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VRはなぜ生まれたのか、そしてどこに行き着くのか 後篇

さて前回は、VRの起源について過去に遡り、テクノロジーの性質を踏まえ、なぜVRが生まれたのかを紐解きました。今回は、VRは今後どうなっていくのかについて、同じくテクノロジーの性質という側面から考えてみたいと思います。

まずおさらいですが、テクノロジーは、何かの必要性を満たすために生まれ、人間(が持つ機能)を拡張し、さらにテクノロジー同士が合わさることによって進化します。

よって、本記事においてVRの今後の進化を

  • 人間(が持つ機能)を拡張する
  • テクノロジー同士が合わさることによって進化する

という2つの点から見ていきます。

人間(が持つ機能)を拡張する

VRというテクノロジーは、基本的には脳をハックする技術です。人間の五感、すなわち、視覚、聴覚、嗅覚、触感(体性感覚)、味覚は、それぞれの器官が得た情報を脳で処理することで感覚を得ていますが、VRではこれらの感覚を、脳をハックすることで、人工的に、現実感を持ったものとして再現することができるようになります。実際には目の前に無いものが見えたり、聞こえたり、臭いがしたり、触っている感覚になったり、味がしたりということで、これはVRが人間の知覚する機能を拡張する形で進化していくということが出来ます。

では脳をハックするとはどういうことでしょうか。まず、現在販売されているVRデバイスでもう実現されており、かつバーチャルリアリティの核となっている「視覚」機能についてみてみましょう。

人間は、三次元の空間を、「距離感」を感じ取ることによって三次元であると認識しています。「遠近感」や「奥行き感」と言い換えることも出来ます。

では一体、人間はどのように距離感を感じ出ているのでしょうか。

下図は、人間の眼の構造ですが、人間の眼球には角膜と水晶体があり、外から入ってくる光をこの角膜と水晶体を通して網膜に映し、両目の網膜に映った二次元の映像を脳が読み取り、三次元の空間を構築します。つまり、眼そのものは世の中を二次元で写し取っているわけで、それを脳が補完して三次元で捉えているということになります。(錯視などはこの、脳が補完するという原理によって起こる現象になります)


By Rhcastilhos (translated by Hatsukari715) –Schematic_diagram_of_the_human_eye_en.svg,

この「眼」という器官一つで距離を感じ取る仕組みがいくつかあるのですが、最も基本的なものは「輻輳」という機能で、両眼と、見ている注視点を結ぶベクトルのなす角度から、三角測量の原理で絶対的距離を計測しています。また、モノを鮮明に見るために眼を動かしたときの動き方によって、両目が内側に動けば相対的に手前にあるものであり、外側に動けば相対的に遠くにあるものであると判断しています。

また、両眼視差という、左右の眼に映る映像の違いからも距離の感覚を得ています。

これらの(距離を感じ取る仕組みは他にもあります)の仕組みをテクノロジーによって再現したものがHMD(ヘッドマウンテッドディスプレイ)で、いわゆるVRデバイスと認識されているものになります。

HMDでは、左右の眼それぞれに少しだけずれた別々の画像を表示し、現実の世界で眼がモノを見るときに起こる輻輳などの機能を擬似的に再現することによって脳をハックし、人工的な三次元空間を創り出しています。

将来は視覚の再現がさらに本物に近づいてきます。理由として、ディスプレイの解像度があがることが挙げられます。現在は片目1K×1Kの2Kの解像度ですが、これが4K×4Kや、さらには8K×8Kの16Kにまで進化が進むという予測まであります。16Kまで解像度が向上すれば、現実とほぼ区別が付かないレベルのものになるはずです。

そして、視野角も広がっていくと考えられています。現在のOculusやHTC Viveは110度ですが、人間の視野角は220度以上であり、こちらも限りなく人間の視野角に近づいてくると考えられます。

このあたりはOculusのチーフサイエンティストであるマイケル・エイブラッシュが講演しています。

視覚と同様に、その他の感覚器についても人間が現実を知覚しているものに限りなく近いレベルにまでVRによって再現されてくるでしょう。

聴覚については、人間は、右の耳と左の耳にくる音の「時間差」を感知することで音源の方向を判断しています。また、「耳介」によって生じる音の特性の微妙な変化を感じ取ることで音源の上下方向を判断しています。

