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事業をつくることだけが“創業”じゃない!「組織づくり」とともに歩んだもうひとつのラクスル創業ストーリー

社会人になって1年半。25歳の誕生日を1ヶ月後に控えた2009年9月にラクスルを起業した。もともと起業を目指していたわけではない。印刷業界の非効率さに気づき、この課題を解決できれば世の中を変えられるかもしれない、そう思ったことを他の誰もやっていなかったから、自分で始めてみようと決めた。 ただ、始めてみると事業をつくること以上に大変なことがあった。それが「組織づくり」である。創業から8年。事業は順調に成長しているがそれを支える組織はどのようにつくられてきたのか。まだまだ“創業中”であるチーム・ラクスルの変遷を、代表・松本が語る。

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一番の苦労は「組織づくり」

ビジネス経験もチーム・ビルディングの経験も少ない人たちでビジネスを立ち上げようとすると、もう問題しか起きないんですよね(笑)。例えば、比較サイトをECに転換したらお客様にたくさん来てもらえるはずだ!と思って資金調達しても、蓋を開けてみたらお客様は全然来なかった、とか、そういうことはもちろんあるんですが、事業の問題はチャレンジを続けていけば徐々にクリアしていくことができるんです。それよりもやっぱり「組織をどうつくるんだ」「カルチャーをどうつくるんだ」といったチーム・ビルディングの方がよっぽど難しい。投資家が投資をするときも「この人に組織をつくれるか」が一番重要。だから結局、苦悩のほとんどがそこなんですよね。

ベンチャーが崩壊する一番の要因は「事業崩壊」ではなく「組織崩壊」。人がいなくなるというのが一番大きな倒産理由で、財務上の倒産なんて大きな会社しかできないんですよね。立ち上がるベンチャーと立ち上がらないベンチャーの違いのほとんどは「組織をつくれるかどうか」。もちろん「事業をつくれるかどうか」というのもあるんですけど、僕の苦労でいうと、24歳で始めてから28歳くらいまでの間は、とにかく人でつまづいてきました。今でこそラクスルは事業が伸びるところまできましたけど、新規事業は売り上げもはじめはなかなか上がらない。事業開発はしなければならない、売り上げは伸びない、組織のつくり方もわからないという“ない”ことづくしの中で、ストレス値は異様に高くなります。すると感情はまるでジェットコースター。今でもまだ多少の波はありますが、当時って今の10倍はこの振れ幅が大きかったんです。たぶんうちだけじゃなくてほとんどの会社でもそうだと思うんですが、人数が増えるとその分ストレスは増える一方で、分散もされていくので、今はだいぶ楽になりました。事業面では、印刷会社をたくさんまわったり、飲みに行って関係性をつくっていくことはむしろ楽しかったのであんまり苦労だったとは感じておらず、「組織づくり」に対する苦労がそれだけ大きかったんです。

“組織”をつくろう!

だからこそ、まず最初にやったことはチームをつくること。起業して1年半くらいはフルタイムで働いているのは自分ひとりだったので実質的な「創業チーム」というのは存在せず、その後、仲間が増えていくにしたがって、自分が上に立ってトップダウンで物事を決めるという文鎮型になっていた。そこを、役割を分けて、チームを作っていくというスタイルに変えたかったんです。「すべて自分で決める」というスタイルだったものを、自分の下(ミドルマネジメント)ではなくて、自分と同じレイヤーを何人かにして役割を分担するスタイルに変えるためには、まずは“リーダーシップチーム”をつくらないといけない。そう思って自分より優秀な人を採用するために動きました。「Aクラスの人材はAクラスの人材を連れてきて、BクラスはCクラスを、CクラスはDクラスを連れてくる」というのはスティーブ・ジョブズも言っていることで、要するに本当にいい人というのは自分より優秀な人を採用して連れてこれる人。それを実践しにいきました。

そのタイミングで採用したのが、永見さん(現取締役CFO)、田部さん(現取締役CMO)、 田島さん(現執行役員CR部部長)です。その後、実際に永見さんは福島さん(現執行役員SCM部部長)や泉さん(現執行役員CTO)を連れてきてくれた。リーダーシップチームが出来てきたところで、次はあいだをすっ飛ばして現場でガンガン働ける若手を増やしていきながら、必要になったところでミドルマネジメントの採用、教育をしていきました。それでもやはり会社が一番変わったというタイミングは2014年に永見さんが入社したタイミングですね。彼がいなかったら今いるほとんどの人が入社していないので。

