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生成AI時代の未来予測とITエンジニアが身につけるべき技術力

2024年1月現在、IT の世界では生成 AI が単なるバズワードとしてではなく、具体的に仕事のあり方を変え始めています。

IT エンジニアにとって特に身近になろうとしているのが、プログラムのソースコードの自動生成技術です。GitHub Copilot や Google Cloud が提供する Codey が、IT エンジニアの仕事のあり方を変えようとしています。IT エンジニアの仕事のあり方が変わると、システム開発のあり方が変わり、システムが変わり、いずれ社会が変わります。

この投稿では、これらの変化の端緒である「IT エンジニアの仕事のあり方」に注目します。そう遠くない未来に生成 AI が業務レベルのソースコードや IaC 定義ファイルを一瞬で書きあげてしまう世界が到来したとき、IT エンジニアの技術力とはどのようなものであるべきでしょうか。

おそらくほとんど外れてしまう覚悟で、3年後である2026年までの技術動向と、それに伴って必要とされる IT エンジニアの技術力のあり方について未来予測してみました。また投稿の末尾には、その未来予測をもとに、2024年の現代を生きる IT エンジニアがどのような技術力を身につけていくべきかという意見を記載します。

2024年

生成 AI 技術は、現在の延長で発達します。新たな基盤モデル(Foundation Model)が登場し、精度が向上します。既に各社がプロダクトとして生成 AI の API やそれを利用するためのマネージドなプラットフォームを商業展開していますが、Retrieval-Augmented Generation(RAG)によるグラウンディングとそれに用いるデータの準備のためのパイプライン、データの保護、外部アプリケーションとの統合、日本語対応など、商業利用レベルの精度を実現するための機能が拡張されていきます。

「どのようなコードを書かなければいけないか」を理解していないと、生成 AI はシステム開発に役立てることができません。2024年はまだ、IT 未経験のビジネスユーザがシステム開発を自在にできるような時代ではありません。

ただし IT エンジニアにとっては、以下のような変化があるかもしれません。

コード生成 AI プロダクトが安価で高性能になり、コーディング作業にかかる工数が短縮されます。これまで労働集約的に「人月」で表されていた作業が、一部の開発プロジェクトでは数分の一にまで圧縮されます。SIer や CIer では、コーダー不要論が真剣に検討されます。内部設計書に基づいてプログラムのソースコードを記述するだけのエンジニアは不要となり、生成 AI が生成するコードの良し悪しを判断してインテグレーションする能力のあるエンジニアだけがいれば十分だ、との議論です。

圧縮される作業はプログラム開発におけるコーディングだけではありません。Amazon Web Services (AWS) や Google Cloud におけるインフラ構築も同様です。クラウドインフラでは AWS CloudFormation や AWS CDK、Terraform などによりインフラをコードで表現できるため、クラウドインフラエンジニアの仕事も置き換わっていきます。クラウドインフラエンジニアには、生成 AI が生成した IaC コードをレビューし、良し悪しを判断する能力が求められるようになります。すなわち、IaC の実装経験は必須になります。

2025年

生成 AI がソースコードや IaC の定義ファイルを上手に書けるようになっても、人間にはまだ残っている仕事があります。ジャッジ、すなわち良し悪しを判断することです。

生成 AI は過去の大量の学習データから確率論的にアウトプットを生成します。単純に言うと「過去の実績が多いものが生成される」のです。現在の私たちが利用できる生成 AI の基盤モデルは、リアルタイムに現在の情報を取り込んで再学習するものではありません。これに対処しハルシネーションを防ぐための RAG によるグラウンディングの試みは、コード生成の背景では効果に限界があります。

さらに、生成 AI には「再帰の呪い」という現象があると報告されています。生成 AI が生成した誤った情報がインターネット上に積み重なり、これを用いて基盤モデルの再学習/生成 AI によるグラウンディングが行われると、アウトプットはどんどん劣化していきます。

参考 : 生成AIのデータがインターネットを汚染、基盤モデルを崩壊させる「再帰の呪い」(2023.07.26 日経クロステック)

生成AIのデータがインターネットを汚染、基盤モデルを崩壊させる「再帰の呪い」
生成AIがつくったデータがインターネットに日々放出されている。このため今より後の世代のモデルは、前の世代のモデルがつくったデータも使って学習することになる。これを繰り返すとどうなってしまうのだろうか――。ある研究論文によれば「モデルの崩壊」につながるという。一体、どういうことだろうか。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00676/072300140/

