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シリーズ)IT業界の仕組み11

株式会社アイシス 代表取締役の政平です。
シリーズ)IT業界の仕組み10の 続きです。


本日は、「SES、準委任、請負、派遣契約の違い」についてお話します。


◆SES、準委任とは

SESとは、System Engineering Serviceの略です。
システム業界では、準委任の契約で業務遂行することをSESと称しています。
SESという法律用語はなく、俗称になります。

では、準委任とは何か?
準委任契約とは、特定業務の遂行を受託することをいいます。
後述する請負契約とは異なり、成果物に対する義務はありません。

SESは、準委任契約と同義と思っていただいて結構です。
※本記事では、SESや準委任という言葉を適宜使い分けています。契約に関する事項は準委任契約、システム業界の仕組みに関する事項はSESと使用しています。

SESでは、定めた期間と時間数に委託された業務への労働を提供します。提供した時間に応じて委託会社(お客様)からの支払いが発生します。

勘違いしやすいのが、客先常駐。
準委任契約だから、客先常駐であるとは限りません。
「SESは客先常駐」と書いているWEBサイトは勘違いしています。
契約書に認められていれば、自社でも自宅でも作業していい。
但し、客先常駐が多いのが実情ではあります。
※次回更新にて後述します。

準委任という"準”は何の準なのか?
疑問に思う方もいると思います。
顧問弁護士に確認して腑に落ちました。
委任は法律行為を委託すること。
準委任は法律以外を委託すること。
よってシステム業界では、委任ではなく準委任となります。


では、よく耳にするSIerとSESの違いは何か?
SIerは、一次請け(元請け)として仕事を受けてシステム開発を管理する企業のことを言います。
SESは上記の通り、準委任契約でシステム開発に携わる契約形態の俗称。
この二つを対比して言う時は、
SIerは一次請け、SESは二次請け以降の技術者支援のことを言うことが多いですね。


◆ 請負とは

請負契約とは、契約に定められた期間内に、成果物(システム)を完成し納品、顧客の検品が完了したら報酬を受け取る、という契約になります。

準委任契約との違いをみると、請負契約の特徴が分かります。
・売上計上基準の違い
準委任は定められた期間(通常一か月)で業務を遂行していれば売上となる。請負契約は成果物を納品し、顧客の検品が完了したらようやく売上計上される。(納品した時点で売上計上をする企業もあるそうです。そうした企業は検品ではじかれることがないのでしょう。)

・準委任は善管注意義務が発生
善管注意義務とは、善良なる管理者の注意義務の略称。簡単にいうと誠意をもって業務を遂行して下さいということ。業務怠慢だと善管注意義務違反となり、契約不履行となります。

・請負契約では、瑕疵担保責任が発生
瑕疵担保責任は、2020年4月の民法改正により使われなくなりました。
※瑕疵担保責任と記載のあるWEBサイトは情報が古いです
現在では「契約不適合」が該当します。
顧客がシステムを受け取った(検品が完了した)後、システムに不備がみつかった場合に責任を持つことです。
契約書の記載例
「検収完了から1年以内に甲の責に帰すべき事由を除く契約不適合が発見されたとき、乙は当該契約不適合を無償で修補する。」
要約すると、甲(顧客)の責任ではないシステム障害(バグ)が1年以内に発見された場合は、乙(システム会社)はタダで修正する、ということです。


◆ 派遣とは

派遣契約は、派遣元会社と技術者が雇用関係にあり、技術者は派遣先にて業務を遂行し、派遣元と派遣先が締結する契約のことを言います。

派遣については、ドラマ「ハケンの品格」などでお馴染みですね。

契約自体は準委任と似ています。
定めた期間と時間数に応じて業務への労働を提供します。提供した時間に応じて支払いが発生します。

準委任と派遣の違いは、一か月単位で標準時間を基準に支払われるのが準委任で、時間給での支払いは派遣と記載しているサイトがあります。
しかしこれは誤りです。
確かにそのような契約をすることが多い。
大手N社が時間給での支払いをしています。
払い方に規定はないのです。

では、準委任契約と派遣契約との違いは何でしょうか?
派遣契約と準委任契約の最大の違いは、指揮命令者が誰であるか。
派遣契約の指揮命令者は、契約先の責任者となります。
準委任契約は技術者が所属する会社の責任者となります。

指揮命令者とは何でしょうか?
実際に作業を指示する人です。簡単にいうと、先輩・上司にあたります。

また、準委任契約には派遣契約者より広い裁量が与えられています。
派遣契約には仕事の細かい指示を与えることができます。
準委任契約の場合は業務の依頼となります。業務の依頼のため、作業指示を与えてはいけません。

派遣の技術者は立場が弱くなりがちであり、その立場を守る必要があることから、派遣元会社には厳しい決まり事があります。
派遣元会社は、派遣事業の許可を取得する必要があります。
派遣事業許可は厚生労働省から認可されます。
派遣事業許可を取っていないのに派遣事業をしてはいけません。

