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【後編】大手日系メーカーの未来はどうなる? KIRIN×富士通の人事対談

消費者や顧客のニーズの目まぐるしく変わり、製造業は商品やサービスに付加価値を生み出すことが欠かせなくなっています。イノベーションを起こすために、大手日系メーカー各社はどのように変化しているのでしょうか?

今回は、日本を代表する飲料メーカーのKIRINが、同じく日本を代表するICTベンダーの富士通と人事対談。前半ではそれぞれの事業や社内制度の「変化」についてご紹介しました。
(前編はこちら:【前編】大手日系メーカーの未来はどうなる? KIRIN×富士通の人事対談

後編では、2社におけるキャリア採用の状況を踏まえ、お二人が考える理想の企業像、変化の多い時代において必要となる人材について、お話しいただきます。

■プロフィール
(写真:右)
キリンホールディングス株式会社 人事総務部 人事担当 土屋洋平
2009年キリンホールディングスに新卒入社。営業職として生産部門を経験した後、2013年から2016年まで量販店の営業を担当。その後、人事総務部に配属となり、技術系や事務系の新卒採用に従事。2018年には部内異動にて、社内における異動・配置、タレントマネジメント、キャリア採用の戦略企画を担当し、現在に至る。
(写真:左)
富士通株式会社 総務・人事本部 人材採用センター 芹澤隆文
2009年富士通株式会社に新卒入社。人事部配属後、HRBP(HRビジネスパートナー)として営業・システムエンジニア領域を担当。2015年採用チームに異動となり、2018年まで新卒採用チームを担当。2018年にはキャリア採用チームのリーダーに抜擢。その後、人事部における配属担当を経験し、現在に至る。

両社がキャリア採用に力を入れているワケ

土屋:「多様化する消費者のインサイトに寄り添った商品やサービスを届けていくためには、今までにはない発想や価値観が必要です。しかし、KIRINは長い歴史があり、継続的に大切にしてきた価値観が根付いているため、時に縛られてしまうこともあります。新たなイノベーションを起こすためには、異なる視点や価値観を取り入れ、思い切って壊すことや飛び越えることも必要。そういった思いから新卒が中心だった採用からキャリア採用にも幅を広げ、多様な人材が集まるKIRINへの変革をスタートしました。

従来のキャリア採用は、欠員補充や機能に特化した採用が主でした。それが近年では、新しい人材を迎え入れ、社会に、会社に、そして、個々人の成長に、新たなplusを生むためのキャリア採用に移り変わっています。実際に成果として、マーケティング部門に異業界出身のキャリア人材が加わることで、生茶が復活しました。さらに、一番搾りの売り上げが前年を超え続け、本麒麟が誕生……といったように、数々のイノベーションが生まれています。

そうした変化が生まれていく中、キャリア採用を受け入れる側にも変化が起きています。キャリア採用が増え始めた頃は、プロパー社員はキャリア採用に対し少なからず抵抗があったと思いますが、2~3年続けると当たり前のように受け入れられるようになりました。徐々にですが、価値観が変化していると感じています。」


芹澤:「富士通でもキャリア採用が増えてきて、今年は第二新卒の採用もスタートさせました。それに伴って、中途入社の社員をサポートする体制もアップデートしています。

入社から90日間は、上司だけではなくオンボーディングサポーターを付ける「90日間プログラム」という仕組みを作り実施しています。オンボーディングを担当するのは専門的な知識を持った社員。富士通は大きい組織なので、PCひとつとってもエンジニアと営業で必要な知識が違ったり、教育関連のプラットフォームがたくさんあったりするためです。この仕組みによって、キャリア採用の人材が活躍できる環境が整いつつあります。

こういった社内環境の改善は、キャリア採用の社員に経営陣が直接ヒアリングする機会を設けるようになったことで大きく進みました。富士通に中途入社した1、2年目の社員にアンケートを取ったり、食事やミーティングの場を設けたりと、現場の意見を積極的に吸い上げようとする動きが進んでいます。」

土屋:「富士通さんと同じように、KIRINでもキャリア採用者のフォローや定着化・戦力化に向けた取り組みにチャレンジしています。昨年12月には『キャリア採用者の集い』という社内イベントを開催。キャリア採用の社員を集めて『自分がKIRINにplusしたこと』『KIRINが自分にplusしたこと』『今後plusしていきたいこと』の3つのplusについてリフレクションを行い、さらに社長講話、役員との交流会を実施しました。

キャリア採用の社員とコミュニケーションを図り、つながりをつくることで、個々人が持つ考えや価値観に触れられるだけでなく、外から見るKIRINの姿や『KIRINのここが変だよ』をフィードバックしてもらえることで会社のアップデートに繋がっています。」

イノベーションを起こし、競争に勝ち抜いていくために、キャリア採用や社内制度のアップデートを積極的に行っている両社。大手日系メーカーはより人材の流動化が進み、変化を続けていきます。そんな環境の変化の中で人事を務めるお二人が描く企業の未来や理想像について話は広がっていきます。