このことから、現在の生成 AI の延長では、最終的に人間が最終ジャッジをする余地が残ることが課題として広く認識されるはずです。その一方で、この頃には2024年の「コーダー不要論」「インフラ構築者不要論」が強まり、先進的なサービス提供事業者や CIer に留まらず、大手ユーザ企業や伝統的な SIer でもこれらの風潮が高まるか、実現しています。

しかし、この時代では引き続き「システムが業務要件を満たしているか」「システムアーキテクチャはパフォーマンス的に・コスト的に最適か」「システム全体としてセキュアか」などの最終的なジャッジは人間の判断に頼っています(生成 AI はそのジャッジを補助します)。IT エンジニアに求められる技術力は、そういった最終判断をする力と、それに必要な知識や経験です。コーディングやインフラ構築は生成 AI に取って代わられる、あるいは既に代わった、といった認識が IT 業界で一般的になり、多くのエンジニアが焦燥感を感じることになります。IT 業界内では、これが社会問題になるでしょう。

2026年以降

前項に書いた生成 AI の課題を解決する新技術の研究が進みます。この新技術と生成 AI の組み合わせにより、AI は「システムアーキテクチャ」「機能・パフォーマンス・コスト・セキュリティのトレードオフ」「業務要件の聞き取り」など、より抽象的な概念を扱えるようになってきます。この技術が発達すれば、それは IT 業界のみならず、一次産業を含めた全ての産業の自動化に繋がり、人間が働かなくてもよい世界に一歩近づきます。その世界では「電力」がすなわち国力と言えるような時代かもしれません(ここまでくると SF の世界ですが...)。

とはいえ、この時代ではまだこの技術は研究段階であるため、IT エンジニアには引き続き泥臭い仕事が残っています。しかしながら、AI が取り扱える範囲がより抽象的、高レベル(業務寄り)になってきているため、IT エンジニアには以下のスキルが求められるようになっています。

  • 業務要件をまとめ、AI へのインプットとする
  • AI と協力して機能要件・非機能要件をまとめ、AI へのインプットとする
  • AI と協力して開発・テスト・リリースの各工程を行う

現代では大手 SIer のプロパー社員の多くが、労働集約的に集められた委託先のエンジニアをマネジメントする業務に終止している状況があることは有名です。しかしこの時代以降は「人間のエンジニアが AI をマネジメントする」に近い姿に移り変わっていきます。労働集約的だったシステム開発は、AI が動作するプラットフォームの「コンピュート能力集約的」な姿になっていくかもしれません。

私たちはどうすればよいか

ここまで書いた未来予測は、外れるかもしれません。当たったとしても、時期がもっと遅かったり、逆に早かったりするかもしれません。

確実に言えるのは、IT エンジニアに求められる技術は確実に変化していきます。10年前のエンジニアに求められていた技術領域と、現代の能力は一緒でしょうか?プログラミング言語やフレームワーク、インフラ技術などの末端技術は目に見えて変わっています。一方で、システム開発の基礎において、コンピュータ工学的な考え方が必要である点や、インフラやアプリケーションに関する基礎知識が必要である点はまったく変化していません。そのため、2024年の現代を生きる IT エンジニアは、以下の両面を意識すべきです。

  • 技術的な基礎知識を固める
  • その一方で、トレンドとなっている先端技術を追い続ける

後者の「追うべき先端技術」を具体的にいうと、2024年1月現在では、以下のようなものであると考えています。

  • 生成 AI の基礎知識
    • 生成 AI の特性
    • 生成 AI アプリケーションのアーキテクチャ(RAG 等)
    • 生成 AI アプリケーションの実装(サーバーレス等)
  • データ関連の基礎知識
    • データモデリングとデータエンジニアリング
    • クラウドベンダが提供する分析用データベースとデータエンジニアリング関連サービス
  • クラウドインフラ特有の基礎知識
    • セキュリティとガバナンス
    • IaC(運用を考慮した設計)
    • クラウドにおける監視、運用

アプリケーションエンジニアであるか、インフラエンジニアであるかに関わらず、先端技術をある程度追うことは、エンジニアの市場価値を上げることにつながります。IT 企業にとって、世の中のトレンドを(バズワードに踊らされないよう、またミーハーになりすぎないように投資の方向性は気をつけながら)追っていくことは重要であることから、生成 AI ブームのようなトレンドの変化はエンジニア個人にとってはチャンスです。業界や会社からの需要に合わせて、自分の方向性を微調整していくことで、自らの市場価値を上げるチャンスになりえます。また G-gen のような SIer(CIer)にとっては、市場価値の高いエンジニアがどれだけ在籍しているかが会社の価値に直結します。G-gen は、このようなエンジニアの技術的な向上心をバックアップしていきます。

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