「耳介」とは、動物の耳のうち、外側に出ている部分のことを指します。私たちが普段「耳」と認識している部分のことですね。耳たぶも耳介に含まれます。


By Anatomy_of_the_Human_Ear.svg: Chittka L, Brockmann
derivative work: Nesnad (talk) – Anatomy_of_the_Human_Ear.svg, CC BY-SA 3.0, Link

VRの現在は、HMDに接続したイヤホンなどを通じて音を伝えている状態ですが、これではその音が前から発生しているのか後ろからなのか、上からなのかを認識することができません。しかし現在の研究において、右の耳と左の耳にくる音の「時間差」を意識的に作りだし、耳介による影響まで計算にいれて音を加工してリアルな音を再現することも行われています。

また、耳には音のセンサーの役割の他に、加速度センサーの役割もあり、加速度の知覚を再現するための研究も行われています。

このように聴覚においても、人工的に作ったもので脳をハックし現実を再現する方法が確立しつつあります。

その他の知覚機能、すなわち嗅覚、味覚、触覚においても、研究進捗の差はあれ、人間がそれぞれの器官で現実を知覚している仕組みを解明し、脳をハックして人工的な現実を本物であると知覚させる方法が研究されており、将来的には全ての感覚器が把握できる内容をほぼ完全に再現できるようになるでしょう。

これは、ITジャーナリストの西田宗千佳氏が提唱する「VRにおける『技術現実レベル』を無想する」における、技術現実レベル5に該当します。参考までに、レベル4とレベル5の説明は以下になります。

●レベル4
人間の感覚器が把握できる内容を、より正確に再現可能になり、移動なども再現可能になる。映像についても、フレームバッファによる写像を見るのでなく、立体空間を把握可能になる。移動については、なんらかの感覚器置き換えにより、実際の移動に近いものになる。ただし、「ここが仮想空間である」ことは、映像のクオリティや音の情報の不足、匂いや触感の欠如など、「感覚を完全再現するために必要な帯域の不足」により、まだはっきりと認識可能である。
●レベル5
仮想空間と現実空間の差が非常に小さくなる。五感のすべてが完全とは言わないまでもすべて再現され、仮想空間の中でほぼ同じ活動が可能になる。物理的制約がない分、自由度は仮想空間の方が高い(ただし、生命維持活動は仮想空間内では行えない。それは別の定義となる)。

このように、VRは人間の知覚の機能を拡張させる方向で進化していき、すべての知覚を(ほぼ)完全に再現できるところに行き着くこととなるでしょう。

テクノロジー同士が合わさることによって進化する

VRというテクノロジー単体での進化を前項で考えてきましたが、当然、VRはその他の様々なテクノロジーと組み合わさることによって進化していきます。

インターネットなど既存のテクノロジーはもちろんですが、IOT、AI、ロボティクスなど今後実用化されてくるであろう新しいテクノロジーとも融合していくと考えられます。

AI×VR

例えば、AIとVRの融合はイメージしやすいものの一つだと思います。

バーチャルに創り出したキャラクターや、場合によっては見た目が人間に限りなく近い人工物にAIを搭載することで、実際の人間とのそれとほぼ変わらないコミュニケーションをとることができます。漫画「ルサンチマン」の世界などはまさにそれが現実になったものですね。

テレイグジスタンス

また他に、ロボティクスとの融合があります。これはテレイグジスタンスといい、

遠隔地にある物(あるいは人)があたかも近くにあるかのように感じながら、操作などをリアルタイムに行う環境を構築する技術およびその体系のこと

です。

遠隔地にいながら別の場所にあるロボットを、ロボットの目線で操作したり、遠隔地から手術現場にいるかのように手術を実施したり、人間が行く事が困難な場所での危険作業が出来るようになります。

ジェームズ・キャメロン監督による映画「アバター」は、意識自体をアバターに移して自在に操ることができるので、一種の、あるいは最強のテレイグジスタンスといえるかもしれません。

このように、VRはそれ自体が進化しながらも、他のテクノロジーと融合することによって様々に進化していくと考えることが出来ます。

番外編

脳波によってVRを操作するという研究も行われているようです。これはまさに、ソードアート・オンラインなど世界観で、人類の夢でもありますが、こちらに関しては個人的にまだしっかり情報を集めることが出来ていないため本記事ではこれ以上言及しません。人間の脳、脳のしくみについてはまだまだ解明されていないことも多くあり、時間はかかりそうだという印象です。ここについては、いずれまた別の回に詳しく考えたいと思います。

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