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運送業界になぜDXが必要か?~マクロ統計から運送業界の未来を考える~

物流のデジタル化は何年、何十年も前から議論されており、特に運送業界におけるデジタル化は、業界の一等一番地の課題であると認識しています。今回は、そもそも何故物流DXが必要なのかについて、各種マクロデータから考えてみたいと思います。

物流業界の動向

何故運送業界に「DX」が必要なのでしょうか。物流クライシスが叫ばれる現在の状況では、荷主から運送会社に徐々に力関係がシフトしつつあることは間違いありません 。実際、2030年にはトンキロベースで35%もの物流GAPが発生するとの見方もあります。

図1)物流需給の推移

需要側の動向に目を向けるとEC化比率はこれからも大きく伸びていくことが予測されます。日本のEC化比率は8%程度であり、欧米の10%と比較しても低水準であり、コロナ禍による巣籠り需要を併せて考えますと一層高い水準に推移していくことが想定されます。

一方で供給側に目を向けますと、労働力人口の減少という日本社会全体の趨勢があり、ドライバーの成り手自体が減少していく可能性が高いと推測されます。さらに2024年問題、時間外労働の上限規制まで残された時間は後3年しかありません。これに対応するためにはドライバー1人当たりの労働時間も大きく削減していく必要があります。

マクロ経済学の一般原則に則れば、このように需要に対して供給が不足している・不足が予測される状況では、価格曲線の上昇により需要を抑えるメカニズムが働くことが一般的とされています。つまり、「黙っていても勝手に運賃が上がる」ことが期待される状況にあります。


図2) トラック運送事業の営業収入の推移(単位:億円)

上記の表はトラック運送事業の営業収入の経年推移を示したものです。何年もの間「物流クライシス」が叫ばれているのにも拘わらず、業界全体の収支は乱高下しています。2012年~2016年CAGR(年平均成長率)は0.15%と極めて低い水準で推移しているのが実態なのです。

物流業界を待ち受ける3つの悲観シナリオ

上述の通り、外部の環境に依存していても運送業界に未来はありません。ここからは運送業界の中に目を向けて現在地を確認していきたいと思います。

国土交通省によると、運送業界の労働時間は全職業平均と比較して2倍長く、年間賃金は全職業平均より2割低いのが現状です。人出不足も深刻であり、働き手の内訳としても若年層が少なく高齢者が多い状況にあり、人出不足は極めて厳しい現状になっています。

図3)物流業界の各種統計

このまま人出不足や低賃金の状況を改善できない場合、深刻な人出不足に陥ることは間違いありません。本当の問題は、供給力不足が市場メカニズムを通じた適正な運賃向上につながらず、運送業界の価値そのものを毀損する結果に結び付いてしまうことです。このことを悲観的に考えると。次の3つのシナリオが予測されると考えています。

シナリオ1:物流費の高騰あるいはサービスレベルの大幅な悪化

運送会社側で需要に応えるドライバーを確保できず、物を運べない、あるいはリードタイムや輸送条件等のサービスレベルを著しくに悪化させてしまう。可能性があります。実際に一部の業界ではリードタイムの大幅な変更が発生しています。リードタイムの変更自体を取れば、これまでの無茶な納品時間の設定が適正化された結果と捉えることもできますが、受益者の観点からみればネガティブなケースも存在します。あくまで適正なレベルのサービスを適正な価格で提供できる状況が望ましい点に変わりはありません。

シナリオ2:営自転換あるいは輸送モードの混流

運送価格の高騰は商品価格へと転換されることになります。しかし値上げを嫌う荷主は運送費の上昇を避けるため、あらゆる方策を検討するはずです。運賃が許容上限以上に上昇するのであれば、物流を自社のサプライチェーンの中に改めて引き戻し、自社あるいは業界単位での共同事業として、物流を運営する可能性があります。実際、加工食品では大手荷主が連携して新しく物流会社を設立し、システム連携まで含めた非常に付加価値の高い物流オペレーションを実現しています。このような取り組みが“物流”業界全体でみれば素晴らしい取り組みであることは間違いありません。しかし、これは運送業界のマーケット(トラック運送業の営業収入)という視点で眺めるならば、マーケット自体の縮小と捉える事もできます。運送会社がその専門的なスキルとアセットを活用し、付加価値の高い物流サービスの提供主体になることこそが、最も望ましい形と考えています。

シナリオ3:メガプラットフォーマーによる物流サービスの提供

Society5.0に象徴されるように、現代はフィジカルとデジタルが融合する時代です。GAFAを始めとする莫大な資本力を有するITプラットフォーマーが、フィジカルな物流サービスを提供して来る可能性があります。実際にAmazonは国内でも猛烈に物流センターへの投資を開始しており、軽貨物車両の内製化にも大変なスピードで着手しています。軽貨物のネットワーク化が完了した後、センター間配送を含む一般貨物の物流に進出してくるのは時間の問題と考えるべきです。その後の打ち手としては付加価値の高い領域を内製化し、付加価値の低い(=収益性の低い)領域が外だしされ、運送業界全体がGAFAの下請けのような状況になってしまう可能性すらあり得ると考えています。


これまでの内容から明らかなように、需給GAPの開きは必ずしも運賃の上昇に結び付くのではなく、逆に運送業界の価値低下を招来してしまう可能性すらあります。
しかしピンチはチャンス、逆境の中にこそ成長の機会はあるはずです。
DX、デジタル“トランスフォーメーション”とは、「デジタルを駆使して経営を“変革する”」思想です。
物流が企業の競争優位の源泉になり得る時代だからこそ、変革に成功した企業には大きなチャンスが待っているはずです。

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