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技術を追い、新たな表現を。イメージソースに聞く、インスタレーション制作の開発環境

“体験”が価値となる、インスタレーション。 その表現は、さまざまな技術、ツール、プラットフォームが裏で支えている。ここ十数年ほどでインスタレーションに触れる機会も増え、表現の幅や可能性も拡張してきたが、その裏側では技術の進歩や変遷があったことはいうまでもない。 インスタレーション制作で数々の受賞歴を持ち、表現・技術の研究開発を続けるイメージソースは、この十数年の技術的変遷をどう捉えているのか。テクニカルディレクター 吉井正宣氏に話を伺った。

表現を追求する「組織」であるために、選択したこと

ー イメージソースは黎明期からインスタレーションを制作をされてきました。その中で、制作環境はどのように変遷してきたのでしょうか。

以前は「openFrameworks」を使うことが多く、「Flash」を使うこともありました。ただ、ここ3〜4年は「Unity」をメインに使っています。基本的には世の中の状況の変化とともに、制作に用いるツール・プラットフォームも変化しているイメージです。

他にも、「TouchDesigner」を使う場面もありますし、 他社では「Unreal Engine」を使っている方も見かけますね。

ー なぜUnityをメインに使われているのでしょうか。

Unityをメインで使いはじめたのは2017年頃。当時はopenFrameworksがメイン、Unityは探り探りで使っていたのですが、つくれるものの幅の広さ、そして組織づくりの観点の二軸で「これならいけるな」と思い、踏み切りました。

まず、Unityはプラットフォームの守備範囲が広くPCからモバイルアプリ、XR(VR、MR、AR)系のデバイスなど、多様な環境に対応できます。内容としても、3Dグラフィクスだけでなく、UIの制作やネットワーク関連、デバイスとの連携など、ある程度はUnityだけで完結できます。

ー マルチデバイス、多様な表現先をひとつでカバーできると。

加えて、我々のような組織にもマッチしていました。イメージソースは少数精鋭を目指しているので、一人で多種多様な要件をカバーする必要があります。Unityであれば、ハイスペックなPCで高負荷なビジュアルも制作できますし、モバイルアプリも作れる。少人数でマルチにこなすには適しています。

また、これまで使っていたopenFrameworksと比べて個人差がでにくいため、経験値の異なるメンバーで共同で作る場合にも、クオリティを安定化させやすい。事業の性質と会社の状況に適していました。

あと、個人的には、Shader周り。特に、Compute Shaderなどをよく使うので、Unityは使い勝手が良いですね。画面またいで同期したり、抽象的なパーティクルではなく、正確に細かく制御したり、特殊なデータ構造使ったり。コード書かないと実現できないなと思うことも多々あるので、Unityに落ち着いています。

案件でもプロトタイピングでも、前例のないことやもう二度と同じことはしないであろう特殊な使い方もするので、そういったことを実現するにもUnityはちょうどいいんです。

リアルタイム・多様なデバイスを用いた表現を実装

ー 実際に、Unityを用いて制作された事例を教えてください。

クライアントワークは表にだせないのも多いので、少々時間が経っていますが、ひとつはINTER BEE IGNITION NIGHTで開催した「NEW EXPERIENCE LIVE VIEWING」です。

NTTドコモが提案するインタラクティブなライブビューイングです。渋谷でのライブを幕張メッセへリアルタイム配信しつつ、会場内に設置された透過スクリーンとタブレット、ユーザー個人のスマホを連動させた体験です。

ー どのような点に、新規性や技術的な挑戦があったのでしょうか。

動画を見ていただいた方がわかりやすいですが、観客は正面の大型ディスプレイで映像をみるだけでなく、自分のスマートフォンからユーザー独自の「雪の結晶」を指で描いて投稿できます。すると、大型ディスプレイ内に送ったオブジェクトが雪のように降ってきて、遠隔地にいるはずのアーティストがそれに反応したり、リアルタイムに当たり判定を更新しています。

加えて、会場前方にはiPadが設置されており、そこに映し出される映像も、正面の大型ディスプレイや透過ディスプレイと連動させています。こういったリアルタイムな映像演出から、様々なメディアを連動させたインタラクティブな演出等に挑戦しています。

ー かなり複雑、かつマルチデバイスでのリアルタイムな表現だったんですね。

他にも、自社制作で取り組んだSPACE LIGHT SHUTTLE もUnityを用いています。この事例は、ビジュアル面はUnityで、ムービングライトとの制御にはTouchDesignerを使いました。


このプロジェクトではそれぞれのメンバーの強みを生かし、チームを組成。映像をUnityエンジニアが担当、デバイス制御はハードウェアエンジニアといった形で、エンジニアだけでも3人関わっています。

表現・技術のR&Dがアイデアの源泉

ー 吉井さんは、インスタレーション制作の醍醐味はどこにあると思われますか?