偶然の積み重ねが必然をつくる

永見さんとは、実は当時住んでいたマンションが偶然一緒だったんです(笑)。でもそれを知ったのはもう少しあとの話で、初めはビズリーチでスカウトメールを何度も送ってようやく面接に来てくれて、その後も4〜5回は会ってるかな。永見さんとの縁では、マネーフォワードの辻さんがすごく重要な役割を果たしてくれました。辻さんと永見さんがウォートン(ビジネススクール)時代の同級生だったんですよ。僕は僕で辻さんとは昔から仲が良かったんだけれども、初めて面接に来た時に辻さんが共通の知人だということがわかって、後日、僕は辻さんとランチをしに行った時に「彼どう?」って聞いてみたんです。そしたらすごく大絶賛していた、一方、永見さんも入社を決める時に辻さんに「このスタートアップどう?」と聞いたようで、その時も辻さんが勧めてくれて。そうして、最後にもう1回会おうという約束をしていたんですが、なかなか予定が合わなくて、ようやくこの日ならという日が見つかったのに大雪でどうしても外に出られなくて、でも会いたい、と。それで「どこに住んでるの?」って電話で聞いてみたら、なんと同じマンションに住んでいるということが発覚して、大雪で外に出られない中、マンションのラウンジで会って話をしました。最終的に何が決め手になったかは直接本人に聞いてみないとわかりませんが、彼の視点ってまさに“投資家”で、その視点で複数のスタートアップを比較した時に、「このビジネスいける」って思ったんじゃないかと思います。あとはコミュニケーションのタイプが似ていたことや、実家が印刷関連だったから印刷業界に対する想いもあったと思うし、同じマンションだったし(笑)、なにより辻さんからもいいって言われたし。そういうことの積み重ねですかね。

いい人がいるだけでは、いい組織はできない

2014年は明確に会社の雰囲気が変わり、会社としても組織としても安定感が出てきましたね。僕自身もマネジメントスタイルを変え、自分自身も会社としても「組織づくり」と向き合えるようになりました。永見さんは「人」に対する意識が強くて、2015年には、ラクスルスタイル(行動規範)をつくり、ビジョン・ミッションシェアリングデー(社員合宿)を開催し、ミドルマネジメント研修も導入するなど、人に対する投資がようやくそこから始まった。これは明確に永見さんのリーダーシップによってスタートしていて、そのあたりからいわゆる“組織”ができ始めたんです。それまでは「いい人を採って、置いている」状態。いい人がいても組織はできないし、いいカルチャーって自然発生しないんですよ。人が何人かいて業務があると、人は自然と不満を言いはじめる。リーダーシップを持って“意図的に”設計をしにいかないと、なんとなくの阿吽の呼吸では組織はできないんですよね。人が2人だとコミュニケーションは一本なんだけど、3人、4人と人が増えるにつれて二乗的にコミュニケーションが増えてく。そんな中、コミュニケーションをとらなければ人は勝手な期待値を持ち、その期待値に達しているか達していないかに対して喜んだり悲しんだりし始めます。組織の問題は「解釈の違い」か「“思いやり”の欠如」がほぼ全て。それをすり合わせるにはちゃんとコミュニケーションをとらないといけないし、そこに対するコミュニケーションはただの与太話ではなく、どういう組織・会社をつくっていくかということ。そのコミュニケーションを意図的に設計していかないと絶対に解釈の違いが発生してくるんです。

振り返ると、創業して2年目くらいまでは、問題っていうのは事業にあると思っていたんですよね。ストレスの原因は事業にある、だからその事業の問題を解決しようと必死になっていました。だから、当時でもすでに20人くらいの組織になっていたのに、メンバーに対して「今後どういう組織をつくっていくのか」という話をしなかった。そもそもそこに意識がなかったんです。「暗黙の了解でなんとかなる」って、組織をつくった経験がないと思うんですけど、どんなにいい人が集まろうとそうはならなくて。意図的にその組織を設計していくかなければ、いい組織はできません。意図的に設計したところで、それでもストレスは発生するんですが、ストレスがゼロだから良いかというとそうでもなくて、一定程度はストレスがないと馴れ合いになっちゃう。過度にストレスをかける必要はない一方、何もしないと過度にストレスがかかってしまうわけで、これが僕が2014年以前にやってきた失敗だったなぁ、と。悪意があったわけではなく、純粋に“チーム・ビルディング”に対する知識も能力も足りなかったんです。今だったら「いい人がただいるだけではいい組織はできないんだよ」って言えるし、当時の自分にも言ってあげたかった(笑)。だから、組織を持った人、特に初めて部下を持ったタイミングには、そのことを伝えていきたいです。

