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「DXチームに、ミーハーが必要な理由」データサイエンティストが語る、DX推進のための経営資源

企業活動で蓄積したさまざまなデータは、経営資源と結びつくことで、DX(デジタルトランスフォーメーション)に貢献します。

今回は、データサイエンスの知見に基づいたコンサルティングに強みを持つ、当社データサイエンティスト/シニアコンサルタントの山川にインタビュー。

DXを推進するための、「ヒト・モノ・カネ活用のコツ」について、話を聞きました。


Profile

データサイエンティスト/シニアコンサルタント 山川信之
1976年1月14日生まれ、東京都出身。東京大学計数工学科を経て、2001年 東京大学大学院計数工学科卒業。日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)など、事業会社での技術営業職を経験した後、2006年に山田ビジネスコンサルティング(現山田コンサルティンググループ)へ入社。製造・建設・アパレル・宿泊業・金融業など多業種にわたるコンサルティングを手がける。2016年以降、ITインフラ企業、独立系コンサルティング企業でデータサイエンスチームの立ち上げを経験。
2020年、アルサーガパートナーズに参画。製薬業界、不動産業、大型商業誌施設などのクライアント向けに、データサイエンスの知見に基づいたビジネスコンサルティングを担当。J-SOX法対応、ITガバナンス構築、及びスプレッドシート統制・開発が得意分野。趣味はボードゲーム。

――ある調査*1では、「DXが進む企業には、失敗を恐れない文化がある」という結果が出ています*1。これを踏まえ、本題に入る前に、DXに適した企業のスタンスについて、山川さんの経験からも教えてください。

まさに調査の通りです。DXは企業が培ったビジネス形態を別の形態に変容させる、改革、革命が目的の活動です。「失敗して当たり前」という前提に立ったうえで、「では、少しでも成功をするためにはどうすれば良いか?」と考えることが必要です。

たとえば、データ分析の分野で少しでも成功率を上げるためには、小さなデータ分析に取り組み、うまくいきそうな方法を模索する、いわゆるPoC(概念実証)からはじめる方法があります。

*1  DXが進む企業には、失敗を恐れない文化がある:IT革命 2.0~DX動向調査からのインサイトを探る – ITmedia エンタープライズ

――これまでの経験で、小さくデータ分析をはじめた一例を教えてください。

以前、医療系機器洗浄メーカーのPoCをお手伝いしたことがあります。「センサーから取得したデータを、通信機器からクライアント端末に送信し、蓄積していた。そのデータを用いてエラーを検知しよう」という取り組みで、IoTと呼べるほどのデータ量ではありませんでした。

結果、

  • 16通りあるエラーのうち、1つのエラーの予測はできるものの、それ以外の15通りは予測できない。なぜならそれに対応するデータを、センサーから取ってないから
  • データ取得の頻度が低いため、予測精度があまり高くできない

ということが分かりました。

この結果だけ見れば「失敗」かもしれません。しかし、少なくとも、通信デバイスから送る仕組みには無理があることや、エラーを検知するためにはセンサーを増やさないといけない、ということもわかりました。実用化には至らなかったものの、お客様にはご満足いただけました。

このようにDXでは、PoCを繰り返していき、うまくいった小さなPoCから大きく発達させて本格的にビジネス改革に取り組むためのフェーズに移行します。小さいものから大きく発達させて結果を描く場合、どこかに論理性では説明できない部分が出てきてしまいます。

DXに取り組む企業では、「きっとうまくいくだろう」「あの人がやってるからやってみよう」という状況を作り出し、チャレンジを奨励する環境が必要です。


山川の経験から、DXに取り組む企業には、小さく概念実証をはじめ、その後大きな動きに発達させるための挑戦を推奨する文化が必要であることがわかった。

ここからは、具体的にDXに必要な経営資源活用について、データ活用の文脈で聞いていく。

DXを推進する経営資源・1 チームアップ

――IPAのレポートでは、DXやデータ活用を成功させるために必要な人材として、「プロデューサー」「ビジネスデザイナー」「アーキテクト」など、6つのタイプが定義づけられています。しかし実際のビジネス環境では、各分野の優秀な人材を社内で集めるのは簡単ではないと思われます。現実的なチームアップについて教えてください。

これまで、チームアップがうまくいくお客様も、残念ながらうまくいかないお客様も、両方を見てきました。

この経験から、「ミーハー」「キーマン」「ITにやたら詳しい奴」の3タイプがいるチームはうまくいく可能性が高いです。

――「ミーハー」が必要というのは、新しい視点かと思います。

「ミーハー」タイプとは、DXにまつわる最新の事情を興味本位でも色々知っている人材です。

事業会社では、DXを経験した方はまだ多くありません。ほとんどがゼロベースからのスタートになります。そのため、多くのお客様は、プロジェクトスタート時に、コンサルタントに「事例」や「DX」についての幅広い知識をお求めになります。

もちろんコンサルタント側からも、最大限の知識を提供します。しかしコンサルティングの本分は、お客様の成功に向けて、どういう結果を求めるべきかを一緒に考える仕事です。

そこで社内にそうした知識を持っている人材がいると、コンサルタントに言われたことを鵜呑みせず、提案に対して、逆に提案したり、打ち返しをすることができます。

「2025年の崖」の文書やDXに関するガイドライン、知識があるだけで、「何からはじめたらいいかわからない」という時間を短縮できるのです。

そして、知識の幅を自然と広げられる人材は、目的に対して調べるのではなく、息を吸って吐くように情報収集をしているものです。そういった人材がチームに一人いると、外部とのプロジェクトを立ち上げる際にも、頼もしい存在です。

