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【DXセミナー過去回紹介⑤】DX競争優位実践ラボ 〜グローバル市場で新たな経済圏を創出するデジタルビジネスへの変革〜

本記事は、2022年3月25日に行われた、「DX競争優位推進ラボ グローバル市場で新たな経済圏を創出するデジタルビジネスへの変革」における株式会社アシックス スポーツ工学研究所 デジタルコンテンツ研究部 部長 川上和也氏の講演部分とパネルディスカッション部分をインタビュー形式に再構成したものです。

話し手

株式会社アシックス
スポーツ工学研究所 デジタルコンテンツ研究部 部長
川上 和也

<略歴>
1997年 日本オラクル新卒入社
DBエンジニア、SE、コンサルタントとして販売代理店、SIerサポートを行う。
2004年 Vodafone K.K.
新規サービスのR&Dを担当。3G GPS携帯の導入、Nokia Symbian携帯による法人向けソリューション開発を行う。
2006年 BEENOS Inc.
CTOとして複数のEC事業の立ち上げ、および投資育成担当として国内外スタートアップへのインキュベーション事業を担当する。
2014年 Harley-Davidson Japan
カスタマー・エクスペリエンス・マネージャーとして試乗会、展示会等のイベントマーケティング、Harley Owners Groupのプログラム運営を担当する。
2016年 株式会社アシックス
アメリカFitnessKeeper社(Runkeeper)買収直後に入社、PMI担当後、2021年より現職。
アシックスのテクノロジー、クラフトマンシップの中枢であるスポーツ工学研究所にてデジタルを活用したサービス・コンテンツのR&Dチームを率いている。
株式会社アシックスウェブサイト https://corp.asics.com/jp


聞き手

早稲田大学グローバル科学知融合研究所 招聘研究員
早稲田大学グローバルエデュケーションセンター非常勤講師 (人工知能とビジネスモデル創出)
株式会社プライムスタイル 代表取締役 
奥田 聡

<略歴>
早稲田大学卒業、朝日アーサーアンダーセン(現PwCコンサルティング)で主に通信・放送の分野の業務プロセス改善を中心とした経営改革業務に携わる。
その後株式会社サンブリッジソリューションズ(現:株式会社サンブリッジ)にてマーケティングストラテジストとして従事。技術シーズの事業化をテーマに大手メーカー・大手ソフトウェアハウスに対するコンサルティング業務に携わる。
2005年株式会社プライムスタイルを創業、代表取締役に就任。広告管理システムの開発・販売から創業し、現在は新規事業コンサルティング、システム構築、オフショア開発、マーケティング支援等新規事業の成功に向けた多面的なサービスを提供する。
その他、ジャパンビジネスモデル・コンペティション実行委員、Founder Institute(米国起業支援組織)の東京ディレクター、複数の企業の社外取締役等を歴任。
北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科博士前期課程修了。

ASICSの名前の由来と“Lifetime Athletes in All of Us”「誰もが一生涯スポーツに関わる心と身体が健康でい続けられる世界」の実現へ

奥田)本日はアシックスの川上さんにお話しをしていただきます。
まずは簡単に会社の紹介と川上さんのデジタルコンテンツ研究部での事業を紹介をしていただきたいです。

川上)はい。まず、弊社アシックスの名前の由来をご存じでしょうか?
実は私も入社まで知りませんでしたが、ラテン語の “Anima Sana In Corpore Sano”という言葉の頭文字を取ってアシックス、となっています。訳すとコーポレートフィロソフィーでもありますが、「もし神に祈るならば、健全な身体に健全な精神があれかしと祈るべきだ」ということになります。

これらが当社が扱っている商品の一例になります。アスリートのスポーツシューズのみならず、実は革靴やシニア向けのウォーキングシューズ、工事現場の作業靴、安全靴も作っています。それからオニツカタイガーのようなファッション重視のシューズやアシックススポーツスタイルと呼ばれるスニーカーも作っていますし、スクスクといった子供向けシューズも作っています。
これら全ての商品の開発について、スポーツ工学研究所のテクノロジーが活かされています。

また、我々はHuman Centric Scienseという考えの元に研究開発を進めています。
私のデジタルコンテンツ研究部においての事例を少し紹介します。
CASIOさんとの協業事業によるRunmetrixというアプリケーションの提供、
シューズの中にセンサーを入れて動きを詳細に分析する EVORIDE ORPHEというスマートシューズ、スマホで足のサイズを測れる MOBILE FOOT ID、そして走る様子を横と後ろからを撮影することによってフォームとかかとの傾きを分析し、その傾きに合わせたシューズ提案するASICS RUNNING ANALYZER、このようなデジタルサービスの研究開発をしているのが私のチームになります。

奥田)デジタルをシューズに活用しているんですね。
アシックスとしては今後もシューズ以外にも力を入れていくんでしょうか?