これから求めるふたつの「リーダーシップ」

会社としては、今すごくいい方向に行っていると思っています。そして、さらによくするために、会社改造・組織改造の真っ只中。二つの「リーダーシップ」を強化していこうと取り組んでいます。

一つは、現場がもっとリーダーシップを持てる環境づくりをすること。これまでは強いリーダーシップチームをつくって邁進するフェーズにあって、これはこれでうまくいったと思っているのですが、フェーズの過渡期に差し掛かった今、これまでのあり方が弊害になりつつもある。例えば、リーダーシップチームとミドル層以下との距離が離れていること。以前であれば人数も少なく、そこに圧倒的な能力の差があるからゆえにどうしても距離ができてしまったということもあるのですが、今はもうそうではなくなってきている。それなのにこれまでの延長線でリーダーシップチームの力が強くなりすぎているんじゃないかという危機感を感じています。だからリーダーシップチームの影響力を相対的に減らしていって、メンバーの力をもっともっと発揮できるような環境づくりに取り組んでいます。上下の乖離をなくして、シームレスに、もっと現場が元気になるようにしていきたいんです。

もう一つはテクノロジーにリーダーシップを強く持たせること。今までの組織のあり方は、どちらかというとビジネス側の人間の影響力強すぎた。もちろんここまで事業の競争力をつけてこられたのもビジネス感度の高いメンバーがいてくれたからこそですが、我々はテクノロジー(インターネット)を用いて仕組みを変える会社。だからこれからはものづくりやテクノロジーに強い人間のリーダーシップ比率を高めてうまくバランスをとっていきたいと思っています。

目指すかたちは「テクノロジー×リアリティ×チーム」

これまでもこれからも、ラクスルに関わってくれるメンバーには「仕組みを変えれば、世界はもっとよくなる」というビジョンに共感してほしいです。そして、これからはそのビジョンに対する“HOW”を丁寧に伝えていきたいな、と。

例えば「仕組みを変えれば」に対しては、我々は印刷の会社ではなくインターネットの会社なのだから、テクノロジーによって変えなければいけない。これまでのようにオペレーションの組み合わせで変えるのではなく、テクノロジーによって仕組みを変えてください、と伝えたい。

そして「世界はもっとよくなる」で追求したいのは「リアリティ」。先日新幹線の中で昨年夏以降にいただいたお客様の声に改めて全部目を通してみたんですが、自分が思っていたサービスの問題点と実態の問題点がかなりずれていたことに気づいたんです。実態の問題はUI/UXといったWEBサイトの満足度ではなく、納期やデータ修正といった話で、そこに対してテクノロジーで解決していかなければならない。世界を本当によくするためには“リアリティを持つ”ということがすごく重要。デスクに座ってエクセルの数字やパワポを操作するのではなく、社員全員が一次情報に直接あたりに行くこと。リアルな現場で起きていることを理解し、たとえ現場にいなくてもなにが起こっているかを具体的にイメージできるようになればみんなもっとクリエイティブになれるし、仕事そのものが楽しくなると思うんです。そうすれば事業も強くなる。

二つの「リーダーシップ」に加えて、オペレーションを含めた「リアリティ」を大切にしていく、というのが、今描いている「こういう組織をつくりたい」という組織像であり、僕が今組織を改造しようと思っている一番大きな要素です。ラクスルは、テクノロジーによって仕組みを変えて、リアリティを持って世界をよくする。そしてそれを“One for All, All for One”の精神でチームで貢献する。「テクノロジー×リアリティ×チーム」の3つを大切にしてほしい、というのがラクスルメンバーへ、僕からのメッセージです。

組織改造自体はまだ始めたばかりではありますが、社内の雰囲気が変わってきたなという印象を持っています。組織はアメーバみたいなもの。放っておいても動いていくし、意図を持ってもやっぱり勝手に動いていく(笑)。扱いが難しい分、あらゆる組織は意志を持ってつくっていかないといけません。そういう意味ではラクスルは今もまだまだ創業中!組織づくりってどこまでも終わりがないんですよね。


<完>

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