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離島・海士町で、島とゲストを繋ぐ役割を果たす「生産者の近くで働く」ということ

日本海の隠岐諸島に位置する島、海士町。

人口約2300人のこの離島にはなにかの引力がはたらいているかのように多様なバックグラウンドを持つ人々が引き寄せられ、生活をしています。

離島の営みを紹介する連載「わたしの離島Life」。

第8弾は、新卒で松江から海士町にやってきた藤井晴朗さん。

島根県松江市に住みながらも、大学卒業時まで海士町には訪れたことのなかった彼が海士町で働くことになった経緯から、こだわりを活かした働き方や好きを追い求める離島暮らしをお伺いしました。

Profile:藤井 晴朗(ふじい はるお)
島根県松江市出身。卒業旅行で訪れた海士町でEntôを実際にみて島根大学を卒業後は海士町に移住。Entô Diningでサービスやドリンク提供を担当する。ドリンクのペアリングメニューの開発や、ジオパークで繋がる世界各地のワイナリーからの仕入れ等でEntô Diningの可能性を広げている。

「せっかく働くなら、好きなことを」フィーリングで移住を決意。

ーーまず学生時代について教えてください

島根大学に通っていた頃は色々なアルバイトをしていたのですが、当時は自分のお店があって自分のこだわりのものに囲まれた空間を作ることに憧れていました。フレンチのレストランで働いていたのですが、そこでの食材やアンティーク家具へのこだわりに感化されていました。

元はなかなか物事が続かないのですがこれだって思うと突っ走ることができるタイプで、働き始めたら仕事しかやらなくなるだろうと思っていたので、働くなら自分の好きなことやフィーリングがあったものを選ばないと続かないと思って探していました。

そんな中、友人たちと卒業旅行で隠岐諸島に来ることになりました。Entôの存在は知っているくらいで、このとき初めてEntôの建築を見ました。松江に住んではいたものの、隠岐が「ジオパーク」と呼ばれていることや近くにこんな自然豊かな場所があることを、旅を通して初めて知り興味が湧きました。自然や地球をそのまま活かした観光ってなんだろう、ジオパークをどう楽しむことができるんだろう、と疑問が次々に浮かんできました。

そこで代表の青山さんとお話しすることになり、その会話の中でもフィーリングが合うような気がしたのですぐにEntôで働くことを決めました。

Entô Diningで提供しているメニューとこだわり

ーーそのようにEntôに出会ったのですね。
その後、実際にEntôではどのように働かれているのでしょうか?
1日のスケジュールも教えてください。

今はEntô Diningで食材の仕込みから提供、ドリンクのペアリングや選定なども行っています。ジオパークを活かした料理だったらどういうものができるのか、ジオパークを料理で表現したいと思っています。

仕事の日は、12時くらいに出勤してディナーの仕込みをするところから始まります。午前中は漁師さんや農家さんから連絡があれば仕入れに向かうこともあります。16時くらいまでは魚を捌いたり、ブロック肉をカットしたりといった仕込みをして、17時から実際にお客様をお迎えしてディナーを提供し始めます。

ディナーの時間帯は料理の説明をしたり、ドリンクを提供したりしています。ディナーのコースは、今の季節だと前菜にカボチャを使ったムースを出したり、その日仕入れた魚をいちじくの酸味が効いたソースと合わせて提供したりしています。

特に、前菜のカボチャは本来であればもう少し追熟させて甘い状態にしてから提供することが多いのですが、この時期のありのまま自然の風味を楽しんでもらうためにあえてそんなに糖度が高くないあっさりした状態で出しています。かぼちゃのムースの上に海士町のあご出汁(飛魚からとる出汁のこと)のジュレを乗せています。このように、一皿目に一番季節感を持たせたり、面白いと思ってもらえるようにしたいと思っています。

「島らしさ」を伝えるために、メニューに施す工夫

ーー他にも藤井くん自身のこだわりはありますか?