川上)今まで当社はアスリートたちへのサポート、特にパフォーマンスアスリートのためのビジネスを中心に展開してきましたが、今後はより広い視野での事業への拡大をしていきたいと考えています。今まではパフォーマンスアスリートでした。

今後2030年に向けてVISION2030を作り、 “Lifetime Athletes in All of Us”というモットーで、誰もが一生涯スポーツに関わる心と、身体が健康でい続けられる世界を実現したいということでこのメッセージを掲げています。

ビジネス領域に関しても当社は今まで「プロダクト」を中心にビジネスの展開をしてきましたが、グローバル全体の高齢化等世の中の流れを考えるとそれだけでは足りないと想定され、改めてプロダクトに加え、スポーツを行う場所など、サービスの中のハードを示す「ファシリティとコミュニティ」、データを活用した分析と診断に基づくプログラムを含むサービスの中のソフトを示す「アナリシスとダイアグノシス」という2つの新しい事業を加え合わせて3つの事業ドメインでビジネスを拡大したいと考えて定義しました。

これら3つの事業領域に共通するテーマとしてデジタルを重要テーマとして位置づけ、デジタル一丸となって投資を含めたデジタルの取り組みを加速しているということになります。なので、デジタルに関わる部署や人は全社的にいるんですが、私は研究所の人間として少し研究よりの内容で今回のお話をさせていただければと思っています。

RUNNING ECOSYSTEMのビジネス拡大化のための戦略とサービスの事例紹介

奥田)なるほど。では、直近の動きで言うとどういう事を考えているのでしょうか?

川上)はい、RUNNING ECOSYSTEMという考え方、デジタルとリアルの融合、今後の展開、という3つあります。まずはRUNNING ECOSYSTEMについてお話しします。

中期経営計画2023でデジタルを軸にした経営への転換を戦略的目標として掲げ、それを実現させるための重要戦略としてランニングでナンバーワンになるというのを位置づけています。ランニングに関しての進捗を特に今回ご紹介したく、中期経営計画をここで紹介させていただきました。

デジタル化において重要なKPIとして捉えているのがEC比率です。元々はホールセールとして卸しをしていた我々がDtoCモデルにシフトしてきた中でさらにECの比率をあげていきたいというところでEC比率を重要なKPIとして捉えています。2018年は4%で、2021年はコロナ渦の影響もあり16%まで上がっています。これを2023年、中期経営計画の終わりの年までに今から紹介するデジタル戦略を活用し、20%台半ばまでに引き上げたいと考えています。

では、重要テーマであるRunning Ecosystem ランニングをビジネス拡大するための考え方について紹介していきます。

マラソンを完走したいというランナーもいれば、心身共に健康になりたいというカジュアルなランナーもいます。
それぞれのランナーのユーザージャーニーにおいて、それぞれのポイントにおいて適切、必要とされるような商品やトレーニングコンテンツ、情報を提供していきたい。そのようにしてユーザージャーニーをトータルでサポートできるようなエコシステムを構築したいというのがこの考え方になります。
そのようにユーザージャーニーをトータルでサポートするために必要なテクニカルな要素としてシングルIDが必要になります。
我々はOneASICSというシングルIDに基づいたカスタマーロイヤリティプログラムを開始し、これらを実現させたいということで推進しています。

このカスタマージャーニーの起点となる1つがRunkeeperです。Runkeeperはランニングをはじめ、ウォーキングやサイクリングなどの運動を追跡、記録できるようなGPSフィットネスアプリです。
ランニングアプリとしては全米で2位、現在約360万人のアクティブユーザーがいて、アプリ会員は約5000万人ユーザーがいるアプリです。
2つ目が2019年に買収したRACE ROSTERで、ランナーがマラソン大会を検索し、申し込むサービスです。こちらもレース登録プラットフォームにおいては全米3位、最新の登録人数は約200万人になっています。これら2つを起点にしたカスタマージャーニーをRunning Ecosystemとして描いていきます。

この2つだけではなくて、Running Ecosystemを充実・拡充するためにRunnings Appsというデジタルサービス群があります。
先ほどのRunning Ecosystemにおけるユーザーの入口がRunkeeperとRACE ROSTERという2つのサービスですが、その中に入った後に様々なアプリケーションやサービスでランナーのニーズを満たしていくという考え方でRunning Appsという商品群、サービス群を定義しています。

奥田)では、具体的にどのようなサービスがあるんでしょうか?