以前、このシステム業界では、一般労働者派遣ではなく特定労働者派遣で多くが契約されていました。
しかし2015年派遣法改正により、3年の経過措置をとった2018年9月に一般労働者派遣と特定労働者派遣が統合し労働者派遣となり、特定労働者派遣はなくなりました。
一般労働者派遣は許可制、特定労働者派遣は届出制であったため、特定労働者派遣は簡単に行えました。
この特定労働者派遣がシステム業界の負の温床となっていたのです。


◆基本契約と個別契約

顧客とシステム開発会社の契約は、基本契約と個別契約の定めによります。
基本契約とは、会社対会社が取引する上で基礎となる契約内容をまとめたもの。
個別契約とは、案件ごとに定める契約です。
個別契約で定められていない内容は、基本契約に沿います。

基本契約は必ずしも必要ではなく、個別契約に契約内容が全て書かれていればよいことになります。
しかし企業間で取引が多くなった場合、個別の契約の度に契約内容を記載、確認するのは手間です。個別によらない全般的、基本的な内容について定めた基本契約書を取り交わすことがあります。

新任の営業担当者は、注文書(個別契約)しか見たことがないかもしれません。しかし営業担当するのであれば、基本契約書の内容を押さえておくべきです。

基本契約に定められていない契約は、民法の条文を適用します。
 個別契約(注文書)> 基本契約 > 民法

基本契約には、以下の内容を定められていることが多いです。
  指揮命令、再委託、納品・検品、
  契約不適合、貸与品、知的財産権、
  損害賠償、解約・解除、反社など

個別契約(注文書)には以下の内容が定められていることが多いです。
  委託内容、契約期間、責任者、委託料など

契約を締結する際は、基本契約や個別契約をよく確認しましょう。


◆まとめ

ここまでご理解していただけましたでしょうか?
学生の方やシステム業界未経験の方には難しかったかもしれません。
ここに述べた内容を上司やリーダーが全て熟知しているとは限りません。
契約や法律については業界歴20年の方でも知らない方も多い。少しづつで構わないので、覚える方がよいでしょう。

簡単にまとめます。
SESは、準委任契約のことをいう。
派遣契約と準委任契約では、指揮命令者が異なる。
準委任契約と請負契約では、売上計上のタイミング、善管注意義務、契約不履行など責任範囲が異なる。


◆業務の特性に適した契約とは

上記を読んで準委任契約のあいまいさに疑問を持った方がいるのではないでしょうか?

善管注意義務にさえ気を付ければ、業務の遂行をすればよく、成果物には責任をもたなくてよい。定義があいまいですよね?

ユーザー目線で、請負のメリットをあげます。
・成果物(システム)が納品されなければ、お金を支払わなくてよい
・納品されたシステムにバグが見つかれば無償で修正してもらえる
・技術者やプロジェクトを管理する必要がない

いいことづくめです。
請負契約にできるならば、そうした方がよい。
ではなぜ準委任契約や派遣契約が必要なのでしょうか?
顧問弁護士さんと話した時に納得しました。
・弁護士が裁判の依頼を受けて
 必ず無罪にできるわけではない(委任契約)
・外科医が手術をして
 手術成功を確約できるわけではない(準委任契約)

これにならうと
・技術者がシステム開発をして、
 システム完成を確約できるわけではない
という状況もありえます。


システム完成を確約できない状況とは何か?
・受託する段階で、システム要件が未確定
・システム要件が開発途中で大幅に変更することが予想される
・開発手法や進め方に細かく口を出したい
これらの要件が当てはまるケースでは、準委任契約か派遣契約がよいでしょう。


準委任契約と派遣契約では、どのようなときに使い分ければよいのでしょうか?
派遣契約なら指揮命令者がユーザーのため、細かい指示が可能です。
その代わりマネージメントをユーザー側が行う必要があります。
準委任契約は、指揮命令がユーザーではないため、技術者に広く裁量があります。


ユーザー(発注者)が技術知識(ITリテラシー)が高ければ、派遣契約も選択可能です。ユーザーが自ら業務を指示し、業務遂行のための問いに答え、進捗や課題管理をする。必要な技術者が少なければ派遣契約がよいでしょう。
しかし、ユーザーが技術に詳しくなければ準委任契約の方が適しています。指揮命令者が受託者であるため、メンバーを管理し業務を遂行します。
必要な技術者が多ければ管理工数も多くなります。

派遣契約だけでは必要な技術者が集まらないという実情もあります。
技術者が多いと管理も大変な工数になります。


ここまでご覧いただいたように、委託する業務によって適切な契約、または選択できない契約があることがお分かりいただけたと思います。


ユーザー側では、複数の契約を使い分けることも検討してください。
大きなシステムを構築する際、
・システム要件が決まっているサブシステムがあれば、請負契約
・システム要件の変更が多そうなサブシステムは、準委任契約
・ユーザーのアシスタントとして、派遣契約
などの組み合わせも可能です。


次回は引き続き、それぞれの契約形態のシステム業界における問題点についてお話します。

それでは。

(「IT業界の仕組み その11」に続く)


ここでも語っていきますが
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note 政平秀樹
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