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日南市・飫肥〈武家屋敷 伊東邸〉城下町の古民家再生リノベーションの始まり

地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
物件を手がけた人自身が綴る、リノベーションの可能性。


鬼束準三 Junzo Onitsuka

●PAAK DESIGN株式会社代表取締役。1983年宮崎県日南市生まれ。大学進学とともに東京に移住し、大学院、設計事務所を経て、独立したのち、Uターンで故郷に帰る。商店街活性化のための取り組みをしていた〈油津応援団〉を経て、2017年、日南市の飫肥城下町にある建築デザイン事務所〈PAAK DESIGN〉を設立。地域資源を生かした循環型の仕組みをつくることを常日頃考えている。自転車いじりとコーラづくりが趣味。https://paak-design.co.jp/

写真提供:ワタナベカズヒコ Kiraku Japan合同会社 パークデザイン株式会社


宮崎県日南市で建築デザイン、宿泊や物販など、幅広い手法で地域に関わる、
PAAK DESIGN株式会社。

今回は、日南市飫肥(おび)城下町にある古い屋敷を復元改修した
お食事処〈武家屋敷 伊東邸〉がテーマです。

プロジェクトの始まり

始まりは、日南市役所に呼ばれたところからでした。

打ち合わせ場所にいたのは、日南市のすべての文化財を管理する
文化財担当課の方々とクライアントさん。
「古民家再生の設計をお願いしたい」とのことでした。

既存の外観。内部にあった不要な家財道具を撤去している様子。


対象物件があるのは、飫肥地区の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されたエリア。
この文化的景観を守るため、市の条例や、文化庁の指導のもとに
改修を行わないといけないエリアです。その代わり、ルールに基づいた改修を行えば、
文化庁から改修費の一部に補助がもらえるというもので、
打ち合わせでは、条例や手続きなどについてお話をうかがいました。

クライアントさんは本田清大さんといい、実は中学の同級生。
彼は、私より少し早くUターンで日南に戻り、
家業である鰻屋さんと観光バスの運営をする会社を継ぐために働いていましたが、
このプロジェクトは「家業だけでなく、自分でも新しくリスクを背負って
歴史的な風景を守り、まちづくりに寄与していきたい」という想いで始めたそうです。

既存の内部の状態。さまざまな時代の家財道具が混在していた。

飫肥城下町の魅力

物件があるのは、歴史的な景観が残る飫肥城下町。
江戸時代から約300年間、飫肥藩伊東家5万1千石の城下町として栄えたまちです。
飫肥城跡を中心に建ち並ぶ武家屋敷と風格ある武家門、
飫肥石でつくられた石垣などで形成される美しいまち並みが保存されていて、
1977年には九州初の重要伝統的建造物群保存地区に指定されました。

地域の住民と行政が一体となり保存活動が進められ、先人たちの活動のおかげで、
全国でも有数の武家屋敷群が、非常に美しい状態で保存されています。

桜の季節の飫肥城大手門の前の通り。


最近では宿泊客が減り、日帰り観光客が増え、ひとり当たりの地域消費額は2000円弱。
ランチをして、資料館など施設の入館料を払うか、お土産を買って帰るかという内容。
観光客自体も年々減っている状況でした。

そんな状況を少しでも改善させるため、
2015年に行政が飫肥のまち専属のまち並み再生コーディネーター事業を行い、
タウンマネージャーのような役目をひとりの民間人に託しました。

さらには日帰り観光が多い現状を変えつつ、
少しでも多くの消費を促し、よりいまの観光ニーズに合わせるため、
武家屋敷を改修した一棟貸しスタイルのふたつの宿泊施設〈季楽〉 がオープンし、
滞在型の観光となることを目指しました。

その宿泊施設がオープンし、新しくまちが変わっていく気運のなか、
私が初めて取り組むことになる古民家再生リノベーション、
〈武家屋敷 伊東邸〉の設計が始まりました。


新しい飫肥のまちづくりの起点となった古民家宿〈季楽 飫肥 勝目邸〉。まち並みになじむ風景を保存し、古民家を利活用した宿。
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