川上)そうですね、研究所が知見を提供している例として、3つ紹介します。

1つ目がRunmetrixというアプリケーションサービスです。
こちらはCASIO社との協業で実現しました。このデバイスを腰につけるのですが、この青いセンサーから取れる情報をベースにしてスポーツ工学研究所の今までの研究知見と様々なランナーのデータをベースにしたランナーへの個別分析レポートを提供します。

現在早稲田大学の駅伝チームにもセンサーとアプリケーションを使っていただいていて、選手のコンディションを把握したり、ランニングの状況などで活用いただいています。アシックスジャパンにおいては一般ランナー(一般ランナーと言ってもマラソンを4時間半切るようなランナー)をターゲットにしてプレミアムランニングプログラムというサービスプログラムを提供しました。

奥田)そのセンサー情報の活用方法というのはユーザー側は分かるような仕組みになっているんでしょうか?

川上)センサー情報を提用供するだけでは十分ではなくて、そのセンサー情報から何が読み取れるかをセットで渡さなくてはいけないです。ユーザーはせっかくの情報があっても咀嚼しきれないので、アシックスが持っているコーチングのノウハウもセットにしてセンサー情報からかみ砕いてトレーニングコンテンツとして提供する流れをいています。

奥田)面白いですね。コーチングというのは実際に出てきている情報を解析しながらAIとかで情報の解釈をするんですか?それとも人がやるんですか?

川上)理想はAI化です。まさにその方向にもっていこうとしています。現在はAIまではいかないものの、統計情報クラスター分析のようなものをして、ある程度システマチックな情報としてトレーニングコンテンツは提供しているんですが、AI化することによってよりパーソナライズ化できると思っていますし、そのAI化するにあたって過去の蓄積されたランニングのサービスにおける実績を利用できるので、AI化することによってよりリッチなコンテンツができるんじゃないかと考えて進めているところです。

奥田)すごいですね。そうするとまさにAIがランニング中のパーソナルアシスタントみたいな形で色々教えてくれるようになるんですね。
では他にはどのようなサービスがあるのでしょうか?

川上)センサーをシューズの中に入れて、より足の動きを詳細に分析するというようなEVORIDE ORPHEというシューズも提供しています。接地パターンやプロネーション、接地時間、ストライド、ピッチ、着地衝撃などをリアルタイムに分析しフィードバックができるので、イヤホンで聞きながら接地のパターンや走り方を変える等の使い方ができます。

また、今までアプリケーションサービスを紹介しましたが、シューズの選び方もスポーツ工学研究所の知見を活かそうとしています。こちらのサービスは今年中に提供できるように準備中ですが、足の形を長さや幅だけでなく3次元でレーザースキャナーで測定します。その3次元の足形と自分のランナータイプ、頻度や速度、目的等どのような走りをする人なのか、それに加えてシューズのラストというシューズを作るための元となる木型、これらの情報を合わせて分析し、最適のシューズのタイプとサイズのレコメンデーションをしようという仕組みづくりを今私のチームで行っています。

奥田)なるほど、スポーツ中の情報が蓄積されて、色々なアプリで可視化できるようになったのが現状かと思いますが、一般ユーザーはその情報をどう利活用していくのでしょうか?利用の成熟度があればそのようなお話を伺いたいです。