新たな表現や技術を、自由度高く追求できる点でしょうか。インスタレーションは、限られた場所や期間において、その“場”とクライアントの要件に適したものを考え、基本はオーダーメイド的なつくりかたをします。「特定の条件下にのみ最適化したもの」に専念できるので、挑戦的な取り組みをできることが多いですね。

特殊な表現・実装をするためには、個人ではとても手にできないようなハイスペックなPCやデバイス、プロジェクターなどの機材を何台も使ったりします。常に挑戦が求められますが、新しい技術や表現を探求し続けるには、魅力的な環境だと思います。

 ー ただ、そうした挑戦を続けるには日々のインプットが欠かせないと思います。アイデアの源泉は、どこにあるのでしょうか。

イメージソースには、技術や表現を常に模索する文化があり、そこがアイデアの源だと思います。エンジニアをはじめとしたメンバーが新しい価値を見出すためにプロトタイプを制作し、『IMG SRC PROTOTYPES』というイベントで、展示。社外の方に体験して頂きながら意見を交換することで、実際のプロジェクトに発展させていく協創の場として定期的に開催しています。

ー プロトタイピングを通して、案件の“種”の段階から作ることができると。


たとえば、PROTOTYPES Vol.04では、スクリーン上の映像とAR上の映像を、タイミングだけでなくパースも合うようにリアルタイムに制御し、スクリーンの映像は流したまま、AR上では物体が画面からとびだしてくるような表現を可能にしています。このプロトタイプは、実際の案件にも発展しています。

映像を流したままにできるので、それだけでも楽しめますし、ARをつかえばさらに特別な演出ができます。そうすることで、アプリをインスールした人も、していない人もその場を楽しめます。

また、僕個人としては、独自の新たな手法をつくりだしていきたいという想いがあります。コンテンツだけでなく、コンテンツを生む土台のようなもの。例えば、どこかの誰かが、プロジェクションマッピングを始めて発展させ、そこから多くのコンテンツが生まれたように。

このように、客観的なソリューションや需要に基づくものと、主観的な想いや好奇心を混ぜ合わせて、バランスをとることで、今後につながる種をまき育てていきたいと考えています。

先駆者として感じる危機感と可能性

ー 社内でも実験を繰り返しているからこそ、新たな挑戦に力を入れられるんですね。ここ十数年ほどでインスタレーション自体も成熟し、目にする機会も増えてきました。先人として、今の状況をどう捉えていますか?

技術的観点では、新しいものが次々と生まれ個人でも多様なものが作れるようになりました。挑戦しやすい環境が整っていることは、とても素晴らしいことだと思っています。

ただ、会社としては制作ツールの発展、多様化に危機感もあります。他業界のため競合しないと思っていた企業が競合になりつつあり、個人でも様々なものがつくれる環境がより整ってきているので我々だからこそできることは何かを、さらに突き詰めなければいけません。

一方で、開発環境が発展、普及したおかげて、昔は他業種だとおもっていた領域からより具体的なことを学んだり、刺激を受ける機会も増えています。

たとえば、ゲームは非常に洗練されており、素直に感動、感心してしまいますね。Unityの使い方や具体的、直接的に勉強になることも多いです。せっかく、共通する部分も増えてきたので、人もノウハウもより流動的になると面白いですね。

そのためにも、私たちはリアルな体験づくりでの魅力を高め、独自のノウハウを蓄積していたい。そして、情報や人材の流れがもっと活発になれば、さらに新しいものや質の高いものが生ませるかもしれません。

今後も変化を楽しみ、人もツールも様々な領域から取り入れて、状況に適応しながら成長していく組織をつくっていきたいです。

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