「島らしさ」を食材だけでなく味付けや組み合わせでも感じていただけるものを出すようにしています。例えば、デザートで出している野草茶ケーキは島のおばあちゃんが健康にこだわり何十年もつくっている野草茶を使っています。野草茶は3種類の野草がブレンドされたお茶なのですが、少しドロっとしたテクスチャーで苦味はないです。ドクダミや豆のお茶に似ている気がします。

島の文化である「おすそ分け」を知っていただくためにおばあちゃんの野草と自分たちで収穫した野苺を添えたり、自生しているミントからハーブオイルを作って合わせたりして提供しています。

好きなこと、趣味の延長線が仕事になっている

ーー藤井くんの休みの日の過ごし方を教えてください。

休みの日は、あまり家にいないので仕事をしてしまっているのかもしれません。笑

次に出したいレシピを試作したり、メニューに新しく取り入れたい食材を探しに行ったりすることが多いです。最近では、島後(隠岐の島町)に蕎麦粉を作っている方がいるのを発見して会いに行きました。朝食で蕎麦粉のガレットを提供できたらいいな、と思っています。

アンテナが島の食材に偏っているんですよね。例えば隠岐には醤油屋さんがないな〜と思っていたら、島後のオンラインショッピングのサイトに出てきたのであることを知りました。

不意に気になってしまうところがあってすぐに調べてしまいます。そういうことが好きなので休みの日も仕事関連のことをやっています。「離島」という制約があり選択肢が限られるからこそ、その制約の中では何ができるか考えて調べて知識欲を満たして、その先に仕事として自分が想像していたものをつくったり、それでお客様に喜んでいただけたりするので好きなことが仕事に繋がっているんだと思います。

ーー常に調べている、ということなんですね。最近新しく知ったことはありますか?

職業柄、島の漁師さんとはよく連絡をとっているのですが「海が荒れている」というお話を聞きました。僕自身も今年の夏は色々なところに潜ったのですが、サザエがいる箇所と全くいない箇所があったりして環境が変化し続けていることを実際に感じました。原因はたくさんあると思いますが、やっぱり人間が過ごしているところと近い箇所は生物や環境がダメージを受けている印象です。

島にいらっしゃったお客様には「海士町の海綺麗だよね」と言われることが多いのですが、以前は”綺麗”とはまた違う”豊かさ”があったのだと思います。海が綺麗ではあるけど、本当はもっとプランクトンや海藻があった方が海にとっては理想だったりします。

移住者が増えると島が活気付くような気がするのですが、移住するから家を建てたり、工事でゴミが出たりすると環境に影響が出てしまうことに気が付かされました。Entô Diningにいらっしゃるお客様にはここまで深いお話をすることはあまりないです。

海士町・明屋海岸

ーーそうなんですね、夕食の場でそこまで深く島について知ることができたら嬉しいですね。

それこそ、今後はこういった島の環境についても考えてもらえる機会にするためにDiningで一皿、メッセージ性のあるプレートを出したいと思っています。このような話は重たい、と感じる方もいらっしゃると思うので、メッセージカードや写真を使ったポストカードのようなものを用いて、島の環境やその変化について知っていただきたいと思っています。

自分も漁師さんや農家さんと話す機会が多く、食は環境に直結していると思うのでDiningが島の環境と島外から来たゲストを繋げる場所になればいいなと思っています。

ーー最後に、藤井くんにとっての「豊かさ」とはどんなことでしょうか。

自分の好きに囲まれていることだと思います。ここの土地が好きだからこそ自分たちがこの島に及ぼす環境にも興味があるし、この島の魅力を伝えられる食材やメニューにも興味があります。自分の「好き」や知識欲を追いかけられる環境は僕にとって豊かだと思います。

ーーありがとうございます。島のメッセージを伝えるDinning新メニュー、楽しみにしています!

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