人事のお二人が描く企業の未来

芹澤:「この先、業界という壁がなくなり、職務、職種というところに人が動いていくのではないでしょうか。キャリア採用もより一般的になり、社員の紹介で入社するリファラル採用、転職してからまたカムバックしてくるアルムナイ採用も増えていきます。これからさらに人材の流動性が高まっていくので、個人の仕事に関する情報やスキルを開示をしていく必要があるのではないかと最近思っています。」

土屋:「多数の社員が在籍していますが、一人ひとりがどのようなスキルを保有しているか、どのような想いやキャリア志向を持っているかが見えにくくなっており、会社側が優秀な社員にチャンスを与えきれていないのではないか?という仮説を持っています。これは大企業においてイノベーションが生まれにくい要因の一つかもしれない。将来的にLinkedinのKIRIN版のような、一人ひとりが自身のスキルや自分のやりたいことを、自信を持って発信していけるような仕組みができたらいいなと思います。

また、情報の開示に加えて大企業だからこそ社外の人間との接点づくりを積極的に進めていく必要もあると思っています。大企業は社内に目が向きがちで、愛社精神が強いほど他者と関わらない傾向がありますので、どうしても新しい発想が生まれにくい。

会社の出入りを自由にして、食堂で全く違う会社の人と食事するといった文化ができたり、他社の社員に電話して知りたい情報をすぐに聞けたり、企業同士の壁がよりボーダレスになっていってほしい。外に聞いて解決できることが増えたら、さらにイノベーションが多く生まれると思います。」


芹澤:「社内でも同じように、違う職種同士が関わる機会を増やしていけたら良いと思います。組織を職種で分けているパターンもありますが、営業とシステムエンジニアが一緒にいたほうがイノベーションは起きやすいのではないでしょうか。

営業同士で話す内容と営業とSEが話す内容は違いますよね。おそらく考え方も違う。こういう時に新しい価値が生まれるのかなと思っています。特に富士通の場合だと、営業、SE、開発者、研究者、コーポレートといった様々な職種がいることが価値だと思っているんです。富士通研究所を持っているほど研究者も社内に多く、社外の技術者に聞かなくても解決できることも多いはず。職種間でのコラボレーションを活発にできたら、イノベーションが活発に起きるのではないかと思っています。」

人材の流動化が活発になることで、キャリア採用という概念にとどまらず、採用の形式も増えていくことでしょう。企業における採用活動が変化していくように、今後必要となる人材も変わっていきます。お二人が考える今後必要な人材について、人事目線で語っていただきました。

変化が加速する時代に必要となる人材とは

芹澤:「明らかに必要だと思うのは『変化できる人』です。今後も外部環境や会社のカルチャー、業務内容などが変わり続けていくでしょう。AIなどによってさらに変化が加速する状況において、自分自身も変わっていこうと行動できるかが大切です。さらに個人的にはダイバーシティも大事ですが、よりインクルージョンが大事だと思っていて、人の話を素直に聞いて、コラボレーションできる人が必要になってくるのではないでしょうか。

分析思考能力、説明能力などビジネスにおける基礎能力を高めるのはもちろんですが、『変化』『コラボレーション』『インクルージョン』『素直』といったキーワードが今後活躍する人材の要素だと思います。」

土屋:「今後必要になる人材像は、どんな環境・変化の中でも『明るくて元気』『前向き』といった人だと思います。どの時代も共通ですが、仕事は人と人とが行うもの、関係性の質が重要であることは不変ではないでしょうか。素直に一緒に働きたいと思えるかどうかは大事です。また、会社の将来的な動きという観点で、他者や外部とつながるためのヒューマンスキルはさらに必要になります。『人間らしさ』が今よりももっとフォーカスされるかもしれませんね。

さらに今まで対応している業務にとどまらず、周りを巻き込んで何かにチャレンジする、勇気を出して一歩会社の外に出てみるなど、外部に対してワクワクできる人が強いですね。一人の凄い人よりも、みんなで凄いことをするというイメージです。

スキル面では今よりもデジタル、経営、人事などの専門性が強みとなりそうです。特定の分野の専門性を活かし、キャリアや職につなげていく人が増えていくでしょう。ちょうど今、全社的にゼネラリストを生んできた体制を大きく見直す転換点を迎えています。初任給の見直しや採用の自由化が追い風となって、専門性が高い人材を採用するケースも増えるのではないでしょうか。」


芹澤:「専門性は大事になってきますよね。ではどうやって身につけていくかというと、シンプルに好きなことを選ぶのでも良いと思います。自分が好きなことでないと人間はなかなか成長しません。好きなことを究めることで専門性が生まれ、その先の選択肢が増えることで、さらにチャレンジを重ねていけると良いですね。」

KIRINと富士通の人事を担当しているお二人に、お話しいただきました。それぞれの業界における目まぐるしい環境の変化に伴い、大手日系メーカーの2社においても、事業内容から社内制度、キャリア採用など様々な領域が大きく変わり始めています。

イノベーションをさらに加速していくためには、新しい発想を持つ人材が必要です。外部環境や業務内容、さらには自分自身の変化を前向きに捉え、周りを巻き込んでいける人と一緒に働いていきたいですね。

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