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町と人と「いける」の言葉でつむがれたものさす式サテライトオフィスのつくりかた- 神山サテライトオフィスができるまで・後編 -

モノサスでは自分たちのWebサイトにスタッフが交代でコラムを書いています。
今回はその中から、2017年に徳島・神山につくったサテライトオフィスの様子をご紹介します。

昨年11月に徳島県の神山町に完成したモノサスの4つ目の拠点、「神山サテライトオフィス」。前編では、神山との出会いから、なぜ神山にサテライトオフィスを作ることにしたかを振り返り、オフィスのコンセプト決めまでをご紹介しました。後編では実際にどのようにオフィスが作られていったかをお伝えします。

オフィス作りでは、想定外の出来事や、予算の問題、工期が伸びるなどなど、大小さまざまな壁がたくさんありました。ですが、その分一つ一つを自分たちで決めたことや手がけたことが、「神山サテライトオフィス」という「場」に対する思いを強くしたようです。今回は、多くの人の協力なしでは成し得なかった、完成に至る過程をご紹介します。

前編:「ともに生きていきたい地域」との出会い
後編:町と人と「いける」の言葉でつむがれた ものさす式サテライトオフィスのつくりかた

コンセプトが決まったらいよいよ具体的に始動
前途多難なサテライトオフィスの設計

2015年12月にサテライトオフィス委員に選ばれた3名(栗原、竹田、丸山)が決めたオフィスのコンセプトは「幅を広げる場所」。実際にどんな場所にしていくのか、雑誌やネットでさまざまな画像を集めてイメージを膨らませていきました。

イメージは和と洋の中間で、白を基調にした空間。1階は外部の人も気軽に入れて、2階は集中して作業ができるようなスペースにしたい。作業に集中できるような壁に向かう机と、向かい合って作業ができる机を置いて…などなど、委員の間でたくさんのアイデアを出し合いました。

2016年5月にはオフィス委員が神山へ行き、実際の現場で設計士さんとイメージを擦り合わせていきました。


左 イメージを擦り合わせるオフィス委員の竹田
右 改装前の様子


「いけるで」で背中を押され
大工さんと一緒に設計もDIY

設計士さんと話し合いながらイメージを徐々に具体的なところに落とし込む中、いよいよ施工開始というところで、諸事情により工事が延期になってしまいました。

さらに、設計士さんが工期の遅れでスケジュールが合わなくなり、工事に関われなくなるという事態に。設計士さんに図面は作っていただいていましたが、安全性や耐震性などを考慮する耐震設計、トイレやシャワールームの位置、コンセントの配置などの設備設計、机の大きさや棚の位置など、細かい部分の設計はまだ出来ていません。

新たに別の設計士さんにお願いするのも、この段階では時間と予算的に厳しいという状況。本来であれば、設計士さんから大工さんへの指示や工程管理などをしますが、それも自分たちで行わなければならなくなりました。その役を、神山ものさす塾第二期の塾長として神山に滞在していた栗原が引き受けることになったのです。

とは言え、専門分野でもない建物のこと。やることがたくさんあるのは漠然と分かるものの、どこから手をつけていいのか、完成に向けて動き出すにはどうしたらいいのか…。「果たして素人の自分に出来るのか」と不安になったと言います。悩んだ栗原は、改装をお願いする神山町の大工、大家工務店の大家 稔喜(おおや としき)さんに、諸々の事情を相談することにしました。

そこで、途中段階の設計図を大家さんに見てもらうと
「全然いけますよ、二人でやっていきましょう」という心強い言葉が。

本来であれば「できません」と断られてもおかしくない状況でしたが、逆に励まされるように “いけるで” という言葉をもらったのでした。この大家さんの言葉に支えられ、栗原と大工の大家さんの、デザインと設計、施工を同時進行する、ライブ感あふれるオフォス完成への道のりがスタートしました。


「大家さんの、『いける』という言葉がほんとうに心強かった。少ない予算でも、網戸は絶対にはずせないと我儘も聞いてもらったり、大家さんには本当にお世話になりました」とオフィスの改装を振り返る栗原


この図面を元に、栗原と大家さんのやりとりで改装がすすめられていきます


予算が足りない…。
お金のやりくりDIY

しかし、さらに、新たな問題が浮上します。

大家さんと話し合いを重ねて再度試算した見積もりが、はじめに設計士さんが出した見積から大幅にオーバーすることが判明したのです。当初の予算だと、シャワーやトイレをつけることができない…。

このピンチをどのように乗り切ったのでしょうか?

