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領域トレンドリサーチ 育児領域:施設向けサービス

育児領域の第5回テーマは、「施設向けサービス」です。

今回は、保育施設向けに提供されている様々なサービスのうち、特に、保育士の業務や施設運営を効率化するものに焦点を当て、その動向をご紹介します。

国内の保育士不足の現状

近年、国内の保育士が不足しているというニュースを見かける方も多いのではないでしょうか。保育士不足は、待機児童問題や産後女性の社会進出・社会復帰の問題など、様々な社会問題に関わる根本的な課題として、解決が急がれています。

厚生労働省の調査によると、国内の保育士の有効求人倍率は年々上昇しているだけでなく、全職種と比較しても高い水準となっています。保育業界は慢性的な人手不足に陥っており、その状況も年々悪化していることが伺えます。

こうした状況の背景には、多くの保育士が待遇面や労働環境面に不満を抱いていることがあります。少し古いデータですが、2014年に東京都福祉保健局が実施した「東京都保育士実態調査報告書」によると、保育士が職場に望む改善事項として、「給与・賞与などの改善」「職員数の増加」「事務・雑務の軽減」などが挙げられました。この結果からは、業務の大変さと報酬が見合っていないことや、業務が膨大で手が回っていない現場の状況が見えてきます。また、こうした不満が、保育士の高い離職率や、保育士資格を持っているにもかかわらず、保育に関係した仕事はしていない潜在保育士の多さに直結しています。

保育士の労働環境

保育士の1日あたり業務時間/発生率に関する調査によると、子どもと直接触れ合う業務に加えて、「会議・記録・報告」といった事務作業の割合も大きくなっています。
保育士にとって、子どもたちとのコミュニケーションこそが付加価値であり、必要不可欠な仕事だとするならば、業務時間・発生率ともに上位を占める事務作業は効率化したい業務と言えるでしょう。

具体的な保育士の事務作業として、保護者への対応、保育計画や保育状況の記録、園児や職員の管理業務、行政への提出書類の作成など様々なものが存在します。特に、年度の変わり目や運動会・おゆうぎ会などのイベントがある時期は準備のための追加業務が必要になるため、残業が発生したり、子どもと向き合う時間が少なくなる保育士も多いようです。

施設向けサービスの分類

今回は、国内で提供されている保育施設向けサービスを対象として、代表的なものを以下のように整理しました。

これまで述べてきたような、保育士が抱える業務上の課題を解決するサービス群を「業務支援」としてカテゴライズしています。さらに、「業務支援」カテゴリの中に「SaaS」「ロボット/IoT」「ベビーセンサー」を分類していますが、現在国内では単一企業が複数領域に跨ってサービスを開発・提供しているケースが多い状況です。今回は「業務支援」カテゴリでサービスを提供している企業について事例を紹介します。

注目サービス・動向

施設向け領域の注目サービスをご紹介します。

1. 施設運営支援SaaS「CoDMON(コドモン)」

コドモン社が開発・運営する、保育施設向けの業務支援SaaSで、登降園管理・保護者への連絡・各種帳票作成・請求業務管理・子どもの健康管理・給食管理・シフト管理・バス運行管理などの機能を備えています。

東京商工リサーチが2020年1月に実施した「保育ICTにおけるSaaS型包括業務支援システムの導入数に関する調査」では、導入施設数、自治体導入施設数、契約自治体数それぞれで1位を獲得するなど、国内の保育施設向けSaaSの最有力サービスとなっています。ユーザーから評価を集めているポイントとしては、ITリテラシーがそこまで高くない保育士の方にも使いやすいようなシンプルなUI/UXであること、保育士の施設運営に関する業務を網羅的にカバーしていることがあるようです。

直近では、「コドモンコネクト」というオープンAPIを通じて、外部サービスとCoDMONの連携を推進する動きが目立っています。連携が完了したサービスはCoDMONのホーム画面から利用できるようになるため、保育士は様々なサービスへのアクセスが容易になり、サービス開発企業は豊富な導入実績を誇るCoDMONの顧客施設へリーチできるようになります。この後ご紹介する午睡検知IoTソリューションhugsafetyと2019年4月に連携したことを皮切りに、これまでおよそ10のサービスと連携を実現しています。