川上)レベル感が色々あります。RunkeeperというアプリケーションサービスであればGPSトラッキングアプリなので、自分が走ったルートや速度や時間などの基本的なデータが分かります。
一方、センサーを使っていくと、ものすごいデータ量が取れてきます。そういう中では、ユーザーがどこまでデータがほしいかがユーザーによって全然違うと考えています。
例えばセンサーを使うことを必要としているのは誰か、というところにまずはフォーカスして展開しています。
なので、全てのユーザーに対してセンサーを提供していこうというわけではないです。
そして、利用者の成熟度アップという意味では、成熟度をあげていくというよりも、ユーザーのマインドセットの変化やランナーとしてのレベルアップを助けられると思っています。必ずしも無理強いする必要はないし、成熟のステップをあげていく必要も無いと思いますが、色々なユーザーに対して必要となる商品・サービスを提供していく中で、エコシステムの中で居心地の良いところにいてもらい、居心地の良いところがエコシステムの中でレベルアップしていくのであればそれでいいかなと考えています。

これらを実現するためにはOneASICSというシングルIDのサービスが必要になり、それがあるからこそできます。ランナーには色々なタイプがいます。競技志向が強いランナーもいれば、健康志向のランナーもいて、みんなと走りたいランナーもいます。それぞれの目的にあわせた商品やサービスを用意し、拡充していく。様々なユーザーのニーズを満たすことのできるエコシステムをつくっていくのがRunning Ecosystemの進化の方向です。

つまり、ニーズを満たすために必要になってくるのがシングルID、シングルカスタマービューで、それを実現するためにOneASICSというメンバーシップを用意しました。2015年にスタートし、現在約550万人を突破しています。このIDがあるからこそ、様々なサービスを1つのIDで活用できますし、裏では個人のデータを紐づけてパーソナライズすることができるという、基盤になるような仕組みです。

奥田)1つのIDに情報を纏めることによってユーザーから色々なパーソナライズされた情報が集まってきて、どこにどういった付加価値をつけていくのか、その可能性についてはいかがでしょうか?

川上)いわゆるビッグデータという考え方もあると思いますし、ビッグデータから学んだものを築き、どういう風にパーソナライズして提供していくかというのが大事かなと思っています。

この付加価値をどのように付けるかというと、1つのIDに紐づけることによってデータを分析できるようにする、というところが今我々が始めたところです。今まで色々なサービスを提供していましたが、それぞれが別々のIDでログインしなきゃいけなくて、裏のデータベースが連携していなかった状態だったのを、OneASICSというシングルIDメンバーシップサービスをすることよってデータがやっとデータウェアハウスに溜まり始めてきたという状況です。
なので、我々としてはまだ道半ばではあるものを、それこそビッグデータ分析、AI化することによって、「この人の足の形はこうだ」「どういう走り方をするのか」「どういう癖があるのか」ということからどいう商品を提供するか、もしくは先ほどのトレーニングコンテンツ、トレーニングコーチングもどういう風に行うかをそれぞれにカスタマイズし、それぞれ違う商品とサービスを受けられるようにしていくことが付加価値なんじゃないかなと考えています。

奥田)なるほど。では、そこに取り組むにあたっての難しさはどのように感じますか?

川上)今は本当に何年もかけてようやくシングルIDというのを普及させてきたところなので、第1のハードルは超えたところですが、難しさでいうと紐づきから何を見つけるかというところだと思います。仮説をして、その検証をするよりも、仮説よりもデータが教えてくれる、というところまでいかないと、僕らが考える以上の新しい付加価値を見つけられないのかなと考えているところなので、データ分析から何を見つけるかが難しいところなのかなと個人的に思っています。

奥田)データマイニングと呼ばれる領域ですかね。業務プロセスの場合って割と明確だと思うんです。どこでスタックしているのか、どこでスピードが遅くなっているのかとか。新規事業の場合はどういう側面でマイニングを行うのでしょうか。

川上)正直そこは私もあまり明確な答えは持っていなくて、マイニングという領域ではないのかもしれないですけど、やっぱりデジタルの強みというのはトライアルアンドエラーができることだと思っています。なので、こういう傾向が見えたからやってみよう、でもやっぱり違った、となった時にすぐに次の手を加えていってサービスを進化させる強みがあると思うので、マイニングありきではなくて、トライをするのも大事かなとは思います。

特に我々研究所からすると、実験実証というのを常に繰り返して正しさを見つけていくのは大事な考え方だと思いますし、リーンスタートアップという考え方がある通りで、とにかくお客さんに使ってもらうというのが大事だと思います。

デジタルとリアルの融合「コロナ渦で始めたバーチャルレース」

奥田)ありがとうございます。では続いて、ランニングにおけるデジタルとリアルの融合についてお伺いできますか?

