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【領域トレンドリサーチ】食領域:食のD2Cブランド

食領域の第5 回テーマは「食のD2Cブランド」です。

そもそも、D2Cとは、「Direct to Consumer」の略であり、メーカーやブランドが自社で企画・製造した商品を、従来の小売業者などを介さずに、自社ECサイトなどの独自販売チャネルを通じて、直接(Direct)消費者(Consumer)に販売するビジネスモデルを指します。従来のSPAモデルとの違いとしては、販売や販促の主軸がネットであること、またブランドの世界観を重視しているという点です。

アパレルや日用品などの領域では多くのD2Cブランドが生まれ、注目を集めていますが、食の領域でも同様に様々なD2Cブランドが生まれています。

D2Cブランドが注目される背景

D2Cブランドが注目される背景のひとつとして、顧客の購買動機の変化が挙げられます。

人々の消費における価値観は、これまで商品の所有に喜びを感じるモノ消費が中心でしたが、最近では商品を通じた体験に重きを置いたコト消費へと変化しつつあります。

様々な企業が新商品を発売する中で、商品の一般的な機能や価格だけで顧客の高いブランドロイヤリティ構築は難しくなっており、ブランドストーリーや世界観、パーソナライズされた商品提供、利用後のフィードバックなど、商品に関わる体験全てを通じてロイヤリティを高める必要が高まってきました。

また、SNSを通じた顧客接点の増加により、ブランドは自社哲学や商品情報などを簡単に顧客へ発信できるようになったことも、D2Cの拡大背景のひとつです。

D2Cブランドでは、SNSを通じて顧客と双方向にコミュニケーションを取ることでロイヤリティを高め、ECサイトなどの自社チャネルでの購買につなげる流れが多くみられます。

加えて、D2Cブランド向けに製造を請け負うOEMが増加したことで、ブランド立ち上げの難易度が下がり、多くのプレイヤーがD2Cブランドに参入しやすくなりました。

食領域においても、ODM企業による健康食品OEMに特化した新会社設立や、小ロットかつ安価に発注可能な製造業者の増加が見られます。

大手食品企業によるコト消費への動き

スタートアップだけでなく、大企業でもコト消費へ参入する傾向が見られます。 ネスレによるブルーボトルコーヒーの買収のように、外部企業を取り込む動きや、キリンのHome Tapのように、自社サービスを開始する動きなど、取り組みは企業によって様々ですが、食品業界全体を取り巻く大きなトレンドと言えるでしょう。

D2Cブランドのバリューチェーン

このように注目が集まっているD2Cブランドですが、従来の販売モデルとどのように違うのでしょうか?

従来の販売モデルでは、ブランド・メーカーが商流の川上にいて、販売チャネルや広告・マーケティングは他社へ委託しながら、消費者へ商品を届けるという形態です。

消費者接点となるマーケティング活動、ECサイトの運営、店舗運営(接客/販売)では、比較的商品の安さや機能性を訴求する傾向にあります。また、消費者に商品が届くまでにいくつもの委託業者が介在するため、商品へのフィードバックや消費者データは間接的に入手する場合が多いです。

一方、D2Cモデルは、企画、製造、販売を一貫して自社で担い、消費者へ直接商品を届けます(一部、製造は委託するケースもあります)。

従来の販売モデル同様、消費者接点として店舗・ECサイトの運営、マーケティング活動、接客販売がありますが、D2Cブランドは全ての業務を自社で管理・運営を行っています。つまり、消費者に対し、機能性や価格面よりも、一貫したブランドビジョンや世界観の訴求を重視しているのです。

また、消費者と直接的な繋がりがあるため、商品に対するフィードバック、消費者データをダイレクトに入手し、活用しやすいのが特徴です。

注目サービス・動向

ここからは、アーキタイプが注目する食のD2Cブランドのサービスや動向について紹介します。

Dirty Lemon Beverages

Dirty Lemon Beveragesは、リラクゼーションドリンク「Dirty Lemon」を販売しています。米国では最もカジュアルなメッセージツールであるSMSを用いて顧客とカジュアルに繋がることで、顧客情報の取得とロイヤルティ形成に役立てているのが特徴です。

EC販売からスタートしたDirty Lemon Beverages は、2018年、レジも店員も存在しない完全自己申告制の無人店舗「ドラッグ・ストア(Drug Store)」をニューヨークにオープンしました。無人店舗でもSMSによる決済方法を利用しており、店舗で商品ピックアップ後、指定の電話番号にショートメールを送ると決済が完了します。

