~ KUDEN Worldへの想い〜　中島晋哉

私が31歳の時に衝撃を受けた体験がある。それが、今も自分の礎になっている。

10代の頃から、ファッションが好きでアメリカンカジュアルの洋服を好んで着ていた。大学に入り、イタリアの洋服に魅了された。子供の頃から、舶来品という言葉があり、製品の裏側に「ドイツ製」や「イギリス製」とあると、それは高級品の代名詞だった。欧米の商品の質は良い、日本製はそうでないとの風潮があった。今では考えられないことだが。
ヨーロッパ製品はセンスが良く、洗練されている。アメリカのカルチャーは素晴らしく、憧れがある。そう育ったように思う。

22歳で大学を卒業し、髙島屋の門を叩いた。兼ねてから、心踊るヨーロッパブランドを扱う部署を志望し、希望通り配属となった。世界中の最高の商品に囲まれて仕事ができ、そんな素晴らしいことはない。そう思って働いていた。この最上の経験が、自分のプロダクトを見る目を養ってくれたと振り返ることができる。
10年目に、社内でニューヨーク髙島屋のバイヤー赴任の公募があった。迷わず手を挙げ、幸運なことに選抜でニューヨークに行くことになった。31歳になったばかりだった。

ずっと、ヨーロッパは洗練されていて、アメリカのカルチャーや合理的なビジネスが素晴らしいと感じていた。同時に、日本のセンスの無さや戦争の失敗、バブル崩壊など、日本人の多くが自らを卑下していたように、私自身もそう思っていた。日本より海外、との思いを強く持っていた。愛国心を感じる機会も少なかったように思う。だからこそ、ニューヨークに行けること、ニューヨークからヨーロッパに買付けに行けることにとにかく躍動した。

ニューヨークタカシマヤには、当時35カ国の人が働いていた。仕事終わり、７−8人でレストランやバーに行く習慣があった。

ある日、バーで、各メンバーのお国自慢が始まった。自分がいかに国を愛していて、使命感があるのかという類の話。自国を作った人やその歴史、建国の精神などの話が続いた。アメリカ人も、フランス人も、中国人も、インド人も、スラスラと話していた。「ところで、晋哉、お前はどうなんだ？日本の事を少し教えてくれ」と突然聞かれた。驚いた・・。驚いたのは、彼らにではなく、自分に。何も知らない自分、全く答えられない自分に驚いた。同席していた他の２名の日本人に聞いた。「お前ら、知ってる？」返ってきた答えは私と同じものだった。

日本がいつ出来て、誰が作ったのか全く知らなかった。まして、建国の精神など、考えもしなかった。

こんな、何もない日の出来事が自分に衝撃を与えた。
そこで、一つ自分に「問い」を見つけた。単純な「問い」を。

それは「なぜ、我々は知らないのか？」だった。



〜つづく〜