川上)コロナ渦において過去2年リアルなマラソン大会はキャンセルされましたが、その時に我々で提供したのがバーチャルレースです。みんなで一緒には走ることはできないけど、RunkeeperやRACE ROSTERを使ってバーチャルで一緒に走ることが可能になります。

1つ目の例として、当社で主催したWorld Ekidenがあります。2020年から過去2回開催していて、5人1チームでバーチャルで走り、リレー形式で次の人に繋いでいき、合計タイムをシェアすることができます。

昨年は157ヵ国から約4万人の参加者が集まりました。コロナ渦で中々集まれなかったり、一緒に運動ができないという状況の中で、バーチャル駅伝という仕組みを使って一緒に走ることができて楽しかったというコメントをいただいています。

他に外部のマラソン大会をパートナーと開催しているものもあります。早稲田大学とは我々の仕組みを使って早稲田駅伝を昨年初めてオンラインで開催し、448名の方に参加いただきました。あとは先日も開催された東京マラソンでもバーチャルマラソンも実施されていました。フルマラソンには60ヵ国3,783人にバーチャルで参加いただきました。

奥田)コロナ渦で新しい形のランニングが発展したことで、ランニングに新たな可能性が見えてきますね。バーチャルレースの今後の構想などはありますか?

川上)そうですね、バーチャルレースのタイムって正式なマラソンタイムにできるかと言われたら、できないですよね。自転車で走っているかもしれないし、みなさん同じコンディションで走っていないから現時点ではマラソン大会として開催してもオフィシャルにはできていないです。でもそれをオフィシャルと認められる仕組みや条件を陸連のようなところがきちんと定義していったら、みんながオフィシャルレコードと順位を持てるんじゃないかなとは言われています。これは私が思っているだけでなく、我々の業界はそのあたりを見ていると理解していただければと思います。

奥田)良いですね。まだまだ色々と変える対象があるのは目標があって良いですね。

川上)

そうですね。あともう一つの面白い事例が、神戸マラソンに世界各国から同時に参加いただきました。去年11月に11か国200名の海外ランナーに神戸マラソンに参加いただきました。
これは、敢えて世界からの参加を募っていて、神戸の魅力をバーチャルで発信するプラットフォームとして活用されました。本来であれば海外から観光ついでに来てもらうのが一番ですが、それができない中でも、海外の方にバーチャルで観光情報を発信するといったことも活用事例として参考になるのではないかと思います。

最後に、つい先日発表した、コネクテッドフィットネスという領域のサービスを提供しているZWIFTとのパートナーシップの事例です。室内で走ると自分のアバターがバーチャルな空間を走ってくれます。我々とのパートナーシップではアバター同士がWORLD EKIDENで走ったり、アバターが我々の新商品を着てくれたり、我々の契約アスリートとバーチャル空間でワークアウトできるなども企画されています。
あと、Runkeeperには運動履歴が連携できるようなシステムも準備中です。

奥田)ありがとうございます。まだまだこれから出てくるアプリケーションやサービスが沢山あって、これからがより楽しみになりますね。
アシックスさん以外にも世界にスポーツ商品を作っているメーカーが色々あるかと思うんですが、その企業のデジタルビジネストレンドというのはどういったものがあるかと思いますか?

川上)トレンドと言っていいか分からないんですが、私の個人的興味も含めたところで言うと、ビッグワードとしてメタバースというのがありますよね。メタバースに関連するところでeスポーツというのがありますが、eスポーツって本当にスポーツですか、というのは個人的には疑問があるところで、eスポーツって言ったらゲームで、リアルな世界から離れて、バーチャルの世界で完結する世界ですよね。その場合スポーツメーカーとしてそこにどう取り組むべきかというのは個人的には少し考えるべきところだと思います。競合他社はメタバースの中でショップを出すというのはやり始めていますけど、我々アシックスとしてやるべきだと個人的に思っているのは、今回ZWIFTさんの事例でご紹介したようなコネクテッドフィットネスという領域を発展させていき、メタバースなり、eスポーツに繋げていくといういことです。身体を動かすことが自分のアバターの動きに繋がったり、身体を動かした量や質がメタバースの世界での自分の能力や活動に反映させられるような部分をスポーツメーカーとして作れたら、バーチャルの世界との融合を図れると考えていまして、ZWIFTさんとのパートナーシップは個人的にはさらに掘り下げたいなと考えています。

