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飛騨の森の生命を家具として育てていく京都オフィスが実験的な設計でリニューアル


2015年12月にオープンしたFabCafe Kyoto / MTRL KYOTO。同じ建屋の3Fにあるロフトワーク京都のオフィスが、2019年10月にフルリニューアルされました。メンバーそれぞれが、モードに応じて働き方を変えられるよう、限られたスペース内で多様な使い方ができる空間に。すべてオリジナルで設計された家具や導線の工夫をご紹介します。

どんなプロジェクトや働き方にも対応できる空間

FabCafe Kyoto / MTRL KYOTOの建屋は、2015年に築110年を超える木造建築を改築し、1,2Fをカフェ、3Fをロフトワーク京都のオフィスとしてスタートしました。当時3Fのオフィスは10人前後がデスクワークできる場所を確保するにとどまっていましたが、2019年10月時点には20人前後と大きく増員。取り組むプロジェクトの性質も年々多様化するなか、今後のさらなる成長と挑戦に向けて、オフィスをフリーアドレスの空間へと一新することになりました。

建築家 佐野文彦さんの設計 × ヒダクマでオリジナルの家具を制作

空間設計は、2015年に建屋全体の設計も手がけた建築家の佐野文彦さん。家具に使われている木材は株式会社飛騨の森でクマは踊る(以下ヒダクマ)のプロデュースで、3種類の飛騨の広葉樹を使ってすべてオリジナルで制作されています。

設立時に「この稀有な建物がもつ歴史・文脈と向き合い、どんな”場”としてアップデートしていくか」を、ディスカッションしながら形作られた建屋。館内の机やカフェカウンター、ルーバーなどが、岐阜県飛騨市の製材所に佐野さんが自ら出向いて実際に素材に触れながら、この場所のために選ばれ制作されました。そして、今回のリノベーションでも、飛騨の森で育まれた力強く美しい広葉樹を使って家具を作ることになりました。

リノベーションにおける制作意図や、木材に込めた想いを、設計を担当した佐野さんとヒダクマの代表の岩岡、そして全体のディレクションを担当した京都ブランチの事業責任者の寺井に聞きました。

関連リンク:MTRL KYOTO(「新建築」2016年10月号)

用途を4分割して、全体を見渡せる空間に

「築120年の三階建木造擬洋風建築の3階部分120平米という決まった面積の中で、より多くの人が快適に働く為にはどのような形がありうるかを考えました」という佐野さん。そこで、用途をいくつかに分けること、雑多に見え過ぎていた備品や設備を隠すこと、そして全体を見渡せる場所を作ることをベースに空間をデザインしたそうです。

「まず階段を上がったところから部屋の対角となる位置までの導線とその周囲導線の確保をし、その間にできた空間をどう作っていくかを考えました。集中して仕事をするための壁付デスク、スタッフ同士のコミュニケーションが取れるバームクーヘン型カウンター、付箋や壁面のホワイトボードでミーティングが可能なスペース、収納エリアと4つの用途に空間を分けました。」

「壁付デスクはあまり動かなくていいよう奥行きを広く取り、モニターを設置してコックピットのように周辺に必要なものを集めて集中して作業できるスペースに。カウンターは半バームクーヘン型のテーブル2台をPC作業と手作業用に高さを変えて前後に半円ずつずらして設置されています。」

「これによってカウンターを挟んだ円の内外でのコミュニケーションをとりながらの作業ができ、部屋自体の長方形のバランスに合わせた半円内へのインアウトができます。また、円の中心に立てば全体が見渡せ、各自の作業状況などが分かります。」

昇降式テーブルは、デスクとハイカウンターをつなぐ役割を持たせ、作業内容に合わせた調整ができます。足元は個人ロッカーや備品スペースとして雑多に散らかりやすいものがまとまって収まるように。

MTGスペースは壁面をホワイトボードとし、アイデアなどを大きく書き出したり付箋などを使ったミーティングができ、カウンターからもその様子を観察することができる配置としました。その脇には今まで露出してしまっていたコートなどの収納スペースを設け、空間の雑多さを抑えています。