実店舗オープンの際に行なったプロモーションは、データベースに存在する2万5,000人の重要顧客へショートメール招待状の送付のみでした。

あえて店舗名を「ドラッグ・ストア」とすることで、地図検索からの新規流入を期待せず、ショートメールを受け取った既存顧客だけが新店舗の所在を知っているというシークレット感を醸し出し、ロイヤルティを高めたのです。

親会社であるIris NovaはDirty Lemonの他にもヘルシーな飲料ブランドを社内で複数立ち上げ、SMS購入プロセスを他ブランドでも活用しています。

2020年2月、Dirty Lemonは新規顧客へのリーチを目的に世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」と全国的な小売パートナーシップを結び、消費者への直接販売から大量小売へ向かい始めました。

Minimal

Minimalは、カカオ豆の選定からチョコレート製品の製造まで一貫して自社で担う本格的スタイル「ビーントゥーバー」の先駆けとなったブランドです。

Minimalの店舗では、消費者に出来るだけ多くの種類を試食してもらい、1分でも長く店に滞在して世界観を体感してもらうことを目的としているため、店舗運営におけるKPIは、売上や利益ではなく、試食の回数と滞在時間に設定しています。

また、店舗の奥でチョコレートを作る製造スタッフも接客を行うことで、顧客の反応をすぐに商品開発に生かすなど、店舗販売で知り得た顧客の声を製品開発に生かす仕組みが確立されています。

snaq.me

snaq.meは、購入前のおやつ診断の結果に応じ、人工添加物不使用のギルトフリースナック菓子を販売しています。

サブスクリプション形式で2週に1度か、4週に1度、8種類のおやつが届き、お菓子の組み合わせは1,000億通りと言われています。

snaq.meは創業にあたり、一度見た映画やドラマから予測して次のコンテンツがオススメされるNetflixの仕組みを参考に、食嗜好の質問からお菓子をレコメンドする仕組み作りからスタートしました。

おやつ診断では、「食べられない食材はありますか?」「避けたい成分はありますか?」など食嗜好に関する5つの質問が問われます。

また、送ったおやつに対して顧客が大まかに星の数で評価することに加え、甘さや食感など細かい評価項目についてフィードバックを取得しています。

ただし、個人の嗜好に最適化しすぎるとおやつのバラエティが失われるため、送られる8種類のおやつのうち2種類はスナックミーオススメの商品を発送しています。

これにより、購入者にとって「新たな発見機会」となる上、企業・外部製造委託先にとっても商品に関するリアルなフィードバックを得ることが可能となります。 また、2019年9月、snaq.meの食嗜好に応じたレコメンド方法を活用して、原材料を7つ以下に絞った体に優しい植物性プロテインバーの新ブランド「CLR BAR(クリアバー)」を立ち上げました。

まとめ・考察

ネスレやキリンのような食品大手企業もコト消費に注目しており、今後、「モノ売り」の傾向にあった食品企業が、M&Aや自社サービス開発を通じて「コト売り」の事業を始めるような動きは、さらに加速していくのではないでしょうか。

D2Cブランドでは、Dirty Lemonのように、顧客別のコミュニケーションをとることで関係性を深めることが重要です。今後、このような施策を行う企業は増えることが想定されますが、人力で行うには限界があるため、ユーザーが一定数以上を超えた段階で、AI・チャットボットの導入等、一定の効率化も進むと想定されます。しかし、どの程度人間が個別対応をして、どの程度自動化するのかは、D2Cブランドの世界観にも関わってくるので、ブランドごとの着地点を模索する必要がありそうです。

Minimalが行なっているように、D2Cブランドでは店舗は「モノ」を売る販売の場から、顧客に自社の世界観を伝える体験の場や商品開発のために顧客の声を取得する場へと変化しています。このような店舗のあり方は、D2C以外の領域でも広がっていくのではないでしょうか。

また、新型コロナの影響も相まって、この1-2年で店舗に求められるもの、存在意義も大きく変化していくでしょう。

食領域のD2Cブランドは、対象セグメントがニッチになりやすく、、単一ブランドでのスケールがしにくい傾向があります。そのため、一部の事業者では、事業拡大に向けて、既存ブランドの世界観を活用しながら新ブランドを複数展開したり、大手企業とのパートナー契約による販路拡大などを行っています。

また、事業規模が拡大すると、D2Cの特徴でもある顧客一人一人との密なつながりの維持が難しくなっていくでしょう。ブランドや商品特性にもよりますが、D2Cブランドが規模を追い求めた時、効率性と顧客ロイヤルティのバランスは課題になってくるのではないでしょうか。

いかがでしたでしょうか。これまで5回にわたり食領域のテクノロジートレンドを紹介しました。

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