あとはZWIFTの競合先でPelotonという会社があります。これはオンラインフィットネス、オンラインサイクリングトレーニングでコロナ渦で事業がめちゃくちゃ伸びて株がすごく上がりました。一方でコロナが少し収束し、みんながスポーツジムに戻り始めたときに売上や株価が一気に落ち、その時買収に名乗りをあげた企業がAmazonさんや我々の競合他社なんです。「協業他社もそういうこと考えているのか」というインパクトがあって、トレンドと言っていいのか分からないですけど、彼らも考えている領域なんだろうなと思いました。Amazonであれば、展開することでユーザー数が増え、Amazon生態系の中にユーザーを取り込めるから良いと思うんです。だけど、スポーツメーカーの場合、あそこまでのプラットフォームを持ってしまったときに、どうビジネスに絡められるのか、それを使って自社商品は売れるのか、と疑問に思うところはあるんです。ZWIFTさんとのパートナーシップもそうです。どうビジネスとして落としどころがあるのかはまだ僕の中でもはっきりしていないですが、さっきの話で、バーチャルとリアルの境目を無くすという動きにおいてはそこに入っていくべきかなと。それをどうビジネス化するかっていうのが僕の中でまだクリアになっていないので、Pelotonと競合他社の動きが参考にできるんじゃないかと思ってものすごく興味を持っています。

奥田)良いですね、まさに最先端のことですよね。どう最後にユーザーがお金を出してくれるかというのはエコシステムを作りながら試行錯誤ということになるんでしょうかね。

川上)そうですね。

奥田)あわせて今のお話を聞いていてアマゾンさんが手をあげたり、あとはメタバース、eスポーツ辺りはゲーム会社やガジェットメーカーなどが手をあげてきそうな領域でもありますよね。少しその辺への意識はあるんでしょうか?

川上)さっきのZWIFTさんやPelotonさんって、実際にマシーンの上に乗って走る時って画面を見なきゃいけないんですよね。一方で、リアルとバーチャルを融合するという意味では、xR的な考え方で言うとARグラスみたいなのをかけたら外にいても同じような体験ができて、外で身体を動かした時に、バーチャルにちゃんと入っていける、もしくはバーチャルの人たちが自分のグラスの中に入ってくるみたいなところは活用できるんじゃないかなと。そこに行くとさっきのバーチャルとリアルに融合できる範囲が広がる、ということでものすごく興味を持っています。

今後の展開:スポーツカテゴリーユーザーの年齢層のニーズに合わせたエコシステムの多面化と、ASICS VISION2030

奥田)ありがとうございます。では、最後に今後の展開についてお伺いしてもよろしいですか?

川上)

今はランニングにフォーカスしていて、どのような進捗があるかの紹介をしましたが、今後の展開に関しては、ランニングだけででなくトライアスロンやテニス等他カテゴリーへのエコシステムの構築を進めたいですし、スポーツカテゴリーではなく例えばキッズ、お子様の成長に合わせてどういう商品、サービスを提供できるかを進めています。キッズに関しては、具体的にはASICS STEPNOTEというサービスを昨年開始しました。このように、スポーツカテゴリーユーザーの年齢層のニーズに合わせエコシステムの多面化をしていきたいと考えています。これを実現する重要なプログラムがOneASICSで、現在約550万人。これを1000万クラスに持っていくことで新たによりパーソナライズされた商品サービスを提供し、お客様の満足度とロイヤリティをあげていきたいと考えています。

究極2030年までにパフォーマンスアスリートから全ての人が健康な身体を保ち続けられるような世界を築いていきたいというのが2030年のVISION2030です。

奥田)川上さん、本日はありがとうございました。


(編集後記)

「One Asicsメンバーシップによる、個人の運動データの蓄積とサービスのパーソナライズ」
壮大な構想で、将来これが自分の健康や運動に役立つ日を想像すると、とてもワクワクします。
一方で、川上さんもおっしゃるように「データ分析からどんな新しい付加価値を見つけるかが難しい」ところであり、「実証実験を繰り返してとにかくお客様に使ってもらう」ことになるのでしょう。
「リアル」と「バーチャル」の融合が最も激しい化学変化をもたらすのが、スポーツの領域かもしれません。

アシックスと川上さんが「データの利活用」からどんな楽しい未来を作ってくれるのか、我々も一緒に考えていきたいと思います。

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