。

そして奇しくも、コロナショック(人が出歩けない状況)と、5G回線の到来が同じ年にやってきました。

5Gが普及すれば、音や映像の遅延がなくなり、オンラインでのコミュニケーションが、まるで目の前にいる人と一緒に話しているかのように、すごく滑らかになります。

こういう時代になると、「(物理的に)人に来てもらう」ことがマナー違反になったり、「(物理的に)行く」ことにプレミアムがついたりする流れになるかもしれません。

行き来も含めたオンライン時代の到来、そしてオフライン価値の高騰が起こることが予想されます。

新型コロナウイルスが経営者に投げかけた問い

──まず、人の価値観が変わるということですね。その価値観に合わせて、機能が実装され、社会が変わり、これまで常識とされていたものが変わっていくと。

そうですね。

よく10年に一度くらいのペースで、すごい発明が出て、世の中のルールがガラッと変わるじゃないですか。

でも、今回、誰もが肌で感じたのは、ルールチェンジのきっかけは、発明だけじゃなく、疫病もあり得るんだということです。

コロナショックは、全世界の経営者に、とても難しい問いを投げかけました。

それは、「もし、人が外に出られなくなったら、あなたの会社はどうしますか?」という問いです。

前提がそもそもありえないだろうと思われる状況なので、誰も解いてきませんでしたが、今は、あらゆる業界の経営者が、ヨーイドンで一斉にこの問題を解こうとしている状態です。

とくに、「現地に人が集まることで成り立っていた業界」は、早急に実験が必要になります。

すぐにオンライン講習に切り替えたヨガスタジオや、オンライン飲み会を主催した酒造メーカー、オンライン接客を開始したクラブなどが話題になりました。

観客なしでやらざるを得ない事態にまでなったスポーツ業界やライブ業界は、通常観戦の他に、VRなどを用いたバーチャル観戦の方法もこの機に確立するでしょう。

今までにないアングルから観れるバーチャルVIP席や、選手単位でも応援できる投げ銭システムなど、すでに様々な案が出ていると思います。

オンラインでは「満席」の概念がないため、むしろチケット販売の売上が上がるかもしれません。

そして、これらの重要ポイントは、実は、「オンライン」以上に、「ファン」です。

ファンがいないのに、いくらオンラインにしても、誰も来ません。

先週の日曜日に、家の近くの定食屋さんから、Lineで「今日はコロナの影響でお店は閉めますが、良いマグロを入手できたので、17時~18時限定で、中トロの刺身を特別価格で店先で販売します!」とメッセージが来たので、「すぐ買いに行きます!」と返信しました。

この定食屋さんにはいつもお世話になっているし、ここの魚はすごくおいしいと知っていたからです。

飲食店で、自粛時にできることといえば、テイクアウトか、デリバリーか、チケット販売だと思いますが、これらもファンとのつながりなしには成り立ちません。

こうなると、原点回帰で、やはり「どれだけ濃いファンをつくり、彼らとつながりを持てるか?」が重要になってきます。

オンライン広告での集客はもちろん、これからはお客様とのオンラインコミュニケーションがより大事になってくるでしょう。テキストでもライブでも。

「私たちが売っているものは何なのか?」の再考

──商売において本当に大切なことは変わらないけれど、時代によって手段は変わるということですね。とくに今みたいな転換期は、いろんな手段を試してみることが大事になってくるのかもしれませんね。

それは、すごく大事だと感じています。

ラルズネットの行動指針の1つとしても、「まずやってみる。すぐにやってみる」という言葉を掲げているくらいです。

また、今回を機に、すべての企業が、「私たちが売っているものは何なのか?」を、あらためて考え始めていると思うんです。

バーであれば、それはお酒ではなく、「大人の教養」「孤独と悩みの解消」かもしれません。

自動車ディーラーであれば、車ではなく、「週末のドライブ」「男のプライド」かもしれません。

不動産会社であれば、家ではなく、「家族との時間」「将来の安心」かもしれないし、海外であれば「治安」かもしれません。もちろん、2020年以降は、「第二の職場」としての側面も強くなるでしょう。

それらの再定義された商品について、ファンに対し、自社のメッセージをどれだけ伝えられるか。

そして、場合によっては、今までと違ったアプローチで価値を提供できないかを模索することが大事になってくるのではと思います。


──最後に一言あれば、お願いします。

先日、オーストラリア最大のアートイベントである「シドニー・ビエンナーレ」が、新型コロナウイルスの影響で一般公開を一時的に中止し、展示をオンラインで公開することを発表したのですが、そのときの声明がすごく胸に突き刺さりました。

「我々は、この世界的な危機に直面し、適応し、革新し続ける」

まるで、今地球上にいるすべての人類の覚悟を代弁しているかのようです。

人類の進化は、おそらくウイルスが想像もしていないほど速い。そう確信しています。


──ありがとうございました。

本記事から数ヶ月後、その間に何を考え実行したかについてはこちら!
▶︎【経過報告インタビュー】危機下の経営 〜コロナショックを乗り越えるために徹底した2つのこと〜

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