ただ、事業会社で日々専門業務に携わられている方は、なかなかそういった時間が取れないと思われます。その時は、「ミーハー」役をコンサルタントに割り振るのも一つの方法です。


――「キーマン」「ITにやたら詳しい奴」タイプについても、解説をお願いします。

「キーマン」とは、社歴が長く、色々なところに顔が利くやや年配の人材です。DXを推進する上では、各部門のプロフェッショナルと話す必要があります。そこで、さまざまな部門とコミュニケーションがとれる人材は、更に求められていくでしょう。「あの人が言うんだったらそれでやってみよう」と思わせるような肩書、実績を持っていると良いですね。

実働部隊として活躍するのは、ITの知識とビジネスのセンスを両方備えた「ITにやたら詳しい奴」タイプです。

たとえば、ビジネス部門からデータを貰ったとしても、残念ながらまるで使えないものだった、ということがあります。そうした際に、「なぜ、このデータが使えないのか?」「どうすれば使えるようになるのか?」を、ITの知識に基づいてビジネス部門に説明できる人材は、DXチームとして心強い存在です。

DXを推進する経営資源・2 ”カネ”の使い方とルール

――21年度は、地方自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)予算が大幅に拡充されたことが話題となりました。事業会社で、DX予算を組む時のコツを教えてください。

入口で予算を取らないことがポイントです。たとえば、あらかじめ2,000万の予算を確保してしまった場合、2,000万円が枯渇した瞬間に何もできなくなってしまいます。

そうではなく、コストをかけなくてもできることからはじめ、ガツンとお金を投じるべきときにはその都度稟議をあげて獲得するというスタンスであればうまくいきやすいかと思います。

関連して、DXを阻害する内部統制ルールがあれば、それを少しずつでも変化させる取り組みが必要です。

以前、「内部統制ルール上、一度取得した見積から1円でも超えることは絶対許されないので、FIXした見積書を出してください」とご依頼を頂いたことがあります。

しかし、DXプロジェクトの予算は、引き合いの段階では、予測がしづらいものです。

本来2,000万で実現できるかもしれないものを1億円で見積提出せざるを得ず、「1億なんてとても無理」で話が終わってしまうのは、もったいないですよね。

しかも、「一度確定した見積もりから1円も超えることは許されない」というルールは、少なくともSOX法、J-SOX法で要請される必須要件ではありません。SOX法、J-SOX法の必須要件を超えて積み上げたルールも、DXを阻害している要因のひとつです。

ただ、大企業では、ルールをすぐに変えることはむずかしいものです。そこで、小さな部門が社内ベンチャーを立ち上げ、大企業の資本を使いながら、ルールはあまり適用されない環境をつくるのも、ドラスティックではありますが、有効な手段です。


DXを推進する経営資源・3 コミュニケーションツール

――経営資源として、「ヒト」「カネ」を聞いたところで、最後に「モノ」について教えてください。

「外部のパートナーとコミュニケーションをするための環境」が、「モノ」になります。

これまでデータ分析をしてきた経験では、お客様からデータをもらうことが一番ハードルが高く感じる機会が多くありました。
その理由は、守秘義務、個人情報保護などの規則面はもとより、社内部門にデータを抽出してもらう依頼に時間かかってしまうことでした。

データ授受のタイミングで、今でいうslackやDropboxなど、リアルタイムにコミュニケーションをしながらデータの授受ができる環境があると、ストレスも低いですし、外部との連携もうまくいきやすいです。当時、コミュニケーションの苦労をせずにやり取りができる仕組みがあればその抵抗感が低く抑えられたかもしれないな、と。

これは、データ分析だけではなく、デジタル業務全般にも言えます。

特に大きな会社では、情報セキュリティルールなどの制約で、使用できないデジタルコミュニケーションツールがあります。DXを推進することと、情報セキュリティルールが相反すること、矛盾してしまうこともありますし、ルールを変えようとすることで、時間がかかってしまうことも多いです。

しかし、今後もデジタル化の流れは続いていきます。今、会社の中でDXに取り組む方たちには未来のために少しずつ、コミュニケーションツールの幅を広げ、シームレスなコミュニケーションを実現する環境を整えていただきたいです。それが、DXを未来につなげる活動になるかと思います。

非常時のリーダーに頼られる存在として

――最後に、これからDXに取り組むお客様へメッセージをお願いいたします。

一般的に、リーダーには、平時のリーダーと非常時のリーダーがいると言われています。DXは企業にとって「改革・革命」です。求められるのは、非常時のリーダーの資質。

非常時のリーダーには、「批判を恐れずに、あえて悪役を買って出る」という動きも時には必要です。とはいえ、企業の中にずっといる人は、社内の各部門と、決定的に喧嘩することは難しいでしょう。

そこで失敗した時の責任を引き受ける調整役、といった役割で外部のコンサルタントを入れるというのはよくある考え方です。これまで、「嫌われ者役になってください」と言われたことも、「データのプロフェッショナルとして、耳に痛いことを進言する役」を求められることもありました。

当社では、DXを推進するパートナーとして、さまざまな「役」をお引き受けいたします。また、IT開発部隊が社内にいるため、システム開発までを一貫して網羅することも可能です。

私たちがお力になれることがあれば、ぜひお問い合わせを頂ければ幸いです。


(写真=App Div 吉田/文=広報室 松村)

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