2. 保護者コミュニケーション & 子ども見守りIoT「hugmo」

オンライン連絡帳をコアとした保護者とのコミュニケーションサポートソリューション「hugnote(ハグノート)」、子どものお世話をサポートするIoTセンサーソリューション「hugsafety(ハグセーフティ)」が主力プロダクトです。

hugnoteは、保護者への連絡や写真共有が可能な連絡帳機能を強みとしています。さらに、Webページによると、帳票作成機能・保育料金の自動計算機能などが現在開発中となっており、今後はCoDMONのように施設運営を効率化するための機能開発にも注力していくことが予測されます。

hugsafetyは、マット型IoTセンサーによる子どものお昼寝モニタリングと、スマート体温計による非接触検温という2つのソリューションがサブスク型で利用できるサービスです。両サービスともにダッシュボードアプリと連動しており、子どもの体動状態や睡眠記録・検温記録を可視化します。さらに、hugnoteの連絡帳機能と連携することで、保護者への子どもの情報共有もスムーズに行えるようになっています。

特に、乳幼児の午睡については、SIDS(乳幼児突然死症候群)や窒息といった重大な事故につながる可能性があるため、お昼寝の時間などに見守りを担当する保育士には心理的な負担が大きくかかっています。hugsafetyのような午睡の見守りをサポートするサービスは保育士の負担軽減において重要な役割を果たすといえます。

hugmo社はソフトバンクの社内新規事業創出プログラム「SBイノベンチャー」から誕生しました。

3. 最新技術を活用した保育施設支援サービス「ユニファ」

AIやIoTなどの最新技術を活用した保育施設支援ソリューション「ルクミー」シリーズを提供しています。

子どもの衣服に取り付けることで、うつ伏せ寝や体動を検知できるセンサー型IoTソリューション「ルクミー午睡チェック」、先生が撮影した写真がAIにより自動選定され保護者に届けられるオンライン写真販売サービス「ルクミーフォト」、保護者とのコミュニケーション、投降園管理、帳票作成をサポートする保育施設向けのICTサービス「キッズリー」などを中心に、6つのプロダクトを展開中です。

2019年9月には、エムスリー・凸版印刷といった事業会社や複数の金融会社から35億円という巨額の調達を実施しています。今後は、出資元各社とも協力しながら保育施設へのルクミーシリーズ導入を加速し、同社が定義するテクノロジー活用次世代型保育園「スマート保育園®(ユニファ社登録商標)」を全国に拡大させていくと発表しています。

これまでご紹介したサービスの機能比較一覧を下記のように整理しました。

まとめ・考察

近年、注目を集めているB2B SaaSですが、保育施設領域でも導入が進みつつあります。また、数あるSaaS型サービスの中でも、CoDMONはいち早くオープンプラットフォーム化に着手するなど、特徴的な動きを見せています。

今後、AIやIoT、ロボティクスといった最新技術を活用した育児領域のソリューションがますます増加していくと予想されますが、特に保育施設向けのサービスに関しては、CoDOMONなどの施設運営支援システムを中心に連携が加速し、エコシステム化が進んでいくのではないでしょうか。

世界的なテクノロジー企業がヘルスケア領域での動きを活発化させています。特に、ウェアラブルデバイスを通じたデータ収集、収集したデータを活用したサービス展開が今後の争点となり得るでしょう。Appleはアップルウォッチを通じて既に様々なヘルスケアサービスを提供しており、GoogleもFitbit社を買収しAppleに追従しています。一方、データ集取の観点では、「乳幼児のバイタルデータ」は未だ特定の企業による独占的なアプローチが及んでいない領域といえます。

今後、乳幼児のバイタルデータ収集においては、今回ご紹介した午睡見守りソリューションをはじめとした施設向けサービス領域が主戦場となるのではないでしょうか。また、ユニファ社がエムスリーから出資を受けているように、子どものバイタルデータ獲得を目的にしたヘルスケアサービス提供企業の参入や、施設向けサービスとの連携も進んでいく可能性があります。

いかがでしたでしょうか。これまで5回にわたり育児領域のサービストレンドを紹介しました。


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