「最初はシャワーをつけるのをあきらめそうになりました。それ以外にも段取りがつかめず、あれやこれや忘れていたことがいろいろあって。
でも予算内で作らなければいけないので、建具の素材や使い方などを見直しました。

たとえば、床や棚の杉板の厚さを5cmから3cmにしたり、棚も二段にしようと思っていたのを一段にしたり。机の足も当初は鉄製のものにしようと考えてましたが予算的に難しくて、すべて木にしました。でも結果的に良かったと思っています。あと、壁に塗る漆喰も左官屋さんに安く譲ってもらったり…。」

設計や資材をシビアに見直し、社内でも予算を再検討したことで、最終的にはシャワーもトイレも取り付けることが可能に。扉や窓の建具、照明なども譲り受けたものを使用するなど工夫を重ねたことで、かえって想像以上に良い効果をもたらしたことも。一方で、正面玄関の扉など譲れない部分はこだわり、お金を使う部分と減らす部分を判断することが出来たのです。


いただきもののトイレの扉(上左)と、雰囲気のある照明(上右)、そしてちょっと自慢の小会議室の窓!(下)蝶番が上のみについていて、開ける時は下につっかえ棒を置いて開けます。大工の大家さんに解体現場でみつけていただいた窓枠を使っています。


いよいよ施工
みんなで力をあわせた
神山サテライトオフィスのつくりかた

1, 解体

予算や細かい部分が決定し、いよいよ実際に動き始めました。まずは解体作業から。サテライトオフィス委員の3名で一度は解体を試みましたが、本格的な解体は、大工さんと栗原の呼びかけで集まった神山ものさす塾二期生、そして栗原で行いました。

大きなハンマーで土壁を壊し、畳を外してバールを使って床板を取り、押入れも解体。元々あった五右衛門風呂を取り外してお風呂場の屋根を壊します。埃まみれになりながら、現場用マスクをつけての重労働です。


元々民家だった室内


バールを使って大きな棚を解体


大きなハンマーで土壁を壊す


お風呂も撤去


床板を取り外し、1階全体をフラットな状態に


土壁を取り除いた1階の状況。柱や梁が浮かび上がり、骨組みがはっきり見えます


解体後に出た廃材の山が積まれたトラック


解体ででた廃材は全てを廃棄せず、床下にコンクリと共に埋め、廃棄物を減らす工夫も


朝から夕方まで一日がかりの解体作業。栗原は、みんなにスタミナをつけてもらおうと町内の焼肉屋さん「梅里」のビビンバ弁当を用意。焼肉パワーで午後からの作業も着々と進行。大工の大家さんが差し入れてくれたラムネが、汗だくのカラダに格別に美味しかったとか。

塾生たちにとっても、これまでの生活ではすることもなかった経験。「土壁をぶちやぶるのが楽しかった」「家がどうやって作られているのか、構造が分かってよかった」など、ヘトヘトになりながらも貴重な体験になったようです。


2, 組み立て

解体作業後の組み立ては、プロの出番、大工の大家さんにお任せしました。
1階は床にコンクリを流しこみ、不要な柱をとったり、梁を補強するなどの作業があります。
また、2階は神山の名産である杉を贅沢に使ったフローリングを敷き、同じく神山の杉で作られた備え付けの机も設置。1階奥の小会議室の窓の取り付けも行われました。


コンクリが流され、新しい梁も設置


また、細かく詰めきれていなかった設計部分は、随時、栗原と大家さんが話し合いながら進めます。たとえばオフィスの顔となる玄関扉はこだわりたい箇所だったので、細かくイメージを伝えると、大家さんがラフ画を書いてくれ、お互いの認識をすり合わせたり…。
それ以外にも、トイレ・シャワーの設置場所を変更したり、机や棚の高さ、洗面台や照明の位置、電源の位置、小会議室の仕上げ方など、施工の流れの中で話し合いながら、ある意味アジャイル的に(?!)その場で決めていきました。


話し合いながら組み立てられていった施工途中の机


3, 漆喰塗り

大方の組み立て工事が終わると、最後は家の壁全体の漆喰塗りです。
本来は左官屋さんにお願いするところですが、自分たちでDIYすることにしました。

漆喰は、石灰が主成分の建材で、ミキサーで水としっかり混ぜたものを、コテを使って壁に薄く塗っていきます。とは言え、なんせ素人です。地元の方やお客さんの目に触れることが多い1階をやる前に、まずは練習がてら2階から作業を進めることにしました。
漆喰塗りは10月の後半から始めましたが、完成目標はモノサス周年記念パーティーがある11月11日…時間があまりありません!

当初は栗原が一人で漆喰を塗りをやっていました。17時に塾の講義が終わった後そのままサテライトオフィスに向かい、夜遅くまで作業をしていたんだとか。漆喰は一度水に溶かすと使いきらなければ固まってしまいます。そのため、無駄にしないためにも溶かしたものは使い切るまで終えることができません。作業は深夜に及ぶこともあったようです。

そんな栗原の様子を見て、大工の大家さんが手伝ってくださることに。漆喰塗りは本職ではないにも関わらず「一度乗った船だから」と協力してくださいました。日中はサテライトオフィスの大工仕事、夜は栗原に付き合って漆喰塗り。本当に感謝しかありません。


