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漫画ベンチャーが"雑誌"を持たない理由を聞いたら、デジタル時代の漫画プロモーションの本質が見えてきた

「すべての漫画を、すべての人に。」というミッションの下で、これまで一般的だった出版社などが発行する商業誌での連載に限らず、同人誌やSNSなど漫画を発表する方法が多様化し活躍の場が広がる漫画家さんを支えてきたナンバーナイン。

中でも、漫画の電子書籍化から販促までをワンストップで提供するデジタル配信サービス「ナンバーナイン」は、ありがたいことにサービス開始から昨年で5周年を迎えることができました。

漫画家のための電子書籍配信サービス「ナンバーナイン」ナンバーナインは、漫画家のための電子書籍配信サービスです。電子出版に関する知識がなくても、ナンバーナイン上で作品を入稿できno9.co.jp

サービスの登録者は毎年増加しており、2023年11月時点では3,800名を突破。漫画家さんへの印税還元額も総額7.2億円を超え、月間販売額2億円を突破する国内最大規模のサービスに成長しています。

「ナンバーナイン」ではこの一年、より多くの漫画家さんに愛されるサービスを目指してLPリニューアルを始め、大小さまざまなことに挑戦してきました。

そこで、いま改めてどんな思いで同サービスを成長させてきたのか、中の人に話を聞いてみることに。クリエイターエコノミー事業部を率いる二人の熱い思いがこもったインタビュー、ぜひお読みいただけると嬉しいです。

写真右から、執行役員・クリエイターエコノミー事業責任者の工藤雄大さん、クリエイターエコノミー事業部コンテンツマーケティング部門長の大貫剛寛さん


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コンテンツ戦国時代、作家に選ばれるためには「ドカッと広げる」必要があった

ーー サービスローンチから5周年を迎え、「ナンバーナイン」は先日、サービスのトップページを刷新しました。なぜ、このタイミングでリニューアルに踏み切ったのでしょうか。リニューアルに込めた思いを聞かせてください。

工藤 雄大さん(以下、工藤)
これまで「ナンバーナイン」は、作家個人では配信できない大手電子書籍ストアやアプリへ漫画を”配信できるサービス”として多くの方に利用されてきました。

しかし、近年は「広げる」すなわち「漫画の売り伸ばし」のための機能開発や施策の企画に注力しています。その理由は、ただ配信するだけではダメで、大きなヒットを生み出すためには出版社が手がける商業作品的な販促力が必要だからです。

アップデートされたサービスのLPには、5年間積み重ねてきた実績が

また、サービスをローンチしてから5年という歳月を経て個人で販売する方法も一層多様化し、競合サービスも出始めました。その中で、実際に作家さんから「ナンバーナイン」を使う理由を問われても、私たち自身が明確にサービスのオリジナリティについて答えられないことがありました。

ーー 作家さんとのリアルな会話がサービスとしてのあり方を問い直すきっかけになったんですね。

工藤
ただの配信サービスじゃダメだと思ったんです。

私たちは作家さんから作品をお預かりするわけですから、第一に「『ナンバーナイン』だから預けたい」と思ってもらえるサービスでなければいけない。そのためには作品を「広げる」ことにもっと注力していくべきだと思いました。自分の力で届かないところに作品を届けたい作家さんは多いですから。

ーー 単なる「配信する」サービスから「広げる」施策の取り組みへと舵を切ったと。

工藤
これまで、漫画を世の中に「広げる」ための取り組みをやってきたのは、商業出版の土俵でした。ですが、いまは個人で漫画を描く人が格段に増えた一方で、そういう作家さんたちのために「広げる」ためのサポートをやっているところはまだないんじゃないでしょうか。

だから今回のリニューアルでは、作家から預かった作品を世の中に「ドカッと広げる」を体現するサービスになることを宣言しました。

非商業作家がバズを生み続けるために手掛けた「三つの施策」

ーー届けるを超えて、広げるへ。しかも「ドカッと広げる」。施策を考えるにあたって、きっとさまざまな決断をされてきたと思います。実際、どのような議論があったのでしょうか?

