家電業界の勢力図を変えたダイソン

ダイソンは圧倒的な製品開発力で成功したメーカーだと言われています。

自分たちをエンジニアリングカンパニーと自称し、その徹底したプロダクト志向で唯一無二の製品を市場に投下することで、他にはない独自のポジショニングを築いて売上を伸ばしてきました。

その影響力は全世界におよび、日本においても凄まじいインパクトを与え、ダイソンの登場で家電業界の勢力図は大きく変わったと言われています。

かつて日本の家電メーカーは世界に誇る技術力で次々と魅力的な製品を生み出し、その地位を不動のものにしていました。しかし1980年代に入ると、日本の家電市場は成熟期を迎え、革新的な製品がなかなか生まれない状態が続きます。

それは掃除機の分野も同じ。市場は成熟し、どのメーカーも同じような機能が並び、価格で選ばれるコモディティ化が生じていました。　

このように停滞していた日本の家電市場に一石を投じたのが、イギリスのダイソン社でした。

吸引力に革命を起こして成功

彼らが目を付けたのは吸引力。従来の紙パック式掃除機はどんなに優れた性能を保持していても、フィルターにゴミが詰まってだんだんと吸引力が落ちていきます。逆に言えば、フィルターさえ詰まらなければ、吸引力はずっと変わらないということです。

この発想からダイソンが考案したのが、吸い込んだゴミと空気を円錐型のコーン内で高速回転させ、遠心力でゴミを分離してダストカップに落とす「サイクロン・テクノロジー」です。

研究すること5年、5000台以上ものプロトタイプを経てようやく完成した製品は、掃除機の市場に「サイクロン式掃除機」という新ジャンルと「吸引力」という新しいポジションを生み出したのです。

技術力を的確に表現するクリエイティブで大ヒット

ダイソンの社員たちは、自分たちがマーケティングの力ではなく、製品開発力で成功したブランドであることに誇りを持っています。安易にマーケティングには頼らないことを信条とし、社内ではマーケティングという言葉を使わない文化があるほどなのだとか。

一方、製品自体が持つ魅力を最大限に引き出すクリエイティブ力も、ダイソンを成功に導いた大きな要因だと考えられています。

たとえば、サイクロン式掃除機に冠されたキャッチコピー。

「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」

他社製品との圧倒的な差別化を表す力強いメッセージは、消費者に大きなインパクトを残しました。掃除機というジャンルを吸引力の技術革新でアップデートしたことが明確に伝わる、非常に優れたコピーだと思います。

また、機能性をどこまでも追求し続けた結果、これまでの掃除機とは全く異なる奇抜なデザインに到達したことも功を奏しました。どこか未来的で、余計な要素が削ぎ落とされたミニマルなフォルム。まさにダイソンのブランドイメージを醸成するのにふさわしいデザインだったと言えるでしょう。

革新的な技術力と、それにふさわしいクリエイティブ。2つが見事に融合されたことにより、ダイソンの掃除機は他社製品に比べて高価な価格設定だったにもかかわらず飛ぶように売れ、世界的に有名な家電メーカーの仲間入りを果たしたのです。