漆喰は 石灰を主成分とした建材。水としっかり混ぜて壁に塗る。そのままにすると固まってしまうので、水と合わせたものはその日のうちに使う必要があります


塾の講義後、2階の漆喰塗りをする栗原。混ぜた漆喰を使い切るため、作業が深夜に及ぶこともあったようです


それでも平日だけでは間に合わず…土日返上で作業を進めることに。とはいえ、栗原と大家さんだけの作業には限界があります。そこで再び塾生や神山塾生にも声をかけ、SNSでも協力者を募り、週末はだいたい10人くらいで作業をすすめました。
途中で漆喰が足りなくなりそうになり、町内の知り合いの方から漆喰を安く譲ってもらったり、コテをお借りしたり。実際の作業以外にもたくさんの方の協力を得て、漆喰塗りは進んでいきました。


協力していただいた方へのお礼と、次回参加を呼びかける栗原のSNS投稿


設計、デザイン、建具の調達から漆喰塗りなど、有形無形に神山サテライトオフィス完成を大きく支えてくださった、大家工務店の大家さん


漆喰と同時平行で外のペンキ塗りも


左 隙間には専用のテープを貼り、その上から漆喰を塗っていったのが右の写真。自分たちでのDIY、どうしてもムラができてしまいますが、それもまた味ということで


週末は、音楽をかけてにぎやかに作業をすすめました


漆喰塗りはコテで壁に塗るという、一見簡単に見える作業ですが、本来は職人仕事。水分の量の調節や、塗っている間に乾いてしまってムラができるなど、実際はとても難しいものです。何より均等に塗るというのが至難の技…。
見かねた左官屋さんが途中で塗り方を教えてくださり、格段に上達したメンバーもいました。3週続けて土日も使って作業し、漆喰塗りは無事終了。全部の壁を塗り終えた日は「自分たちのオフィス」という気持ちが芽生えた日なのかもしれません。


4, 完成

そして迎えた11月11日、サテライトオフィス、オープンです。
夕方、講義を終えた塾生たちが集まって、オフィスの床を掃除。床に水をかけて落ちた漆喰などをサンドペーパーや金属たわしでゴシゴシと磨き、雑巾掛けをして、晴れて完成です!


壁の漆喰もしっかり乾き、床を雑巾がけ。1階奥の小会議室です


完成を祝って記念撮影


オープンしたとはいえ、その後もやることはいろいろとありました。木の机と床にミツロウを塗ったり、浄化槽の取り付けや講習を受けたり。サテライトオフィスの使い方やルール作りもこれから決めていきます。

新年から新しくたちあがった神山運用チームの業務がはじまって一ヶ月半。地元の方と交流を深めるためにも、現在は1階で日々の業務を行っています。今後も、使う人のアイデアや工夫で変化し、たくさんの思い出が作られていくる場になっていくのでしょう。


町と人とのつながりで
完成したサテライトオフィス
「幅を広げる場所」のスタートライン

今回のサテライトオフィスDIY。完成までにはさまざまな壁もありましたが、無事に乗り越え、開放感のある、明るいオフィスが出来ました。


杉のフローリングが心地良い2階


最後に、今回のDIYの中心となった栗原に、オフィス作りを通して気づいたことなどを聞いてみました。

「DIYで作るとなって、はじめは正直、“一体誰がやるんだろう?” という思いもありました。でも終わってみて思うのは、この場所に対する愛着が生まれたこと。漆喰なども自分たちで塗って良かったと思います。あと、勉強になったのは、段取りの重要さ。次の工程がわからなくて、直前で次の工程を知って慌てて準備、というのが多くて大変でした」

当初は、「サテライトオフィスを完成させる」という使命感のみで取り組んでいた栗原ですが、次第に作業に協力してくれた人たちと「楽しみながら」進めることができたようです。

工事でお世話になった大工の大家さんとも良い関係が築けたようで、工事が完了する頃には、大家さんが作業の時によく口にしていた、神山の人がよく言う「いける」が口癖のようになっていました。

今回のものさす式DIY。今までと大きく違うのは、大工の大家さんをはじめ多くの社外の方に協力していただきDIYを進めていったことです。
オフィス完成のためにコテをお借りしたり、漆喰塗りのお手伝いをお願いしたり、いろいろな物を譲り受けたり…。立ち寄ってくださった方の応援もありました。

わからないことが多すぎて東奔西走するうちに、仕事としての責任感のみだったオフィスづくりが、気付けば仕事を超えた他人ごとではないものに変わっていった栗原。大家さんや町の方とのつながりを深めながら進めたこのプロジェクトは、同時に彼自身の町との関係づくりや、場所づくりともなったのではないでしょうか。

結果的に栗原は、塾の業務が終わった後も神山に住み続ける選択をしました。

サテライトオフィスのコンセプトは「幅が広がる場所」ですが、栗原こそが、人や場所のつながりの幅が広がった第1号なのかもしれません。


一から手がけたサテライトオフィスへの愛から、誰よりも率先して小まめに掃除をする栗原


今後、モノサスのスタッフがどのようにこの場所を使っていくのか、また、サテライトがあることで、神山の人たちとどのように関わることができるのか。じっくり、ゆっくりと時間をかけて変化が生まれていくことが楽しみです。

お近くにお立ち寄りの際は、どうぞいらしてくださいね!

(2017/2/21 ものさすサイトに掲載)

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