森の生命が凝縮した重厚な木を、家具として育てていく

今回は形状もさることながら、天板を全て無垢の飛騨産広葉樹としたのも特徴です。

「奥行1600mmもの扇形の木取りは材の在庫や価格、効率などを含め難航しましたが、それでも45mmとしっかりした厚みの無垢材を使ったことで、素材の持つ個性や経年変化、そのメンテナンスなどによって変わっていく表情を感じてもらいながら、木というものと触れ合って家具として育てていくことは良い体験になると考えています」と話す佐野さん。

一方で、「なんて量塊な家具をつくりはじめてしまったのか。」と話すのは、木材を提供したヒダクマの代表の岩岡です。

岩岡 一枚50キロ以上はあるだろう広葉樹の板が、材木場で50枚以上並べられた風景を見て正直そう思ってしまいました。製材され天日の下で乾燥された木の板の表面は荒々しく、一層の威圧感がありました。そんな僕の不安をよそに、建築家の佐野さんは木目を見ながら木を選び、大工の田中さんは採寸しながら線を引き、製材所の西野さんがフォークリフトで板を積み上げていく。森と木工の町・飛騨をよく表している、誇らしく、頼もしく感じる瞬間でした。
木の重さは物質的な重さだけではありません。何十年あるいは百年以上の年月を森の中で過ごした履歴が蓄積され、生命が詰まっている重さなのではないかと思うことがあります。
完成した京都オフィスの家具はたしかに量塊ではありますが、不思議と重さを感じません。これは、重さを打ち消すように設計されたディテールと、職人の手によって完璧に組み上げられた仕上がりが理由なのですが、あえて理論的でない理由を探すと、荒々しい表面を削り落とされ磨き上げられたことで、木の内部に詰まっていた「何か」が空間に放出されているから、かもしれません。
この家具を使いながら「木って良いよね」とふと思うとき、飛騨で木を扱う職人たち、そして森の中にある「何か」にまで思いを巡らせてもらえると嬉しいです。

関連リンク:「何か」をもっと知りたくなったらこちらへ

集まりやすく散らばりやすい空間が実現

オフィスがリニューアルして10日。すでにメンバーの働き方が変わってきています。

寺井 一見すると「これは一体なんなんだ?」と戸惑わせる強烈な個性のバームクーヘン型のテーブル。正直にいうと「やりすぎちゃったかな…」と不安がよぎりました。が、いざ使ってみると印象はガラリと変わり、人と人との風通しが良くなっていることに驚きました。
テーブルの絶妙な高低差と、これまで視界を遮っていたディスプレイや書類、備品などが視界から一掃されたことで、オフィスで働く仲間が、今どこでどんな顔で何をしているのかが一目瞭然に。となりあっての共同作業や、ちょっとしたスタンドアップミーティング、そして遠くから聞こえてきたブレストにふらりと参加していく様子がよく見られるようになりました。そして、当初想定していた場所とは違うところにも「人の溜まり」が生まれ、コミュニケーションの場が発生する、という嬉しい誤算もありました。バームクーヘン型テーブルの緩やかなカーブによる「境界線の曖昧さ」が良い影響をもたらしているように感じます。
フリーアドレス制は、話しかけられやすく、集中力が削がれるのでは?という意見もあります。今回、1人で集中するための場所と、共同作業やミーティングができるコミュニケーションエリアが自然に共存しながらも、全体が見渡せる空間を目指すことで、自分の居心地の良い場所を自分で選んでコントロールできる「集まりやすく散らばりやすい空間」が実現できました。
そして、飛騨の森からやってきた、この美しくも力強い家具たちに触れながら働くことは、きっと「家具の機能」以上のなにかを私たちにもたらしてくれるだろうと信じています。より一層パワーアップしたロフトワーク京都を、今後ともどうぞよろしくお願いします。

新しいオフィスで一緒に働く仲間を募集しています

2011年に3人でスタートした京都オフィス。今では18人になり、今回のリニューアルでオフィスでの働き方もアップデートされ、これからより面白い挑戦をしていきます。ロフトワーク京都の仕事にご興味のある方はいつでもご応募お待ちしております!

番外編:京都を感じる仕事環境

オフィス工事中は臨済宗大本山建仁寺塔頭寺院の両足院をサテライトオフィスとして使わせていただきました。両足院は美しい半夏生のお庭で知られ、普段から坐禅体験なども行われています。開放感と落ち着きのある空間で、メンバーも仕事が捗ったはず(?)。

古都ならではの仕事の仕方もできる京都オフィスで、お待ちしています!

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