工藤
まずは「メディアを持つ」ことについて、コンテンツマーケティング部門を統括する大貫と話し合いました。具体的には、「自社で雑誌を持つか、雑誌を持たずSNSをメディアとして捉えるか」という二択です。

大貫 剛寛さん(以下、大貫)
議論の結果、雑誌は持たずにSNSに注力することを選び、コンテンツマーケティングのリソースをすべてSNSプロモーションに振り切りました。

弊社自体がSNS上で情報を発信することに強みを持ち、作家さんとやり取りしてきた過去やSNSで作品を広げてきた実績があるので、社内にも知見がある。ここを生かさない手はないという考えからです。

ーー 「雑誌を持たない」という判断には迷いはなかったんでしょうか。

大貫
たしかに出版において雑誌などの自社媒体を持っていることは強みになります。しかし、情報社会のこのご時世で新しい雑誌を生み出すことは簡単なことではありません。

雑誌がブランドとなって読者を集められるようになるまでにはどうしても時間もお金もかかります。世の中のスピードはあっという間です。今から小学館、集英社、講談社といった出版社さんの持つ媒体のブランド力を超えるのに何年必要か、時間軸の成長を捉えたときに雑誌を持つことはやはり難しいと思ったんです。

工藤
また、SNSフォロワー数の多い「インフルエンサー作家」も「ナンバーナイン」の利用者には多かったので、彼らから近くでSNSのトレンドを学ぶことができたのも大きかったです。同時に、SNSをハックすることは作家さんにとってもメリットがあります。

個人でSNS上でバズを生むことができれば、作品はもちろん作家自身にもファンがつくので、そこで作品を発表し続ければ生計が立てられ、売上も見込めるはずだと思いました。

ーー こうしてSNSを主戦場とした施策が生まれていったんですね。2023年はこれまで手がけていた企画(こちらのnote参照)をアップデートする形でさまざまなチャレンジをしてきましたが、特に印象に残っている取り組みについて教えてください。

工藤
大きく3つあります。それは、「アクセルナイン」と「創作BL大豊作まつり」と「あくせるちゃん」です。

一つ目は、「個人で稼ぐ」人を増やす漫画家養成プログラム「アクセルナイン」です。これはX上でヒットする漫画を作ろうという漫画家向けの養成プログラムで、2021年9月から取り組んできました。

当時のXの特徴として、漫画を投稿してバズるためには一定数のフォロワーがいることが前提条件でした。漫画は100人に読んでもらってバズるのは難しいですが、1万人に読んでもらってバズることはあります。つまり、どれだけおもしろい漫画だったとしても、一定数の人に読んでもらえる状態を担保しないと「売れる・売れない」の判断ができません。

では、どこでそれを担保するのか。出版社であれば雑誌によって読者を集めますが、ナンバーナインは雑誌を持っていません。自社媒体を持っていないからこそ、ナンバーナインがもつ作家の縦と横のつながりを生かして、作家の「個人連載」を後押しするカリキュラムが生まれたんです。

ーー プログラム開始から2年を経て、気づきはありましたか。

工藤
半年間のプログラムを2回やってみて、作家さんのスケジュールを押さえることは大変だということに気づきました。例えば他社さんで担当がついたり、新連載準備がはじまったりして忙しくなったら、決められた期間にこのカリキュラムをやるのは難しいんですよね。

一方で、このプログラムが初回から効果があることはわかってはいたのです。そこで、X上でヒット漫画をつくるというプロジェクトを続けていくにあたって、ネックになっていた半年間という期間の縛りを取っ払いました。

現在は募集や期間などは決めず、我々の方で作家さんにお声がけし、作家さん一人ひとりにあわせてスケジュールを立て、上で連載を立ち上げる形で運用しています。

ーー 具体的な効果や反響について詳しく教えてください。

工藤
第一回アクセルナインに参加したかめみずとらさんという作家さんは、当時2,600人ちょっとだったXアカウントはいまや16万フォロワーにのぼります。

さらにそこで生まれた代表作『おかえり、初恋。』は、連載2年ちょっとで単行本化2巻、WEBマンガ総選挙2年連続9位にランクインし、単行本で7万部、連載版(≒分冊版)で11万部(編集部注: ともに有料のみ)を記録するなど着実にファンがついています。

ーー それはものすごい成長ですね。

後編へ続く)

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編集・構成: ころく@ナンバーナインCXO
執筆: Moriya Ayuka

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