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焼酎工場の倉庫がコーヒー焙煎所へ。日南市・飫肥城下町の〈塒珈琲〉と〈PAAK DESIGN OFFICE〉

鬼束準三 Junzo Onitsuka おにつか・じゅんぞう

●PAAK DESIGN株式会社代表取締役。1983年宮崎県日南市生まれ。大学進学とともに東京に移住し、大学院、設計事務所を経て、独立したのち、Uターンで故郷に帰る。商店街活性化のための取り組みをしていた〈油津応援団〉を経て、2017年、日南市の飫肥城下町にある建築デザイン事務所〈PAAK DESIGN〉を設立。地域資源を生かした循環型の仕組みをつくることを常日頃考えている。自転車いじりとコーラづくりが趣味。
https://paak-design.co.jp

写真提供:ワタナベカズヒコ フクイトシヒロ ナカムラキヨシ ワタナベアカネ パークデザイン株式会社

PAAK DESIGN

宮崎県日南市で建築デザイン、宿泊や物販など、幅広い手法で地域に関わる、
〈PAAK DESIGN〉です。

今回は、日南市にあるスペシャルティコーヒー焙煎所〈塒(ねぐら)珈琲〉と、
同じ建物の2階にあるPAAK DESIGNの事務所がテーマです。
元焼酎工場の倉庫が店舗とオフィスへ。
PAAK DESIGNのビジョンについても紹介していきます。


父の開業への想い

このプロジェクトは、2015年にオープンした私の父の店の話です。
2012年、長年にわたって市役所で働いてきた父が
「早期退職して、コーヒーの焙煎所を始める」と言い始めました。
今後は毎月、東京にあるコーヒーのレジェンドの店に焙煎の勉強をしに行くからと。

〈塒珈琲〉を立ち上げた、私の父。

2年間ほどそのお店に通い技術を身につけ、
その後はリノベーションして店舗をつくる話になっていきました。
物件は飫肥(おび)城下町にある、父の仲のいい後輩が所有していた元焼酎工場の倉庫。
父自身も若い頃に遊び慣れ親しんだ飫肥城下町に新しいお店を開くことで、
まちに対して恩返しをしたいとの思いがあり、
「それだったら協力したい」と物件を貸していただけることになったそうです。

別棟の元酒造の内観。現在は取り壊されて駐車場になっている。菌がついた柱や梁が印象的。

1階のビフォー。元酒造の向かいに立っていた焼酎用の倉庫をコーヒー店にすることに。

当初から父は「厳選された豆で、風味特性を生かした焙煎のコーヒーを
まちの人に飲んでもらいたいし、コーヒーの本当の魅力を伝えていくお店にしたい」
と話していました。

いまでこそスペシャルティコーヒー店は地方のまちでも見かけるようになりましたが、
当時は宮崎県内にほとんどなく、私としては
「おもしろそうだけど、いままで行政の仕事しかしてこなかった父が
商売なんてできるのだろうか……」と少し不安に思っていました。

倉庫にあった焼酎の銘柄〈銀滴〉の看板。解体時に廃棄するのがもったいなく、いまでも大事に事務所に飾っている。

工事中。シャッターを開けると玄関もない、がらんどうの空間だったため、すべてを一からつくることに。


ブランディングから空間設計まで

行政マンだった父の初めての開業。
私もどんな店舗になったらいいかをゼロから考え始めました。
まずは父が抱くおぼろげなお店のイメージを整理することからスタートです。

「どんなお店にしたいのか?」を要素分解していき、
どんなお客さんに来てほしいのか、どんな商品が売れそうかについて考え、
そこからロゴ、空間のコンセプトとデザインへと、
ひとつひとつひもときながら提案していきました。

通常の設計事務所は、お客さんから設計上の要件を聞き出し、
空間設計のみを行いますが、統一されたデザインや、
ブランディングによって生まれたお店を見てみたいと思い、
父のお店ということもあって、ゼロからお店づくりに挑戦することにしました。

提案資料。顧客ターゲットや、メニューについてまでも資料をつくった。


まちに開き、まちに溶け込む

お店は観光の中心地である飫肥城下町の中にあり、
平日休日問わず、多くの人が通りを歩いている場所。
できるだけお店の魅力を外に伝えながら、
お客さんに入ってもらいやすい空間にするため、
まちに対して開き、城下町に溶け込むような空間を目指しました。

店舗正面(ファサード)は、全面にガラスを用いて、
内部の壁には城下町の建物の外壁に多く使われている、
地元・飫肥杉の下見板張りという仕様を採用。
まち中どこでも見かける外壁を内装として使い、それをガラス越しに見ることで
“少しの違和感”を感じられるようにし、いい化学反応を起こせる空間にしました。

壁は飫肥杉の下見板張りを白塗装し、床には足場板を敷いた。カウンター横のテーブルはカフェスペースとして、淹れたてのコーヒーを楽しむことができる。

カウンターの腰壁には火山灰を原料とした地元産のタイルを貼り、地域循環を促す。

2015年4月にオープンを迎え、何年もシャッターが降りていた建物から、
ガラスで覆われた明るい空間が現れました。
外からは父がコーヒーを淹れたり焙煎する様子が見え、
通りを行き交う観光客や地域の方々が自然と入ってきてくれるようになりました。
店内に入るとコーヒーの芳しい香りに包まれ、お客さんはすごくいい顔になります。
少しずつではありますが、父の夢が叶えられている気がして、うれしく思っています。

夜には、ガラスからこぼれる光がまちを照らす。

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